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第三章 この国に来た頃まで戻って

79 神殿での遭遇

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宿屋から神殿までは結構な距離がある。

小さなホゼにはもちろん、一応大人な僕の足でもかなり遠く感じるくらい。

神殿に行くのが別な日だったら、宿屋にある馬車で送って貰えたんだけど。

出掛ける前にホゼが言ってたように、今日は神殿でお菓子が配られる日で。

つまり、何かしらの行事があって人出も多くなるから、一般の馬車は神殿内の駐車場に停められないかも知れなかった。


だから僕達は乗り合い馬車を利用することにした。

広い大都市だから、街の中を定まった経路で走る乗り合い馬車が色々あって。

ちょうど神殿の出入口近くに停留所があるんだ。



馬車に乗り込んだホゼはさっそく窓に張り付いた。

吹き込む風が髪を散らかすのも気にしないで、楽しそうに外を見てる。


どんどん馬車が進んで、窓から見える景色が近所の町並みとは変わっていく。


ホゼがたまに歓声をあげちゃったりするのを、あやしながら。

短い馬車の旅を楽しんで、僕の気分も穏やかになった。



しばらくすると、急に人通りが多くなってきた。


そろそろ神殿が近いからかも。

賑やかな雰囲気に釣られるように、ホゼも僕もワクワクしちゃう。



やがて馬車は停留所に到着した。


僕は初めて来たんだけど、神殿はとにかく大きくて立派に見えた。

白色の荘厳な建物で、所々が高く尖ってる。

その建物の周囲は、広いお庭で囲まれてるみたい。目に鮮やかな草の緑色と、色とりどりの花が咲いてて凄く綺麗。

広い幅で舗装された道があって、草花を見ながら大勢の人が歩けそう。

敷地外からも神殿や庭を見られるようにか、敷地の内外を分けてるのは石や木の塀じゃなくて、格子のフェンス。それも綺麗に白く塗られてる。


神殿にはもう、たくさんの人達が来てた。

子供を連れた一般市民が多いように見えるけど、着飾った上流階級の人達や貴族っぽい姿もちらほら。


「わぁ~~~い!」

「あっ、ホゼ!」

興奮し過ぎたホゼが走り出した。

手を繋いでたんだけど、僕がぼんやりと神殿を見てたからだ。


慌てて捕まえようとしても遅い。

ホゼはタタターッと走って、道の途中でクルッと振り返りながら僕に手を振ろうとして。石畳に足を滑らせた。


「わあぁっ!」

「危ない!」

「くぉら、ホゼっ!」

転ぶ寸前で、駆け付けた先輩がホゼを確保した。

流石は用心棒。身体を動かす職業だからか、足が速い。


「いきなり走り出したら危ないだろっ。お菓子貰わないで帰るぞ?」

「やだぁー、お菓子、貰うの~、ごめんなさい~。」

先輩に叱られて、ホゼはショックな表情。

そうしてる間にようやく、僕も追い付いた。


「転んだら痛いんだからね。ケガしたらしばらく遊べなくなっちゃうよ?」

「あうぅ……ご、ごめんなさい……。」

「はぐれちゃったら大変だし、もう1人で走って行かないでね?」

「うん……。」


しょんぼりしたホゼの両手を、僕と先輩とで繋いで。

しっかり連行する態勢になった。


「さぁてそれじゃ、お菓子を貰う行列は…っと。」

先輩が探すのと一緒に、僕も辺りをキョロキョロする。


なんとなく、視線を向けた先に。

僕は見付けてしまった。

学園に入学しなかった僕が、出会うはずの無い人。


宰相閣下の次男、セルゲイ・ランバルト様だ。


しかも凄く、こっちに注目してる。

目が合っちゃった。



「なぁ、ユア。あの貴族っぽい子さ。……なんかすごい、コッチ見てないか?」

「僕もそんな気が……。」

先輩も僕と同じように感じてるみたいだ。


ランバルト様がこっちを見てる、その理由が分からない。

はしゃぐホゼが可愛いから? ……さすがにそれは無いか。

いや、でも、昨日のリュエヌ様みたいに、ランバルト様は意外と子供好きだったりするかもよ?

少なくとも僕に用事、じゃないよね。

だって、まだ知り合ってないし。前回の人生でも関係性は薄いし。その前の人生とかだと、そもそも僕は知らなかった……と思う。


「ねぇねぇ、あのお兄ちゃん、具合が悪いのかな?」

「大丈夫だ、ホゼ。心配しなくていいから貴族っぽい人に話し掛けるなよ?」

先輩にそう言われたホゼは、分かってない顔で頷いた。


昨日の一件があって、先輩はちょっと警戒してる。

僕もちょっと同じ気持ち。


たまたまリュエヌ様はホゼに優しくしてくれたけど。もしかしたらランバルト様も、優しくしてくれるかも知れないけど。

そうじゃない可能性も充分あるし。子供の振る舞いを、ランバルト様が気にしなくても、たぶん一緒にいるだろうお付きの人は許してくれないかも、だし。


「と…とりあえず神殿の人、探してみようぜ。」

「そ、そうだね。そうしよう。」

「お菓子ぃ~。」


ランバルト様については、とりあえず関わらないでおこう。

まずは目的を優先しなきゃ。


僕も先輩も、そう考えて。

視線をそっちに向けないまま、歩き出したんだけど。



「神殿で会うなんて珍しいですね。初めてじゃないです?」


ランバルト様の方から、話し掛けられてしまった。



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