アイツが女装やめたら世界が滅びるんだってさ

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4 クマチャンを持って来い!

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鮮やかなエメラルドグリーンの瞳がオレを睨んでいる。


クソ王子め……。
口付けながら睨むな。睨むぐらいなら貪るな、しつこい。
せめてもう少しぐらい気持ち良さそうな、ウットリした顔が出来ねぇもんか?
いやダメだ、それはそれで気持ち悪い。前言撤回だ、ウットリするな。



「ん゛っ……!」

オレの考えている事に文句でも言うみたいに。
クソ王子から舌を乱暴に吸われた上に、歯まで当てられた。


痛てぇよ、このクソバカっ!


コッチも噛み返してやろうかと思ったが、その後で噛まれるのも馬鹿馬鹿しい。
相変わらず睨んで来るクソ王子の目を見るからに、その可能性は大いにある。

しゃあねぇ、な……。


「…ん、……ふ。」

睨み返すのを止めて大人しくすれば、クソ王子は分かりやすく調子に乗った。
無遠慮に……それまでも遠慮は無かったような気がするが……好き勝手に口の中を蹂躙される。

もうこの際、無駄な抵抗は諦めて受け入れる。というフリで。
逆にコッチからも舌を絡ませながら、オレはクソ王子の頭に手を回した。
オレの手首には、さっきポケットの中で確認したシュシュを嵌めてある。口付けのどさくさに紛れて、これをクソ王子の髪に着けてやる予定だ。
鮮やかなルビー色の長髪に指を潜り込ませて撫でてやると、そこで初めて、気持ち良さそうにクソ王子の瞳が笑う。オレの咥内で暴れる舌の動きが少しだけ優しくなった。


あぁクソ……本当にこの王子、クソだ。
自分の顔面がどれぐらいのもんか、どんな効果があるかを分かっている。


コイツの中で、魔王の片鱗が暴れ掛けている。
その所為でオレは面倒くさい事になっている。
そんなだっていうのに、ちょっと機嫌良さそうな表情をするだけでコイツは、途端に王子らしく高貴で華やかな印象になる。
オレの好きな……ある意味、騙された顔だ。
本当にこの、ク……王子、顔は良い。



「エルディ。」

声も良かった。……クソ。
頭がカッカし過ぎて忘れていた。


「……でん、か…、……服を…」
「ヴァル、だ。」
「………。」

訂正して来るんじゃねぇよ、ドッチでもいいだろが。
そんな事より今は、さっさとコイツの髪にシュシュを着けねぇと。


「ヴァ、ル。……言え。」
「………ヴァル。」

外国語の発音を教えるみたいに繰り返され、オレは仕方なく応じた。
下らない遣り取りでも時間を稼げる、と思ったからだ。他意は無い。


「エルディ……、お前、俺が好きだろ?」
「……顔に罪は無ぇからな。」
「そうか、好きか。そうか。」

クソ王子は上機嫌で下品な笑みを浮かべる。
そしてまたオレの口を塞いで来た。


今の会話の何がどう喜ばせたんだか。
まぁいい。オレの口で満足するんなら、接吻ぐらいはくれてやる。
クソ王子の中でだいぶ『男』が溜まっているようだからな、それを抜くぐらいはしてやろうか。
でも生ペニスをしゃぶるのは勘弁願いたいな。手でいいだろ。

ただし……コイツにある程度の『枷』を装着した後で、の話になるがな。



オレは再び、そろりそろりとクソ王子の髪を撫でてやる。
あくまでも口付ける雰囲気を盛り上げる為を装いつつ、慎重に髪を緩やかに束ねて行き。それをシュシュで…


「………ぬっ!」

纏めようとした時。
クソ王子が急に、オレの腕を掴んだ。
もうちょっとだったのに。
そして。
焦るオレの手を……、手を……!


滾ったままの、自分の生ペニスに、押し付けた!



「……くぉらあぁっ!」
「ッグ、あ゛ぁ~っ!」

力一杯、握ってやった! ウッカリ、爪も立ってたかも知れん。
抜いてやってもいい、とか考えちゃいたが……もう、……知るかっ。



蹲るクソ野郎を置き去りに、オレは廊下への扉を勢い良く開けた。
すぐ近くで驚いた顔の近衛兵長に、オレは叫ぶ。


「クマチャンを持って来い! 今すぐに、だ!」
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