上 下
2 / 30

爆発させるよりゃマシだろ

しおりを挟む
「イケメン、イケメンって言うのやめてくれないかな。俺の名前、佐々木豊って言うんだけど」

「苗字は知ってた」

「じゃあ名前で呼んでくれたっていいだろ。イケメンって言葉、好きじゃない」

拗ねたみたいな声で小さく呟いている。言われるのが嫌になるくらいイケメンって言われるとか、マジで羨ましいんだけどなぁ。でも嫌なんだろうなぁ。

「分かった、もう言わない。つーかあんなキレるほど嫌だったって思わなかったからさ、こっちこそゴメン」

「えっ」

佐々木のおっきな目が、さらに見開かれる。薄暗がりの中でおっきな目だけがなんだかはっきり見えて、オレはちょっと笑ってしまった。

こんな暗がりの中で、目くらいしかはっきり見えてないのに、それでもやっぱりイケメンはイケメンなんだなぁ。なんかいい匂いもするし。

掴みどころも非の打ち所もないと思ってたイケメンがうっかり見せた本音。コイツにも人間らしい感情が見え隠れするのが面白くて、さっきまで怖くて震えてたってのに一気に気持ちが楽になってしまった。

「そんなに嫌ならさ、今みたいにハッキリ言えばいいのに。イケメンって言うなって」

「それ、言った方がイヤミなヤツじゃないか?」

暗闇の中で佐々木が笑った気がしたから、オレも「確かに」って笑った。そりゃあイヤミなヤツだわ。

「ま、オレも悪かったし、今日の事はマジで誰にも言わねぇから安心して」

「……ありがとう」

「まぁもし、また腹の中のモヤモヤ吐き出したくなったら連絡しろよ。オレで良ければ聞くからさ」

「えっ」

しばらくまじまじと俺の顔を凝視してた佐々木は、オレが本気だと分かるとへにゃりと情けない笑顔を見せた。

「いいの? ホントに?」

「うん。今みたく爆発させるよりゃマシだろ」

ちゃちゃっと互いにラインを設定してそのまま別れる。ちなみに外に出てみたら、その時連れ込まれていたのは用具室だった。こんなとこあったんだなぁ、認識もして無かったわ。

それからオレのスマホには、たまーに佐々木から連絡が来るようになった。学校で直接話しかけてこないのは、佐々木いわく自分の友人だと認識されると面倒くさいことに巻き込まれるから、らしい。

うんまぁ、なんでアンタが仲良いのよとかディスられたり、恋の橋渡しをちょいちょい頼まれてげっそりしてそうなオレが目に浮かぶわ。確かに面倒くさい。

ってわけで、佐々木の悩みを聞くのはもっぱらラインだ。

最初はちょっとした愚痴をきくだけだったけど、そのうち雑談も増えてきた。クラスも一緒だから共通の話題もなんとなくあって、学校では一切話さないっていうのにオレ達はちょっとずつ仲良くなっていった。

そうなってみて初めて分かったことは、佐々木が意外と孤独だということだった。

オレにも学校では一切話しかけてこないだけあって、佐々木は本当に自分の言動を制限していた。誰にでも優しく。でも特別に仲がいい人は作らない。できるだけ誰の悪口も言わず、マイナスな言葉を吐かない。

どこでどんな風に曲解されて迷惑をかけるかわからないからだって佐々木は言うけど、そんな気ぃ張って生きてりゃそりゃあストレスも溜まるわ。ただでさえ人の視線が鬱陶しいだろうに。オレには考えられない。


〔だから、宮下とこうして話せるの、すごく嬉しい〕


そんなこっ恥ずかしい言葉をラインで送ってくるくらいには、佐々木は友達との何気ない会話に飢えているらしかった。話すっつってもラインだけどな、というツッコミはもちろん心の中に留めておいた。

そんなこんなですっかりライン友達になってひと月くらい経った頃。

学校から帰ろうかなってタイミングで佐々木からラインが入った。


〔今いい?〕

〔おう、どした?〕

〔結構限界で……できたら直接会って話し聞いて欲しいんだけど……ダメかな〕


オレは文面を二度見する。

「うっわ、珍しー」

思わず声が出た。意表を突いた事言うなぁ。

ていうか限界って。何があったっつーんだ。学校では普通に見えたんだけどな。

ふと、友達になったきっかけの『イケメン滅びろ事件』を思い出す。あの時みたいにいっぱいいっぱいになってるのかも知れない。闇堕ちする前に救わねぇとまたヤバい佐々木が現出してしまう。


〔いいけど、どこで会う?〕

〔誰にも聞かれたくないから、俺の家だと一番ありがたいけど〕


佐々木の家! イケメン王子の家とかレアすぎねぇか。めっちゃ興味あるわ。

警戒心の強い佐々木が家に呼んでくれるという特別感もオマケして、オレは速攻でOKした。そしたらポコン、と地図が送られてくる。

マジか。

〔え、これって地図を頼りに来いってこと?〕

〔ごめん、学校から10分程度でほぼ一本道だから〕

〔マジか〕

〔分かんないとこあったらナビする〕

〔ほんじゃまぁ、行ってみるわ〕

まさかの現地集合かよ。一緒に歩いてるとことか見せないためなのか?? 徹底してんなぁ、と妙なことに感心しつつオレは地図を頼りに佐々木ん家に向かう。

学校から徒歩10分弱のタワマンだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺

高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです

俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!

BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!

不良×平凡

おーか
BL
不良副総長×平凡です。 不良7割、一般生徒3割の不良校に入学した、平凡な香夜(かぐや)は、不良が多いものの絡まれることもなく、過ごしていた。 そんな中で事件が起こった。ある日の放課後、掃除のためにバケツに水をくんで歩いていると、廊下で何かに躓き、バケツは宙を舞う。 その先には、赤髪と青髪の不良様がた。見事にびしょ濡れになった不良様がたに追い掛け回されているところを、不良の副総長である秋夜(しゅうや)に助けられる。 オメガバースは別で新しく書くことにします。 他サイトにも投稿しています。 ※残酷な表現については、不良ものなので念の為つけています。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら

音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。 しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい…… ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが…… だって第三王子には前世の記憶があったから! といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。 濡れ場回にはタイトルに※をいれています おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。 この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...