上 下
81 / 91
第三章 この国に来た頃まで戻って

81 食い違い

しおりを挟む
 

「やっぱり思った通り。……ふふっ。セルゲイ・ランバルトの中で、ぼくが最初に気が付きました。まぁ、他から結構ヒントを貰ったから当然だ、って感じもあるんですけどね。」

「えっと、あの……。」

あからさまに機嫌が良くなったランバルト様は、何やら納得顔だ。

僕はがっちりと肩を掴まれたまま、どう声を掛けたら良いのか。

ランバルト様の発言には結構、気になることもあるけど。

とりあえず離してくれないと、整理券を貰いに行けないのに。


「ユアと話がしたいんですけどいいですよね。そうですね、今すぐに話しといた方がいいでしょう。また別な機会を作るのも、約束とか…めんどくさい。」

本当に面倒くさそうに、ランバルト様は言った。いや、言い捨てた。

嫌な思い出でもあるみたいに。

ただ単に、約束するのが嫌いなだけかも知れないけど。



「え、えぇっ?」

「それじゃ何処かで座って話すとして。うちの馬車でいいですね。そこの貴方。受付で説明すれば、ユアの分も整理券を手に入れられるはずです。」

言いっぷりに驚いてる間もなく、ランバルト様は話をまとめていく。

僕がランバルト様と話をする、って方向で。


先輩は心配そうな目で僕を見てる。

ホゼも不満そうだけど……。

こうなったランバルト様は誰にも止められない。ような気がする。


「僕は大丈夫。2人で行って来て。話が終わったら僕も合流するから。」

「やだ、ゆあも一緒…」

「手間が掛かって悪いんだけど、整理券、僕のも貰えたら貰ってくれる?」

「……やだぁ。」

「お願い、ホゼ。神殿の人に、ユアの整理券もくださいって。言えるかな?」

「…………うん。ホゼ、ちゃんと言えるよ。」

しぶしぶだけど、ホゼは頷いてくれた。

本当は嫌だよって、顔に出てるけど。


先輩に連れられたホゼが、手を振りながらテントへ向かって行った。

もちろん、反対側の手は先輩にしっかりと繋がれた状態で。


「じゃあユアはこっちです。」

「あ、はい。」

僕もホゼと似たような感じだ。

ランバルト様にしっかりと掴まれた状態で、馬車の方へと連行された。




駐車場に停めてあるランバルト侯爵家の馬車は、シンプルな装飾でも見るからに高級感が溢れる馬車だった。

ランバルト様は御者の人も、お付きの人も追い払って。

お付きの人達はこういう状況に慣れてるのか、怪しい平民の僕とランバルト様が2人きりになることを、特に反対とかはしなかった。


窓を少しだけ開けて、カーテンで遮った馬車の中。

僕達は向かい合って座る。

高級馬車は座面もふかふかだった。


「飲み物は、今は要らないですね。まぁ、話が終わってからでも。」

「そうですね。」

「さて、何を話したらいいですかね。お互いに知ってる者同士だから、実は特別に絶対話さなきゃいけない事は無いんですけどね。」

「えっ、そうなんですか? じゃあなんで連れて来たんですか?」

あんまりの発言をされて、僕は普通に聞いてしまった。

ホゼや先輩を遠ざけたのは一体何の為に、って思うのも仕方ないよね。


「話す必要は無いけど話したかったんです。ぼくは。」

ショックを受ける僕に、ランバルト様は何故か嬉しそうに微笑んで答えた。

そんな表情で言われたら、あんまり怒れない。


「それに、お互いの知識に何かの齟齬があるかも知れないですから。ズレが無いかどうかは、ちゃんと確認しとかないと。意外なタイミングで響いたりするんです。」

「そうかも知れないですね。」

「会話の取っ掛かりとして、まずは自己紹介からです。ぼくはセルゲイ・ランバルトです。父親が宰相をやってます。初めまして。キミはユア、で合ってます?」

「え……?」

「違うんですか? ユアではない?」

「あっ、いえ、ユアで合ってます。」

「だったら何を驚いたんです?」

「ぁ……あの、大したことじゃないんですけど。もう知ってるのにわざわざ、初めまして、って言うんだな~と思って。」

僕達はもうお互いに、前回の記憶があるのが分かり合ってる状態だ。

それをわざわざ、初対面のような挨拶をされたから、少し驚いた。

特にランバルト様は、何事にも無駄なことを嫌いそうな、そんな印象だから。


でも今回の人生ではこれが初めてだから、そんな挨拶も間違ってない。

ランバルト様って、意外とそういうところに拘りがあるのかな。


「初対面なんで。ぼく達は。」

「はい、確かに、今回の人生では初対面ですよね。」

「今回の人生って何です? 人生は何回もあるもんじゃないですよ。」

「えっ……?」

「えっ?」

戸惑う僕。

たぶんランバルト様も。


何かさっそく、話がずれてる。

その意味では今こうして、会話する場を作ったのは良かったかも。


「もしかしてユアは、前回や前々回の人生、なんてものがあると思ってます?」

「あ……はい。ランバルト様には…」

「無いですよ、そんなもの。」


前回の記憶があるんじゃなくて。

何となくだけど、"ざまぁ" する人とも違うなって思うけど。

じゃあ、ランバルト様の持ってる記憶は……なんだろう?


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

目覚めたそこはBLゲームの中だった。

BL
ーーパッパー!! キキーッ! …ドンッ!! 鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥ 身体が曲線を描いて宙に浮く… 全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥ 『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』 異世界だった。 否、 腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...