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1 ここを開けろ!
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オレは王城の廊下を走る。
廊下を走るな? うるせぇ、コッチは今、モーレツに急いでンだよっ!
緊急事態を伝えに来た侍女はその場に置いて来た。
擦れ違う使用人達が慌てて道を空ける中、ガッガッガッ……とブーツを派手に慣らして駆け抜ける。
目指すは、この国の第三王子様の個人部屋だ。
辿り着いた部屋の前には、扉の中を警戒しながらも落ち着かない様子の男が数人。いずれもすぐに戦えそうな兵士の格好をしている。
その内の一人にオレは離れた位置から声を掛ける。
「おい、どうなっている!」
相手の方がオレよりずっと位の高い近衛兵だ。しかも、近衛兵長。
本来だったらこんな口調で話し掛けられる相手じゃないが、今は緊急事態だ。構ってられるか。
声を掛けられた近衛兵長は、悲痛な表情でオレを振り返った。
「襲撃者の正確な人数は分からない。恐らく四~五人程度。」
「…クソ!」
「殿下は中にいる。それと、近衛が一名に、侍従が二名。安否は……祈るしかない。」
「チッ! ……開けろ!」
オレは声を荒げて扉を足蹴にする。
それを見た近衛兵長が腕を広げてオレを制止しようとした。
「無駄だ! 先程から何度も開けようと試みたが開かないんだ。全く、ビクともしない。中からも何も音がせず、様子を窺う事さえ出来な…」
「そんな事は分かっている! だからっ、オレがこうして蹴ってるん……あぁもう、離せっ!」
説明してやればいいんだろうが、そんなヒマは無い。
にわかには信じられないだろうし、全てを説明する気も無い。
説明してやるワケにも行かないんだったと、途中まで喋ってから気が付いた。
オレは、この扉を開けられるんだ。
正確に言えば。扉を封鎖している本人……クソ第三王子に、オレが来た事を伝えればアイツが扉の封鎖を解除するだろう。
だがそれを、近衛兵長に伝えるワケには行かないんだった。
襲撃を受けた被害者であるハズの第三王子が、なんでそんな事をするんだって話になってしまう。
事情を知っている特定の者達以外には。第三王子サマはあくまでも、何かしらの理由で女性の格好をさせられているが、理性的で穏やかで心優しいお人でなければならないのだから。
頭に血が上り過ぎた所為で忘れていた。
クソ第三王子に感化されたのか。
今日はこの騒ぎが治まったら、一人反省会だな。……治まるんだろうな、おい。
「あっ、けっ、ろぉっ! ……開けったら、開けろ!」
ガッ。ガッ。ガッ、ガガガッ……ピンッ。
容赦なくカカト蹴りを繰り出していたオレは、オレだけには。
扉の開閉を封じている障壁が部分的に消滅した事が分かった。
素早くドアノブを引っ掴む。
押してみると簡単に開いた。
「オレが呼ぶまでは絶対に入って来るな!」
驚いている近衛兵長以下数人の男達に、それだけ言い捨てて。
オレは内心イヤイヤ、部屋の中に滑り込んだ。
廊下を走るな? うるせぇ、コッチは今、モーレツに急いでンだよっ!
緊急事態を伝えに来た侍女はその場に置いて来た。
擦れ違う使用人達が慌てて道を空ける中、ガッガッガッ……とブーツを派手に慣らして駆け抜ける。
目指すは、この国の第三王子様の個人部屋だ。
辿り着いた部屋の前には、扉の中を警戒しながらも落ち着かない様子の男が数人。いずれもすぐに戦えそうな兵士の格好をしている。
その内の一人にオレは離れた位置から声を掛ける。
「おい、どうなっている!」
相手の方がオレよりずっと位の高い近衛兵だ。しかも、近衛兵長。
本来だったらこんな口調で話し掛けられる相手じゃないが、今は緊急事態だ。構ってられるか。
声を掛けられた近衛兵長は、悲痛な表情でオレを振り返った。
「襲撃者の正確な人数は分からない。恐らく四~五人程度。」
「…クソ!」
「殿下は中にいる。それと、近衛が一名に、侍従が二名。安否は……祈るしかない。」
「チッ! ……開けろ!」
オレは声を荒げて扉を足蹴にする。
それを見た近衛兵長が腕を広げてオレを制止しようとした。
「無駄だ! 先程から何度も開けようと試みたが開かないんだ。全く、ビクともしない。中からも何も音がせず、様子を窺う事さえ出来な…」
「そんな事は分かっている! だからっ、オレがこうして蹴ってるん……あぁもう、離せっ!」
説明してやればいいんだろうが、そんなヒマは無い。
にわかには信じられないだろうし、全てを説明する気も無い。
説明してやるワケにも行かないんだったと、途中まで喋ってから気が付いた。
オレは、この扉を開けられるんだ。
正確に言えば。扉を封鎖している本人……クソ第三王子に、オレが来た事を伝えればアイツが扉の封鎖を解除するだろう。
だがそれを、近衛兵長に伝えるワケには行かないんだった。
襲撃を受けた被害者であるハズの第三王子が、なんでそんな事をするんだって話になってしまう。
事情を知っている特定の者達以外には。第三王子サマはあくまでも、何かしらの理由で女性の格好をさせられているが、理性的で穏やかで心優しいお人でなければならないのだから。
頭に血が上り過ぎた所為で忘れていた。
クソ第三王子に感化されたのか。
今日はこの騒ぎが治まったら、一人反省会だな。……治まるんだろうな、おい。
「あっ、けっ、ろぉっ! ……開けったら、開けろ!」
ガッ。ガッ。ガッ、ガガガッ……ピンッ。
容赦なくカカト蹴りを繰り出していたオレは、オレだけには。
扉の開閉を封じている障壁が部分的に消滅した事が分かった。
素早くドアノブを引っ掴む。
押してみると簡単に開いた。
「オレが呼ぶまでは絶対に入って来るな!」
驚いている近衛兵長以下数人の男達に、それだけ言い捨てて。
オレは内心イヤイヤ、部屋の中に滑り込んだ。
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