1 / 30
イケメン滅びろ
しおりを挟む
うわー……。
前方十メートルの光景を見て、オレは心の中で盛大にため息をついた。
だって廊下の向こうから、我が校きってのイケメン佐々木が、きゃいきゃいと姦しく騒ぐ女どもを引き連れてこっちに向かって歩いてくる。大名行列かよ。
きゃはははは、と女達の黄色い笑い声が廊下に響き渡って、こっちのテンションはだだ下がりだ。向こうの眼中には入ってないって分かってんのになんでダメージ受けるのかな。無差別精神攻撃でデバフかかった気分だわ。
ていうかあの中心にいる佐々木はどんな気分なんだろうなぁ。
チラッと見てみたけど、オレ如きにはイケメン王子の心情なんてものは微塵も想像できなかった。
どんな女にも笑顔を絶やさず、穏やかな口調でいつだって爽やかさ100%の神対応らしいという噂は聞く。でも見たところ嬉しそうでもなければ嫌そうでもない。感情のまったく見えない薄ら寒い笑顔で、話だって聞いてんだか聞いてないんだか分からない感じだ。
なんでアレでモテるんだ。
いや、顔がいいからモテるんだってのは分かってるんだが。
佐々木はイケメンではあるが性格にはなんら特徴がない。多分。物腰は穏やかでむしろおとなしいタイプなのかも知れない。なんせオレなんて同じクラスだってのに、授業であいつが当てられでもしない限り声すら聞いたことがないもんな。
今だって陽キャっぽい女達の集団がデカい声で話しかけているのだけが廊下に響き渡ってて、イケメン王子の声はいっさい聞こえない。それでも会話が進んでいってるっぽいから、多分頷いたり小さな声で返事をしたりはしてるんだろう。
ま、どうでもいいか。イケメン王子のお気持ちなんて、オレには一生分かんねぇだろうし。
っつうかあの集団に関わりたくない。多分おんなじ事を思ったんだろうフツメン共が自然と道を開けるせいで、滞りなく廊下を進んできたその御一行は、オレの手前三メートル地点で足を止めた。
満面の笑顔で女どもが手を振り教室へと入っていく。それを笑顔で見送ってからこっちに歩いてくるイケメン王子とすれ違いたくなくて、やり過ごすべくオレは三叉になっている渡り廊下へと出る事にした。
あーうるさかった。
メンタル落ちた。
デバフの影響でなんか疲れた。
それもこれもイケメン過ぎる王子様が女達に魅了攻撃をかけまくっているせいだ。ほぼ八つ当たりなんだけど、つい、そう思っちゃったんだよな。
そして、口から出ちゃったんだ、うっかりと。あの呪いの言葉が。
「チッ、イケメン滅びろ」
次の瞬間だった。
「うわっ!?」
腕をグイッと後ろに引っ張られたかと思ったら、暗がりに引きずり込まれ、目の前で扉が閉まった。
そのまま後ろに引っ張られ、背中がドン!と強く壁にぶち当たる。両肩をグッと抑えられて見上げたら、さっき見たばかりの輝くようなイケメンがオレを憎々しげに見下ろしていた。
「ひえっ……」
「うるさいな……」
「へ……?」
「どいつもこいつもイケメン、イケメンって……好きでこんな顔に産まれたんじゃない」
「……っ」
グッと顔が近づいて、ギラギラとした瞳がオレを睨みつける。
コイツってこんなにデカくて、怪力だったの……? 聞いてねぇよ……。
足が竦む。体が震える。なのに恐怖からなのか、ヤツを見上げたまま目を逸らす事が出来なかった。
薄明かりの中で爛々と光る大きくて形のいい目だけを凝視して、どれくらい時間がたったんだろう。急に、オレの肩を掴んでいた手からふっと力が抜けた。
震えていたせいか力が入らなくなっていたらしいオレの膝がガクリと折れる。
「おっと」
咄嗟に、といった風情でオレを支えたイケメン王子が、さっきまでとは打って変わった優しげな表情でオレに囁く。
「ごめんね」
「……っ」
全身をゾクゾクとした何かが走り抜けた。
怖いわ!
なんなのコイツ!!!
二重人格!?
さっきまで人を殺しそうな顔してたじゃん!
今さらそんな優しそうな笑顔されたってサイコ味しか感じねぇわ!
「イラついてたから、つい心の声が出ちゃったみたいだ。本当にごめん」
謝って、さらににっこりと笑みを深める。恐怖しかない。心の声って言っちゃってるじゃん。めっちゃ本心じゃん。
「……でも、言っとくけど他人に話したりしないでね? 俺、こんなにキレちゃったの初めてだし、誰も信じないと思うから」
うわー……黒い笑顔で予防線張ってきやがる。コイツ、ぱっと見の爽やかさや華やかさと違って、結構腹ん中にはどすグロいモン溜め込んでそうだわ。
こういう適当に発散もできずにどんどん闇を溜め込んでくヤツが、いつかキレて犯罪とか犯しちゃうのかも知れん。せっかくイケメンなのに、業の深いヤツだ。
そう思ったらちょっとだけ可哀想になった。
「言わねぇし、別に」
「そっか、良かった」
ホッとした顔しやがって。脅し慣れてはいないらしい。
「ていうか、イケメンって言われてキレるほど鬱憤が溜まってたのかよ。イケメンも大変なんだな」
言うと、イケメン王子は心底イヤそうな顔をした。
前方十メートルの光景を見て、オレは心の中で盛大にため息をついた。
だって廊下の向こうから、我が校きってのイケメン佐々木が、きゃいきゃいと姦しく騒ぐ女どもを引き連れてこっちに向かって歩いてくる。大名行列かよ。
きゃはははは、と女達の黄色い笑い声が廊下に響き渡って、こっちのテンションはだだ下がりだ。向こうの眼中には入ってないって分かってんのになんでダメージ受けるのかな。無差別精神攻撃でデバフかかった気分だわ。
ていうかあの中心にいる佐々木はどんな気分なんだろうなぁ。
チラッと見てみたけど、オレ如きにはイケメン王子の心情なんてものは微塵も想像できなかった。
どんな女にも笑顔を絶やさず、穏やかな口調でいつだって爽やかさ100%の神対応らしいという噂は聞く。でも見たところ嬉しそうでもなければ嫌そうでもない。感情のまったく見えない薄ら寒い笑顔で、話だって聞いてんだか聞いてないんだか分からない感じだ。
なんでアレでモテるんだ。
いや、顔がいいからモテるんだってのは分かってるんだが。
佐々木はイケメンではあるが性格にはなんら特徴がない。多分。物腰は穏やかでむしろおとなしいタイプなのかも知れない。なんせオレなんて同じクラスだってのに、授業であいつが当てられでもしない限り声すら聞いたことがないもんな。
今だって陽キャっぽい女達の集団がデカい声で話しかけているのだけが廊下に響き渡ってて、イケメン王子の声はいっさい聞こえない。それでも会話が進んでいってるっぽいから、多分頷いたり小さな声で返事をしたりはしてるんだろう。
ま、どうでもいいか。イケメン王子のお気持ちなんて、オレには一生分かんねぇだろうし。
っつうかあの集団に関わりたくない。多分おんなじ事を思ったんだろうフツメン共が自然と道を開けるせいで、滞りなく廊下を進んできたその御一行は、オレの手前三メートル地点で足を止めた。
満面の笑顔で女どもが手を振り教室へと入っていく。それを笑顔で見送ってからこっちに歩いてくるイケメン王子とすれ違いたくなくて、やり過ごすべくオレは三叉になっている渡り廊下へと出る事にした。
あーうるさかった。
メンタル落ちた。
デバフの影響でなんか疲れた。
それもこれもイケメン過ぎる王子様が女達に魅了攻撃をかけまくっているせいだ。ほぼ八つ当たりなんだけど、つい、そう思っちゃったんだよな。
そして、口から出ちゃったんだ、うっかりと。あの呪いの言葉が。
「チッ、イケメン滅びろ」
次の瞬間だった。
「うわっ!?」
腕をグイッと後ろに引っ張られたかと思ったら、暗がりに引きずり込まれ、目の前で扉が閉まった。
そのまま後ろに引っ張られ、背中がドン!と強く壁にぶち当たる。両肩をグッと抑えられて見上げたら、さっき見たばかりの輝くようなイケメンがオレを憎々しげに見下ろしていた。
「ひえっ……」
「うるさいな……」
「へ……?」
「どいつもこいつもイケメン、イケメンって……好きでこんな顔に産まれたんじゃない」
「……っ」
グッと顔が近づいて、ギラギラとした瞳がオレを睨みつける。
コイツってこんなにデカくて、怪力だったの……? 聞いてねぇよ……。
足が竦む。体が震える。なのに恐怖からなのか、ヤツを見上げたまま目を逸らす事が出来なかった。
薄明かりの中で爛々と光る大きくて形のいい目だけを凝視して、どれくらい時間がたったんだろう。急に、オレの肩を掴んでいた手からふっと力が抜けた。
震えていたせいか力が入らなくなっていたらしいオレの膝がガクリと折れる。
「おっと」
咄嗟に、といった風情でオレを支えたイケメン王子が、さっきまでとは打って変わった優しげな表情でオレに囁く。
「ごめんね」
「……っ」
全身をゾクゾクとした何かが走り抜けた。
怖いわ!
なんなのコイツ!!!
二重人格!?
さっきまで人を殺しそうな顔してたじゃん!
今さらそんな優しそうな笑顔されたってサイコ味しか感じねぇわ!
「イラついてたから、つい心の声が出ちゃったみたいだ。本当にごめん」
謝って、さらににっこりと笑みを深める。恐怖しかない。心の声って言っちゃってるじゃん。めっちゃ本心じゃん。
「……でも、言っとくけど他人に話したりしないでね? 俺、こんなにキレちゃったの初めてだし、誰も信じないと思うから」
うわー……黒い笑顔で予防線張ってきやがる。コイツ、ぱっと見の爽やかさや華やかさと違って、結構腹ん中にはどすグロいモン溜め込んでそうだわ。
こういう適当に発散もできずにどんどん闇を溜め込んでくヤツが、いつかキレて犯罪とか犯しちゃうのかも知れん。せっかくイケメンなのに、業の深いヤツだ。
そう思ったらちょっとだけ可哀想になった。
「言わねぇし、別に」
「そっか、良かった」
ホッとした顔しやがって。脅し慣れてはいないらしい。
「ていうか、イケメンって言われてキレるほど鬱憤が溜まってたのかよ。イケメンも大変なんだな」
言うと、イケメン王子は心底イヤそうな顔をした。
45
お気に入りに追加
304
あなたにおすすめの小説
親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話
gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、
立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。
タイトルそのままですみません。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!
汀
BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!
不良×平凡
おーか
BL
不良副総長×平凡です。
不良7割、一般生徒3割の不良校に入学した、平凡な香夜(かぐや)は、不良が多いものの絡まれることもなく、過ごしていた。
そんな中で事件が起こった。ある日の放課後、掃除のためにバケツに水をくんで歩いていると、廊下で何かに躓き、バケツは宙を舞う。
その先には、赤髪と青髪の不良様がた。見事にびしょ濡れになった不良様がたに追い掛け回されているところを、不良の副総長である秋夜(しゅうや)に助けられる。
オメガバースは別で新しく書くことにします。
他サイトにも投稿しています。
※残酷な表現については、不良ものなので念の為つけています。
ヤンデレ王子と哀れなおっさん辺境伯 恋も人生も二度目なら
音無野ウサギ
BL
ある日おっさん辺境伯ゲオハルトは美貌の第三王子リヒトにぺろりと食べられてしまいました。
しかも貴族たちに濡れ場を聞かれてしまい……
ところが権力者による性的搾取かと思われた出来事には実はもう少し深いわけが……
だって第三王子には前世の記憶があったから!
といった感じの話です。おっさんがグチョグチョにされていても許してくださる方どうぞ。
濡れ場回にはタイトルに※をいれています
おっさん企画を知ってから自分なりのおっさん受けってどんな形かなって考えていて生まれた話です。
この作品はムーンライトノベルズでも公開しています。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる