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第三章 この国に来た頃まで戻って

82 次元を超える記憶力

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「んん……? ……あぁ、そっか、そういう事か。」

食い違いに戸惑ったままの僕と違って、ランバルト様は状況を把握したみたい。

何かを納得したように、ランバルト様は2度、3度と頷いて。


「つまりキミは、自分以外のユアと自分を同一に考えるタイプ、なんですね。」

「自分以外、の……?」

「つまり簡単に言うと、人生が繰り返してると考えてる。だから今回とか前回とか、そういう話になるわけだ。なるほど、繰り返しか……。そういう考え方もあるんですねー。」

僕以外のユア。

そんなこと、考えもしなかった。

だってあの気持ちは……。

悲しかったり、悔しかったり、いっぱい悩んだりもした。分不相応だって分かってても、それでも何度も、エドゥアルド王子を好きになってた。

あの感情が僕とは別な人のものだなんて、とても思えない。


明らかに納得してない風の僕に、ランバルト様は笑顔を向けた。

こう言ったら失礼だけど、意外なくらい、まるで僕を安心させるような笑顔を。


「それにしても、ユア。キミは随分とめんどくさい考え方してるんですね。」

「め…っ、めんどくさい、って……。」

「記憶だって多少は違うんだし、いっそ、別人格って思った方が良くないです?」

えっ? そんな優し気な顔で、そんなこと言う?

自分では別にどうとも思ってなかったのに、そこまでハッキリ言われると、それはそれでショックが大きいんだけど。


ショックでちょっと呆然としてる僕をよそに、ランバルト様は笑顔を崩さない。


「だってそうでしょ。エドゥアルド王子とのあれこれとか、あの全部が自分の体験だと思ってるなら、ユアはつらくないですか?」

「それは……でも…」

「さて、と。話が噛み合わない原因が分かったところで、今のぼく達の状況について話しときますか。ぼくの考えでは、世界って、沢山あるんです。ユアは "黄泉がえり" って聞いた事あります?」

パシッと手を叩いて、話題を変えられてしまった。

しかもいきなり、なんだか壮大そうな話で。


話の途中で口出しするなんて、僕は出来なくて。

ただひたすら、説明を聞いてたんだけど。

それは、僕が思ったことも無い考え方だった。


ランバルト様が言うには。

次元を超えた先に、僕達がいるのとは別な世界があるらしい。

"黄泉がえり" で表れる人格も、その別世界から来る人がいるんだって。

文化も歴史も全く異なる、まさに別世界って感じのところもあるけど。この世界と時間軸が少しずれてて、存在する国や住んでる人々はほとんど変わらないような世界が、いくつもあるんだって。

要するにバリエーションらしい。色違い、サイズ違い、みたいな。

全く新しい世界を最初から作るよりも、基本になるものを少し変えて別世界にした方が、手間が省けるからだ……って。

沢山ある世界の中には、セルゲイ・ランバルトもユアもいる世界があるって。

人格の根っこが同じでも、記憶や経験が少しずつ違うから完全な同一人物とは言えない……らしい。


「ぼくの記憶力は人間の限界を軽く超えてるんですけど、そうした次元の壁も越えてるんです。ぼくは他の世界の、ぼく以外のセルゲイ・ランバルトの記憶がある。とても鮮明に。」

「そ、そんな……。」

「信じられないですか? それも仕方ないですけどね。ぼくはユアの前で驚異的な記憶力を発揮してないですから。あ、いや、……そうだ、これはどうです? ホゼが6歳だって言った件。あの時、ホゼは自分の名前を言ったけど、年齢までは言ってなかったですよね。ぼくがホゼの年齢を言えたのは、ホゼが都市の住民だからです。ぼく、住民全員の名前と生年月日、住居、職業、その他特筆すべき点など、全部覚えてるんで。」

それはそれで物凄い記憶力なのを、涼しい顔でさらりと言われた。

驚き過ぎて、僕は目を丸くする。


「記憶力について、信じて貰えたようですね。」

「いえ、記憶力を疑ったわけじゃいんですけど……あの、自分で調べたんですか?」

「自分でも調べるし、侍従を使ったり、です。」

それを聞いた僕は、見ず知らずの侍従さんに同情した。

決して必要な情報とも思えないし、物凄い手間だろうから。


「それはそうとして……何を疑ったんです?」

「はい?」

「記憶力は疑ってない、って言いました。では、何を?」

聞き逃しては貰えなさそうな雰囲気。

だから正直に話すことにした。


「他の世界って……記憶が次元を超えるって、あるのかな、って。」

「あぁ、そこですか。」

「だって今まで、ランバルト様が僕に声を掛けたりなんか、しなかった。あのランバルト様にも他の記憶があるんだったら、どうして何も言ってくれなかったの。何度も失敗してるユアを、知ってるんでしょ。」

何度も "ざまぁ" された自分のことを、知ってる人がいる。

そう思ったら、つい、口から出てしまった。


あぁ酷い八つ当たりだ。

自分でも分かってるのに。

あの頃の僕は、もしランバルト様が何か警告してくれたとしても、それを悪意からだって認識しただろうに。

僕に声を掛けなかったからって、ランバルト様は悪くないんだ。

落ち着かなきゃ。



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