上 下
39 / 44
本編3 残念な男

33・ロイズは時々近くで叱ってくれ @泉州

しおりを挟む
「初日にあんなザマになっちまってよ。それから今日まで、それなりに鍛錬してはみたが……正直言ってオレには何の成長も感じられねぇんだ。無駄飯を食わせて貰うのは性に合わねぇ。なんかオレに、やれそうな事……何でもいいから、やらせて貰えねぇか?」

ロイズに良い所を見せる為にも、オレはシッカリ働かねぇとダメなんだ。
だから概ね、こんな感じの内容を話した。

実際は台詞にだいぶ咳が混じってたが、そこは気にすンな。


「まずは実戦で、か……。確かにナシじゃねぇが……あまり焦るなよ? まぁ一応、上には伝えておいてやる。」
「あ゛ぁ、頼む……ゴホっ。」

とりあえず用件は伝えた。
後は恐らく、上層部の判断待ち、ってヤツだろう。



「今日はこのまま、大人しくしてるんだぞ?」
「お水も飲んでくださいよ? 後でご飯、持って来ますね。」

オレの頭をポフポフと撫でてからイーシャが立ち上がる。
一緒に立ち上がったカカシャは、ちょっと怒り顔だった。

なんだか弟に叱られてるみてぇだな。
だが風邪をひいてるオレの部屋に、カカシャに食事を運ばせるのは申し訳ねぇ。


「メシは後で、食堂に行く。大人しく寝てりゃ夕方には治るだろ。」
「だ、め、で、すっ。無理しないでください。ボク、持って来ますから、ね?」
「……悪い。」

そこまで言われちゃ、厚意に甘えるしかねぇな。
オレが頷くとカカシャは満足そうに笑った。
年下の従兄弟の面倒を見て、お兄ちゃんぶってる一人っ子みてぇな顔になってた。



苦笑いを浮かべたイーシャがカカシャに声を掛けて、出入口のドアを開ける。
開けた瞬間、イーシャは驚いたような顔で立ち止まった。
オレも驚いた。
そしてソワソワと落ち着かねぇ気分になった。

ドアの向こう側にロイズが立ってたからだ。


「あぁ……ロイズ、お前も来たのか。」
「カカシャが勇者の看病してるって聞いて……。神官長も、いたんっすね。」

イーシャに答えるロイズは不機嫌そうだった。
恐らくだがロイズは、教会の上層部の連中に言われて来たんだろう。
役に立たなくてもオレは異世界人だから。
オレがロイズに惚れてるってのは、誰が見ても明らかだ。機嫌を取りつつ、様子を探るにはちょうど良い、ってか。

だから、ロイズに嫌な事をさせンな、って……言っといたんだがなぁ。
まぁ……オレの言う事なんざ聞かねぇか。あのザマ、だったもんな。


「ロイズさん。勇者さまは風邪のひき始めみたいです。」
「勇者のクセして風邪かよ……。」

いや、ホント。マジで面目ねぇわ。
こんなんでオレ、よくも「勇者をやりに来た」なんて言えたモンだ。
いやぁ~……なんつ~か、『知らねぇ』ってのはある意味、最強だな。怖いもの知らずだ。そんでもって恥知らずでもある。


「勇者さまだって風邪ぐらいひきますよ。」

こんなオレが『勇者』って呼ばれてる。
カカシャだけじゃねぇ。あんまり言わねぇがイーシャも、愛しのロイズも、司教だの司祭だのまでがオレを勇者って呼ぶ。
本来なら遠慮するべきなんだろうが、それをオレは受け入れてた。
自分への戒めとして、だ。呼ばれるたびに気持ちが引き締まるからな。



イーシャとカカシャの横をすり抜けたロイズがコッチにやって来る。
オレは慌てて起き上がった。

ロイズの前でダラダラ寝てられねぇだろ。


「起きなくていいって……。」
「わざわざ来てくれたのか、ロイズ。大丈夫だ、別に大した事じゃ…」
「具合が悪いのに無理して起き上がるなって言ってるんだっ。」

ちょっと上体を起こしただけだってのに、ロイズにまで寝かし付けられる。
起き上がってた方がロイズの顔が見やすくて良いんだが、ロイズが寝てろって言うなら大人しく寝ておく。


久し振りに正面から見るロイズはやっぱり可愛かった。
機嫌が悪そうに眉間が皺寄ってるが、その表情がオレを心配してそうに見える。

あぁやっぱり……コソコソ見るより顔を合わせる方がずっといいな。
もっと実力を付けて、立派に働けるようになってから。とか思ってたが……。


「ロイズ……やっぱり好きだ。」
「おれは嫌いだ。」
「お、おぅ……。」

キッパリと言い放つロイズの清々しさも、随分と久し振りだがイイモンだな。
その気も無ぇ奴に紛らわしい態度を取らねぇ、容赦の無さもロイズの良い所だぜ。



「お前、……無理しないって、おれと約束しただろっ。それなのに、倒れるまで無理して……。しかもその後だって、無茶な鍛錬とかして。」

ロイズはオレの様子を知ってたらしい。
意外だった。
周囲の連中はともかくロイズは、オレに何の興味も無ぇだろうって思ってたから、単純に嬉しい。


「約束を破る奴と、そうやって…………そうやって、平気そうなフリして無理する奴。おれは大嫌いだっ。」
「ロイズ……。わ……分かった、無理はしねぇ。」
「鍛錬するなとは言わないけど無茶もするな、ちゃんと休みも取れっ。……嘘つきも嫌いだからな。」
「分かった約束する。」

きっと自分じゃ気付かねぇ内に、ハタから見りゃ無理してたんだろな。
わざわざ部屋に来てくれたロイズに叱られちゃあ、約束するしかねぇだろ。


「それと、もう一つ…」
「何だ? 何でも言ってくれ、ロイズ。」
「おれの部屋の前に佇むのを止めろ。流石に本気で気持ち悪い。」
「あぁ………、……わ、かった………。」

バレてたらしい。
嫌がられちゃ、頷くしかねぇ。


さらば……オレの、憩いのひと時よ……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

賢者となって逆行したら「稀代のたらし」だと言われるようになりました。

かるぼん
BL
******************** ヴィンセント・ウィンバークの最悪の人生はやはり最悪の形で終わりを迎えた。 監禁され、牢獄の中で誰にも看取られず、ひとり悲しくこの生を終える。 もう一度、やり直せたなら… そう思いながら遠のく意識に身をゆだね…… 気が付くと「最悪」の始まりだった子ども時代に逆行していた。 逆行したヴィンセントは今回こそ、後悔のない人生を送ることを固く決意し二度目となる新たな人生を歩み始めた。 自分の最悪だった人生を回収していく過程で、逆行前には得られなかった多くの大事な人と出会う。 孤独だったヴィンセントにとって、とても貴重でありがたい存在。 しかし彼らは口をそろえてこう言うのだ 「君は稀代のたらしだね。」 ほのかにBLが漂う、逆行やり直し系ファンタジー! よろしくお願い致します!! ********************

俺のまったり生活はどこへ?

グランラババー
BL
   異世界に転生したリューイは、前世での死因を鑑みて、今世は若いうちだけ頑張って仕事をして、不労所得獲得を目指し、20代後半からはのんびり、まったり生活することにする。  しかし、次代の王となる第一王子に気に入られたり、伝説のドラゴンを倒したりと、今世も仕事からは逃れられそうにない。    さて、リューイは無事に不労所得獲得と、のんびり、まったり生活を実現できるのか? 「俺と第一王子との婚約なんて聞いてない!!」   BLではありますが、軽い恋愛要素があるぐらいで、R18には至りません。  以前は別の名前で投稿してたのですが、小説の内容がどうしても題名に沿わなくなってしまったため、題名を変更しました。    題名変更に伴い、小説の内容を少しずつ変更していきます。  小説の修正が終わりましたら、新章を投稿していきたいと思っています。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

【蒼き月の輪舞】 モブにいきなりモテ期がきました。そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!

黒木  鳴
BL
「これが人生に三回訪れるモテ期とかいうものなのか……?そもそもコレ、BLゲームじゃなかったよな?!そして俺はモブっ!!」アクションゲームの世界に転生した主人公ラファエル。ゲームのキャラでもない彼は清く正しいモブ人生を謳歌していた。なのにうっかりゲームキャラのイケメン様方とお近づきになってしまい……。実は有能な無自覚系お色気包容主人公が年下イケメンに懐かれ、最強隊長には迫られ、しかも王子や戦闘部隊の面々にスカウトされます。受け、攻め、人材としても色んな意味で突然のモテ期を迎えたラファエル。生態系トップのイケメン様たちに狙われたモブの運命は……?!固定CPは主人公×年下侯爵子息。くっついてからは甘めの溺愛。

異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。

蒼猫
BL
聖女召喚に巻き込まれた就活中の27歳、桜樹 海。 見知らぬ土地に飛ばされて困惑しているうちに、聖女としてもてはやされる女子高生にはストーカー扱いをされ、聖女を召喚した王様と魔道士には邪魔者扱いをされる。元いた世界でもモブだったけど、異世界に来てもモブなら俺の存在意義は?と悩むも……。 暗雲に覆われた城下町を復興支援しながら、騎士団長と愛を育む!? 山あり?谷あり?な異世界転移物語、ここにて開幕! 18禁要素がある話は※で表します。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

処理中です...