アイツが女装やめたら世界が滅びるんだってさ

左側

文字の大きさ
上 下
1 / 12

1 ここを開けろ!

しおりを挟む
オレは王城の廊下を走る。


廊下を走るな? うるせぇ、コッチは今、モーレツに急いでンだよっ!


緊急事態を伝えに来た侍女はその場に置いて来た。
擦れ違う使用人達が慌てて道を空ける中、ガッガッガッ……とブーツを派手に慣らして駆け抜ける。
目指すは、この国の第三王子様の個人部屋だ。




辿り着いた部屋の前には、扉の中を警戒しながらも落ち着かない様子の男が数人。いずれもすぐに戦えそうな兵士の格好をしている。
その内の一人にオレは離れた位置から声を掛ける。


「おい、どうなっている!」

相手の方がオレよりずっと位の高い近衛兵だ。しかも、近衛兵長。
本来だったらこんな口調で話し掛けられる相手じゃないが、今は緊急事態だ。構ってられるか。


声を掛けられた近衛兵長は、悲痛な表情でオレを振り返った。


「襲撃者の正確な人数は分からない。恐らく四~五人程度。」
「…クソ!」
「殿下は中にいる。それと、近衛が一名に、侍従が二名。安否は……祈るしかない。」
「チッ! ……開けろ!」

オレは声を荒げて扉を足蹴にする。
それを見た近衛兵長が腕を広げてオレを制止しようとした。


「無駄だ! 先程から何度も開けようと試みたが開かないんだ。全く、ビクともしない。中からも何も音がせず、様子を窺う事さえ出来な…」
「そんな事は分かっている! だからっ、オレがこうして蹴ってるん……あぁもう、離せっ!」

説明してやればいいんだろうが、そんなヒマは無い。
にわかには信じられないだろうし、全てを説明する気も無い。
説明してやるワケにも行かないんだったと、途中まで喋ってから気が付いた。


オレは、この扉を開けられるんだ。
正確に言えば。扉を封鎖している本人……クソ第三王子に、オレが来た事を伝えればアイツが扉の封鎖を解除するだろう。

だがそれを、近衛兵長に伝えるワケには行かないんだった。
襲撃を受けた被害者であるハズの第三王子が、なんでそんな事をするんだって話になってしまう。
事情を知っている特定の者達以外には。第三王子サマはあくまでも、何かしらの理由で女性の格好をさせられているが、理性的で穏やかで心優しいお人でなければならないのだから。


頭に血が上り過ぎた所為で忘れていた。
クソ第三王子に感化されたのか。
今日はこの騒ぎが治まったら、一人反省会だな。……治まるんだろうな、おい。



「あっ、けっ、ろぉっ! ……開けったら、開けろ!」

ガッ。ガッ。ガッ、ガガガッ……ピンッ。


容赦なくカカト蹴りを繰り出していたオレは、オレだけには。
扉の開閉を封じている障壁が部分的に消滅した事が分かった。

素早くドアノブを引っ掴む。
押してみると簡単に開いた。


「オレが呼ぶまでは絶対に入って来るな!」

驚いている近衛兵長以下数人の男達に、それだけ言い捨てて。
オレは内心イヤイヤ、部屋の中に滑り込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

完成した犬は新たな地獄が待つ飼育部屋へと連れ戻される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

処理中です...