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第三章 この国に来た頃まで戻って
85 貰える時間
しおりを挟む切々と訴え掛ける言葉に力が入ってるランバルト様。
その様子からは、僕を揶揄ったり冗談を言ったり、ましてやリュエヌ様の評価を下げてやろうって悪だくみのようなものは感じられなくて。
そもそもランバルト様が、僕にリュエヌ様の悪印象を植え付けたところで、どんなメリットがあるのかも思い付かない。
「……とは言え。実際に襲われたセルゲイは1人だけで、つまり襲ったリュエヌも1人なわけで……リュエヌの全員がそうだと確定してるわけでもないんですけど、用心するに越した事は無いですよ。ちょっとずつ違いがあっても、根っこは同じリュエヌなんですから。」
興奮しながらも、ランバルト様は一応フォローもしてるらしい。
リュエヌの全員が全員、年下を襲う変態じゃない。かも知れないって。
それを聞いて、僕は少しホッとした。
だって僕はそんなリュエヌ様を知らないし、やらかすような人だとも思えないし。
だけど……。
僕はふと思い出した。
そう言えば、僕をお祝いしてくれるランチで、ジェニ様が話してた。
宰相閣下の次男が何故だかリュエヌ様を嫌ってる、って。
あれがセルゲイ・ランバルト様のことで。
しかも、どうやらリュエヌ様には覚えが無い……。確か、そんな風に言ってた。
だからもしかしたら。
繰り返してた人生の中で、僕が忘れてる、記憶に無いタイミングで。
たった1回だけでも、2人の間で、本当にそんなことがあったのかも知れない。
一体どういうことなのか。ちゃんと聞いてあげた方がいいのか、それともそこは深く聞かないでおいた方がいいのか。
もう少し時間があれば、そこら辺も含めて話せるとは思うんだけど。
でも、今は……結構な時間も経っちゃってるし。
ホゼ達とあんまり長い時間、離れてるのも良くないから。
「あの……話の途中ですみません。そろそろ僕、ホゼ達と合流しないと。」
「そうですね。小さな子供はもう待ってられないですね。もっと色々、話したい事は沢山あるんで、近い内にまた会う機会を作る。って事でいいです?」
「え、あの……はい、また……。」
ランバルト様が話したい色々って。
聞きたいような、聞きたくないような。
何にしても穏やかじゃなさそうな気がするけど、「いいえ」とは言えないよね。
「連絡する際は、キミの職場に手紙を届けさせるんで。」
「分かりました。じゃあ、そろそろ失礼します。」
住民の職業も暗記してるって言ってたから、僕の職場もご存知、みたい。
連行されたときとは違う理由で、ある意味ドキドキしながら。
僕はランバルト侯爵家の馬車から降りた。
神殿の敷地は広かったけど、どうにかホゼ達と合流できた。
別れる前にランバルト様が指し示してた、小さな子供が転げ回っても問題無い芝生のところにいたから。
「ゆあーっ、こっち、こっちだよ!」
本当に転げ回って遊んでたホゼが、僕に気が付いて大きく手を振る。
先輩も分かりやすいように腕を上げて、僕を手招きしてる。
僕はホゼの髪の毛に引っ付いてる草を摘み取った。
「お帰りなさい、ゆあ、お話は終わった?」
「うん、終わったよ。整理券は貰えたの?」
「うんっ、ホゼ、ちゃんと貰えたよっ。ユアの分もっ。……ねっ?」
「あぁ、この通りな。」
ホゼがニコニコしながら、先輩を見た。
先輩は、懐に仕舞い込んであった整理券を見せてくれた。
3枚あって。どうやら全員の分を貰えたみたい。
失くしたらいけないから、先輩がまとめて持っててくれてるんだ。
「良かったぁ。ありがとう。」
「ちょうどタイミングが良かったぞ、ユア。もうそろそろ配布の時間だ。」
「そうだったの? 配る時間が決まってるの、知らなくて……。ギリギリだけど、間に合って良かったよ。」
「あのね、あの大きなバルコニーが見える場所でね、輪になるんだって~。」
ホゼが神殿の上の方を指差した。
人々を見渡せるようなバルコニーがあって、その周辺には人が集まって来てる。
「ユアとも合流したし、そろそろ行くか。ホゼ、手ぇ出せ。」
「うんっ。ユアも。」
またホゼを真ん中にして、3人で手を繋いだ。
僕と先輩はお互いに顔を見合わせて、頷き合う。
人で混雑してる場所へ行くから、しっかりとホゼを捕まえておかなくちゃ。
大雑把な輪っかのような感じで大勢が集まってた。
バルコニーを気にして、そこに誰かが来るのを待ってるみたい。
その人達と一緒になって、僕達も待ってる。
「ねぇ? ここで待ってたら配布されるの? それとも、その前に何かある?」
具体的に何を待ってるのかを知らない僕は、ホゼに聞いてみた。
ホゼは今、先輩に肩車して貰ってる。
手を繋ぐよりも、こっちの方が安全だって判断したから。
「あのね、ギャン泣きの零れた祝福のお菓子を貰えるんだよ。」
「……ギャン泣き?」
「おいおい、ホゼ。それを言うなら、やんごとなき御方より溢れ出たる祝福だろ。」
聞いた言葉の意味が分からなかった僕に、先輩が言い直してくれた。
良かった。ギャン泣きの祝福って何だろうって、真剣に考えそうになったよ。
……あれ、ちょっと待って。
やんごとなき御方って言ったら。
「もしかして、王族じゃ…」
「王族だろうな。けど流石に国王陛下じゃないだろ。」
だったら、もう、決まってるじゃない。
あのバルコニーに、誰が来るのかなんて。
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