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9 べっ、別に気が付いて欲しかったワケじゃねぇから!
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近衛兵長と二人で、襲撃者の話を聞く事にした。
別にオレ一人だけでも良かったのに、それはマズイって止められたんだ。
仕方なく近衛兵長だけ同席する事になった。
悪いんだが他の近衛は遠慮して貰う。襲撃者がいる部屋からは結構離れた位置で待機する、って事で近衛兵長に指示して貰った。扉の前で待機、ってのも無しだ。
話を聞く相手の口から、どんな話が飛び出すかも分からねぇからな。
前室から牢屋へと続く、細くて長い長い廊下。
逃走防止に役立っているらしいが、実際に歩くと遠くてダルい。
人間が二人で並べばキツキツな印象になるそこを、近衛兵長と並んで歩く。
出来れば近衛兵長にはオレの後ろから付いて来て貰いたいトコなんだが、この人、ちょいちょいオレの尻を掴むからなぁ。
さっきの事もあるし、狭っ苦しいが今は横に並んで貰った。
「そう言えば、エルドレッド……お前、髪型が変わったな。それに、色も違う。」
「なんだ、今頃になって。」
「言っておくが俺は、昨夜から気付いてたぞ? ただ、あの状況でお前サンの髪型がどうのこうの、言ってられないだろうから黙ってただけだ。」
「ハイハイ、そういう事にしておくか。近衛兵長も気遣いで大変だな。」
オレは苦笑いしながら、すっかり元の色に戻した自分の髪の毛先を摘んだ。
昨日の日中までは、オレの髪は銀色だった。
それが今は一見、黒にも見えるぐらいの濃い焦げ茶色になっている。
昨夜、王子の部屋に駆け付けるのが遅れたのは、この髪色を変更する為に割と長時間の離席をしていたからだ。
実はオレの髪色も、髪型も。時には服装や小物に至るまで。偉大なる『キフ神様(キフジンさま)』のご指示によって決められている。
今回の頭髪の変更ももちろん、その内の一つだ。
キフ神様のご指示がある時はいつも、城内にある簡易聖堂や、城下にある大神殿の大聖堂にそのお姿を現されるんだが……。割と、唐突に来る事が多い。
昨日も夕方近くになって急に、しかも当日の、日付が変わる前に変更せよとのご指示だったから、随分と慌てたもんだ。
……オレじゃなくて。オレのスタイリストをやってくれるメイド達が。
「それに、何と言うか……。話し方が変わった所為か、これまでとはちょっと雰囲気も違うな。」
「ん~、まぁな。どっちかって言えば、こっちの方が本来のオレって感じだぞ。」
全てはキフ神様のご指示通り。
銀色にしている時は前髪をオールバックで固めて、話し方も恭しい感じにしていた。
今は、焦げ茶色に戻す時のご指示通り。
髪型は自然な感じでハネていて、口調もざっくばらん。ちょっと乱暴になっても構わねぇ感じの……まぁ要するに、気取っていない普段のオレでいい、って事だ。
「銀髪の姿も賢そうでなかなか良かったが、エルドレッドには今の髪色の方が似合ってる。前よりも身近な感じがするから、俺は今のエルドレッドの方がいいなぁ。俺の好みだ。これが地毛なのか?」
「いや別にアンタの好みとか知らんから。一応、地毛だが。」
他に近衛がいないからって饒舌だな、近衛兵長。
部下の事も普段、この調子で揶揄ってるんじゃねぇだろうな?
「つ~か、オレの髪なんかどうでもいいだろ。流石にアンタは近衛兵長だから、気が付いたがよ。」
「いや、これだけ分かりやすく変わってりゃあ、誰だって気付くだろう。」
「誰だって……か。」
何でもない事のように言う近衛兵長の台詞で、オレはムカ付く事を思い出した。
昨夜のクソ王子だ。
アイツは全く、全然、これっぽっちも気が付いてなかったと思う。
それどころじゃなかった、って言えばその通りなんだが。
「どした? なんか急に不機嫌になったな?」
「……はぁ? 別に?」
「これでも、お前サンの事はそれなりに見てるからな。今、不機嫌になったなぁ、ってぐらいは分かるぞ?」
近衛兵長はなんか知らんがニヤニヤしだす。
オレの肩に手を置くと、ちょっと顔を近付けて近衛兵長は小声になった。
「昨夜、ヴァレンタイン殿下に気付いて貰えなかった、……か?」
「はあっ? ナニ言い出すかと思えば、……何だそれっ?」
余りの馬鹿馬鹿しさでオレは、ちょっとだけ声を荒げた。
近衛兵長はわざとらしく耳を片手で覆ってみせる。
「なんでオレがっ。あのク……っ、……殿下に、髪の色とかっ、気が付かれなかったからって、不機嫌になるワケねぇだろっ。」
「まぁまぁ、そう怒るな。何も言わなかったんだろうが、恐らく殿下も気付い…」
「べっ、別に……! 気が付いて欲しかったワケじゃねぇから! 先に行くぞ!」
まだ肩の上に乗っている近衛兵長の手を払い落として、オレはサッサと駆け出した。
別にオレ一人だけでも良かったのに、それはマズイって止められたんだ。
仕方なく近衛兵長だけ同席する事になった。
悪いんだが他の近衛は遠慮して貰う。襲撃者がいる部屋からは結構離れた位置で待機する、って事で近衛兵長に指示して貰った。扉の前で待機、ってのも無しだ。
話を聞く相手の口から、どんな話が飛び出すかも分からねぇからな。
前室から牢屋へと続く、細くて長い長い廊下。
逃走防止に役立っているらしいが、実際に歩くと遠くてダルい。
人間が二人で並べばキツキツな印象になるそこを、近衛兵長と並んで歩く。
出来れば近衛兵長にはオレの後ろから付いて来て貰いたいトコなんだが、この人、ちょいちょいオレの尻を掴むからなぁ。
さっきの事もあるし、狭っ苦しいが今は横に並んで貰った。
「そう言えば、エルドレッド……お前、髪型が変わったな。それに、色も違う。」
「なんだ、今頃になって。」
「言っておくが俺は、昨夜から気付いてたぞ? ただ、あの状況でお前サンの髪型がどうのこうの、言ってられないだろうから黙ってただけだ。」
「ハイハイ、そういう事にしておくか。近衛兵長も気遣いで大変だな。」
オレは苦笑いしながら、すっかり元の色に戻した自分の髪の毛先を摘んだ。
昨日の日中までは、オレの髪は銀色だった。
それが今は一見、黒にも見えるぐらいの濃い焦げ茶色になっている。
昨夜、王子の部屋に駆け付けるのが遅れたのは、この髪色を変更する為に割と長時間の離席をしていたからだ。
実はオレの髪色も、髪型も。時には服装や小物に至るまで。偉大なる『キフ神様(キフジンさま)』のご指示によって決められている。
今回の頭髪の変更ももちろん、その内の一つだ。
キフ神様のご指示がある時はいつも、城内にある簡易聖堂や、城下にある大神殿の大聖堂にそのお姿を現されるんだが……。割と、唐突に来る事が多い。
昨日も夕方近くになって急に、しかも当日の、日付が変わる前に変更せよとのご指示だったから、随分と慌てたもんだ。
……オレじゃなくて。オレのスタイリストをやってくれるメイド達が。
「それに、何と言うか……。話し方が変わった所為か、これまでとはちょっと雰囲気も違うな。」
「ん~、まぁな。どっちかって言えば、こっちの方が本来のオレって感じだぞ。」
全てはキフ神様のご指示通り。
銀色にしている時は前髪をオールバックで固めて、話し方も恭しい感じにしていた。
今は、焦げ茶色に戻す時のご指示通り。
髪型は自然な感じでハネていて、口調もざっくばらん。ちょっと乱暴になっても構わねぇ感じの……まぁ要するに、気取っていない普段のオレでいい、って事だ。
「銀髪の姿も賢そうでなかなか良かったが、エルドレッドには今の髪色の方が似合ってる。前よりも身近な感じがするから、俺は今のエルドレッドの方がいいなぁ。俺の好みだ。これが地毛なのか?」
「いや別にアンタの好みとか知らんから。一応、地毛だが。」
他に近衛がいないからって饒舌だな、近衛兵長。
部下の事も普段、この調子で揶揄ってるんじゃねぇだろうな?
「つ~か、オレの髪なんかどうでもいいだろ。流石にアンタは近衛兵長だから、気が付いたがよ。」
「いや、これだけ分かりやすく変わってりゃあ、誰だって気付くだろう。」
「誰だって……か。」
何でもない事のように言う近衛兵長の台詞で、オレはムカ付く事を思い出した。
昨夜のクソ王子だ。
アイツは全く、全然、これっぽっちも気が付いてなかったと思う。
それどころじゃなかった、って言えばその通りなんだが。
「どした? なんか急に不機嫌になったな?」
「……はぁ? 別に?」
「これでも、お前サンの事はそれなりに見てるからな。今、不機嫌になったなぁ、ってぐらいは分かるぞ?」
近衛兵長はなんか知らんがニヤニヤしだす。
オレの肩に手を置くと、ちょっと顔を近付けて近衛兵長は小声になった。
「昨夜、ヴァレンタイン殿下に気付いて貰えなかった、……か?」
「はあっ? ナニ言い出すかと思えば、……何だそれっ?」
余りの馬鹿馬鹿しさでオレは、ちょっとだけ声を荒げた。
近衛兵長はわざとらしく耳を片手で覆ってみせる。
「なんでオレがっ。あのク……っ、……殿下に、髪の色とかっ、気が付かれなかったからって、不機嫌になるワケねぇだろっ。」
「まぁまぁ、そう怒るな。何も言わなかったんだろうが、恐らく殿下も気付い…」
「べっ、別に……! 気が付いて欲しかったワケじゃねぇから! 先に行くぞ!」
まだ肩の上に乗っている近衛兵長の手を払い落として、オレはサッサと駆け出した。
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