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本編1 警戒される男

9・混乱の予感、再び  俯瞰視点

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 *  *   * 泉州が訪れる少し前の早朝 *   *  *



その日も朝から快晴だった。
ドゥーサンイーツ王国の王都・城下町にある神殿前の広々とした庭園は、今日もまたそれなりに多くの人々で賑わいを見せていた。
大聖堂では定例の『特礼拝(とくれいはい)』が執り行われる予定だ。



二か月前に行われた特礼拝では、主席司祭であるタカロキが自称・異世界から来た勇者に攫われるという大事件が起きたばかり。
しかもタカロキは未だに戻って来ていない。その生死すら分からぬままだ。

当然の事ながら、今回は延期すべき、もしくは中止すべきではという意見が出たのだが……、多少は揉めた末に、今回も通常通りに行われる事となった。
理由としては。
あんな事件があったからこそ、逆に。だからこそ今、神への祈りの儀式を止めては行けない。という意見もまた、同じぐらいにあったからだ。それはそれで間違いなく正論の一つではある。
何より、反対意見を出したのは『タカロキ拉致事件』を目の当たりにした、この神殿に勤めている者達だけだった事も大きな要因だろう。
第三王子であるティーロッカ殿下は、王族であるが故に、教会内の祭事について意見する事を差し控えていた。


タカロキを攫った男が自らの事を「異世界から来た勇者」と称した事については、この教会の司教を通じて、神聖都市ノモイマウにあるノモイマウ教会に報告されている。
教会の建物内で起こった異変について報告する義務と同時に、万が一でも男の言う事が本当であるならば、異世界人について報告する義務も生じるからだ。
更に言えば、異世界人の取扱いをどこの国よりも知っているだろうノモイマウ教会であれば、タカロキを救う為の方法を授けて貰えるのではないかと期待したからだ。


しかしノモイマウ教会は、タカロキを攫った男を『異世界人』とは認定しなかった。

異世界人と思われる当人がいないからという理由もあるが、その男が異世界から『来るところ』を、誰もしっかりとは見ていないのだ。光が眩しかったからというのは理由にならなかった。
しかもその男は、召喚儀式を行ったわけでもないのに勇者を自称したり、あまつさえ、主席司祭を攫うなど……何から何まで、教会としては認められない事だらけなのだから。


大陸内の全ての教会の、国家の壁も越えた総元締めとも言える、ノモイマウ教会が否定した事に楯突くなど出来ない。
タカロキは異世界人ではなく、特礼拝に紛れ込んだ頭のおかしな男に攫われた。という事にされた。
そういう話に落ち着いてしまえば、他の国の教会等においそれと救援を求める事も出来なくなった。
ドゥーサンイーツ王国にも魔術師はいる。まずは自国内で精一杯の救助活動を行うのが先ではないか。と言われるだけだから。



特礼拝が行われる大聖堂の内外で警備に当たっている神官兵達は、今日も張り詰めた緊張感でピリ付いている。
事件があった二か月前と同様に、今回もティーロッカ殿下が参加しているのだ。
護衛として来た騎士の数は前回より少し増えている。
大聖堂内にいる王子のそばにも、前回は二人だった護衛騎士が四人になった。




もしも、また異世界人が来たら……あの時と同じような性格、性能の男が来たら。
とても太刀打ち出来るものではない……。



誰もが思ってはいたが、決して口に出す者はいなかった。
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