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第三章 この国に来た頃まで戻って
78 揺らいだ決意
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ジェニ様とリュエヌ様に出会った日の翌日、僕はお休みだった。
今日は仕事じゃない日。
でも特に予定も無い。
もしも学園に通ってたら、今頃は何をしてるのかな……って。ちょっぴり考えなくもないけど。
今更言っても仕方ないもんね。
今回は王子殿下に会わないって、そう決心して。だから受験しなかったんだから。
……あれ?
…………今回は、って……。
ふと、僕は思い付いた。
そう言えば、どうして僕は、また次回があると思い込んでるんだろう。
何回も “ざまぁ” が繰り返されて、いつの間にかそんなものだと思ってた。
けど……前回や、その前は全然違ったじゃない。
終わるのが早かったから、と言えばそれはそうなんだけど。
そういう、タイミングの違いだけじゃなくて。
ハッキリと言えないけど、もっと大きなところで何かが変わってるような。
ひょっとしたら、本当はもっと前から違ってた?
分からない。
どうせ結末は同じなんだからって、単なる誤差だと思ってたから、ちゃんと覚えてない部分がたくさんある。
僕が認識してても気にしてなかったような、そんな小さな違いが。実は大きな意味があったのかも知れないけど。
もしかして……。
「次、は……無い? ………っ!」
呟いた言葉がショックだった。
自分で言ったのに。
だって、いつもそうだった、ってだけで。
今回も絶対に繰り返す、とは言い切れないんだ。
前回の終わりに聞いた、義弟の言葉を思い出す。
エンディングがどうとか……コンプリート、とか……。
よく分からないけど、僕の "終わり" はもう充分だってこと?
もう……"ざまぁ" はおしまい?
……もしそうだとしても、嬉しい気持ちが湧かないよ。
何度も泣いて、泣いて、もう終わりにしたいって願ったこともあったのに。
なんでだろう……。うぅん、違う、分かってる。
次が無いってことは、これが……最後になるって、ことだから……。
あんなに諦めようとしてたのに。
ついさっきも、自分の意思で会わない決心をしたんだって、確認したのに。
もう人生を繰り返さないのかも知れないって、その可能性を思った途端……後悔が押し寄せて来る。
人生なんて1回きりなのが普通なのに。
このまま、会わないままで終わるの?
同じ学園に通いでもしない限り、遠目に姿を見掛けることだって難しいのに。
決心なんか簡単に揺らぎそう。揺らいでるよ。
……会いたいな。
僕を本心から愛してなくてもいいから。
前みたいに優しくしてくれなくてもいいから。
会いたい……
「ゆあっ!」
ぽふっ。
自分の部屋でベッドに腰掛けてた僕は、軽い衝撃を受けた。
ハッとして見たら、ホゼがしがみ付いてる。
「ゆあ、どぉしたのっ? 大丈夫っ? 頭、痛いのっ?」
ホゼの方が泣きそうに目を潤ませて、心配そうに僕を見上げてる。
どうやら僕は、ホゼが階段を元気良く駆け上がって来る音にも気が付かないくらい、考え込んじゃってたみたい。
「おクスリ、飲もう? すぐ良くなるよ、ホゼ、貰って来てあげる。」
「ま、待って。大丈夫、何ともないよ。」
「本当に? ゆあ、痛い顔、してたよ?」
「うん、大丈夫。ホゼが心配してくれたから、もう治ったからね。」
階段へ走り出そうとするホゼを引き止めた。
にっこり微笑んでみせると、ようやく安心したホゼは笑顔になってくれた。
考え事をしてただけで、別に体調はなんともないんだから。
気持ちの問題だから、薬を貰っても仕方ないと思うし。
「それより、ホゼ。何か用事があったんじゃないの?」
「あっ、うん、あのね、今日は神殿でお菓子、配られる日なんだよ。ホゼね、すっごく楽しみにしてたんだ~。ゆあも一緒に連れてってあげる。ゆあ、お休みなんでしょ?」
よっぽどワクワクしてるんだろうホゼは、早口でまくし立てる。
ニコニコしながら僕へと差し出された小さな手を、優しく握った。
パァ~ッと、ホゼの笑顔が更に輝く。
「迎えに来てくれたんだね。ありがとう、ホゼ。」
「うんっ、一緒に行こっ。」
「おいおい、ホ~ゼっ。ユアは休暇なんだから、何か予定とかあるかもだろ。」
繋いだ手をホゼがぶんぶんと振り回したところで、声を掛けられた。
昨日一緒にお菓子を買いに行った先輩が、戸口に寄り掛かってる。
気を遣ってくれたんだろうけど、僕は先輩の言葉に首を振った。
1人でいて考え事をするより、ホゼと出掛けた方が良い。
「大丈夫ですよ。今日、特に予定も無かったし。」
「でもよぉ、休みにまで子守とか…」
「それに神殿って、まだ行ったことが無いな~って。どうせ行くなら一緒に。」
「ユアがそう言うなら、まぁいいけどな。」
「ゆあもお菓子、貰えたらいいねっ。」
一緒にお出掛けするのが決定して、ホゼはきゃっきゃと喜んでる。
僕も気持ちを明るく、切り替えることにした。
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