最愛の夫に、運命の番が現れた!

竜也りく

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世界に二人きりみたい

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あの女性、男爵家のご令嬢だったのか。道理で気品があると思った。

「ムリヤリ会わせて番わせようという魂胆だ……! こちらの了解も得ずに押しかけてくるなど礼を失するにも程がある! 」

「ラルフ、落ち着いて」

「ビスチェ……」

落ち着かせようとラルフの背中を撫でたら、ハッとしたようにオレを見た。クシャっと顔を歪めてオレの首に頬を擦り付けると、震える声で呟く。

「ビスチェ、愛している……。ビスチェを裏切るくらいなら死んだほうがマシだ……!」

「ラルフ……」

ラルフが今、本能と戦っているんだと鈍いオレにも分かった。

こんなに苦しそうな顔になるくらい本能に煽られても、それでもそれに抗って、オレと共に居てくれようとするラルフの姿を見て、胸が熱くなった。

オレはバカだ。

ラルフはこんなにもオレを大切に思ってくれてるってのに。

「僕はビスチェ以外と番う気持ちなど毛頭ない! 妻がいる男のもとに押しかけてくるような輩と面会する気もない。一刻も早く邸から追い出してくれ……!」

「かしこまりました」

執事のローグが納得したような声で言って、扉の前の気配が消える。ラルフはホッとしたようにオレの胸に顔を埋めた。

「ビスチェ……君の香りで僕を満たしてくれ」

「ラルフ、嬉しい……」

「ああ、ビスチェの香りだ。爽やかで甘やかな……華やかなのに僕を落ち着かせてくれる。ビスチェの香りをこうして感じていると、いつも不思議と元気が出るんだ。君の香りに勝るものなど何もない」

そういえば、オレンジとシトラスが混ざったみたいな香り、ってラルフはいつも褒めてくれるっけ。

少し元気が出たらしいラルフが、オレたち二人を覆い隠すようにシーツを引っ張り上げる。真っ白なシーツの中でオレたちは目を合わせて微笑み合った。

良かった、ラルフの眉間から皺が消えてる。

お互いの香りだけに包まれた狭い空間で笑い合っていると、まるで子供の頃に二人で探検して回った時に見つけた秘密基地にいる時みたいに幸せで、少しわくわくしてきた。

こんな無邪気な気持ち、久しぶりだ。

「この世界にビスチェと二人きりみたいで興奮する」

……ラルフは、無邪気な気持ちじゃなかったみたいだけど。

まぁ、オレまだ突っ込まれたままだしね。

離さない、って言ってるみたいにぎゅうっと抱きしめられてるのは幸せだ。

「……はぁ、やっと匂いがマシになったな。さすがに結構キツかった」

本能を鷲掴んで揺さぶられるような、強烈な衝動だったって言ってたもんな……。
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