上 下
2 / 12

2 近衛を食うな、侍従も食うな!

しおりを挟む
イヤイヤ足を踏み入れたクソ第三王子の部屋は静かだった。



「くっ、…グス……。」


あぁ嘘だ。そんなワケねぇか。
静かだったらいいのになぁ~って。ちょっと思っただけだ、ちくしょうが。
部屋にある家具や絨毯に被害が出ていない分だけ、今回はまだマシな方ってか?


押し殺した泣き声に、オレの血圧がグングン上昇するようだ。
襲撃されたにしちゃあ綺麗な室内を、クソ第三王子の姿を探して見回す。

部屋の奥。開け放たれた扉から寝室に入ったオレは。
クソ王子を発見した事を深く、深~く後悔した。



「いっちょ前に泣いてんじゃネェよ。」

クソみたいな煽り文句を吐きながら、クソ王子は寝室の中央で仁王立ちしていた。
それ自体はいいとして。クソ王子は全裸だった。

そのすぐ間近に、恐らく襲撃者と思われる人間。オレに背中を向けて、床に正座している。
どうやらクソ王子の魔法で拘束されているようだ。
嗚咽を漏らして必死に身じろぎしようとしているんだろうが、身体はまったく動かせず、ただ無駄に力が入っただけなのが見て取れる。
それ自体も別に構わないとして。

問題なのは、どう見ても。
襲撃者の顔がありそうな位置に、クソ王子が自分の生ペニスを押し付けている事だ。



駄目だ。あれは完全にアウトだ。
アイツは……あれは……、何をやっているんだ!


オレは頭を掻き毟りたい気分を、どうにか我慢した。
冷静さを、オレが失って、どうするんだ。

深呼吸を二度繰り返したオレは無遠慮に近付いて行く。
クソとはいえ、王子が拘束してるなら襲撃者が動ける事は無いだろうから。
もっとも、動けたとしてもオレは自分の身ぐらいは守れる。



近付いてみると、襲撃者の衣服に見覚えがあるように感じた。
あれは……侍従の制服に見えるんだが……。気の所為だろうか。


「おい、クソ王子……何をやっているんだ?」

冷静なオレからの問い掛けに対し。
クソ王子が。

「ハハっ、ちょっとフェラチオさせようかと思ってぇ~。」
「思ってぇ、じゃねぇっ! 侍従に手ぇ出すとか最悪だからな、お前っ! っつ~か、襲撃者はどうした、何人か居たんだろう!」


ついに冷静さを欠いたオレに、クソ王子はニヤニヤする。
胸倉を掴んでやりたい所なんだが、コイツ、全裸だ。掴む場所が無い。

さては、それを狙って素っ裸になったんじゃねぇだろうな?


「なんで怒ってんデスかぁ~? そ・い・つ、侍従の格好してるけど襲撃者なんデスけどぉ~? 怒りん坊の騎士サマはお馬鹿なんデスねぇ~。」
「くっ……、オレを煽るな!」

ムカ付くなぁ、くっそ、コイツ……!
お前の顔面の造形が良くなかったら今頃、ぶっ飛ばしてるぞ!


「近衛は役に立たねぇわ、もう一人の侍従は邪魔くせぇわ、襲って来た連中はアッタマ沸いたコトばっか言うわ、駆け付けて来てくれたハズのお前には文句言われるわ……もぉう最悪ぅ~。」
「お前に取っちゃ、大した襲撃でもないだろ。……そろそろ服を着たらどうだ?」

ベラベラ喋りながらクソ王子は下品に笑う。
出来れば。余裕があれば。近衛ともう一人の侍従は何処だと尋ねたい所だが。


「ハンっ、断る。これから役立たずどもを、俺の肉棒の役に立て…」
「…ベッドかっ!」

天蓋付きベッドへ振り向くと確かに、二人ぐらい寝ていそうな膨らみが。
なんで今オレが思いっ切りベッドに顔を向けたかと言うと、クソ王子の元気過ぎる屹立を視界から追い出す為だ。


「ナンならお前もどうだ? 俺が近衛を食ってる間、侍従を食っていいぜ?」
「近衛を食うな! ……あ、侍従も食うな!」


ヤバい。クソ王子の思考がエロエロしく、かつ荒々しくなっている。
……ドレスを脱いでから、どれだけ時間が経ったんだ?
しおりを挟む

処理中です...