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第二章 入学試験を受ける前まで戻って
65 早い終わり
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痛い……。
身体中が痛い。
それ以上に頭が痛い。
頭が割れたように……うぅん、きっと割れてる。
だって階段を落ちる間に何回か叩き付けられた、感じがするから。
痛くて堪らないのに、身動きも取れない。
僕の上に義弟がのし掛かってるせい、もあるけど。
自分の身体なのに自由に動かせないなんて……あぁそうだ、前回にもあったね。
あのときはすぐに人が駆け付けてくれて命拾いしたけど……。
「…にを、やってるんだ! お前っ!」
慌てた様子のジンジェット様の声。
首もほとんど動かせない、ほぼ固定されてる視界に。
階段を駆け降りて来るジンジェット様が見えた。
「いつまで乗っかってる気だ、お前っ! 押し潰す気か!」
「うわあっ!」
余裕が無い感じで怒鳴るジンジェット様はちょっと珍しい。
ちょっと乱暴に義弟を掴んで、引っ張り上げようとしてるみたい。
助けようとしてくれるのは、とても有り難いんだけど。
ジンジェット様の怒鳴り声と、義弟の……悲鳴? みたいな声が、頭に響く。
ご免なさい、もう少しだけ、静かに話して……。
「はっ、離してぇっ!」
「おいっ!」
義弟が身を捩って、ジタバタ暴れた足が、僕の顔のすぐそばまで近付いた。
靴の裏がハッキリと見えるぐらい。
蹴られる、って思った瞬間。
気付いたジンジェット様が義弟を引き摺るように退かしてくれる。
「痛いぃっ! 離してよぉっ!」
「いい加減にしろっ、お前…」
「助けて! 誰か、助けてください~っ!」
何故だろう、義弟が助けを求めてる。
なんだか良くない予感がするけど、あまり考えられない。
段々と、何処が痛むのかもあやふやになってきてる。
目を開けてるのもしんどくなって、僕は目を閉じてしまった。
周囲が見えなくなると余計に頭がガンガンするのに。もう開けられない。
僕の視界から景色が消えた後。
ジンジェット様でも義弟でもない、他の人達の大声が聞こえてきた。
「おい、何をやっているんだ!」
「乱暴な真似は止せ!」
「その子を離してやれ!」
人の声の後に、乱れた足音。
揉めてる感じの不穏な物音。
誰かが通り掛かったんだ。
よりにもよって、こんな酷いタイミングで。
どうやらジンジェット様が義弟に暴力を振るおうとしてる、って認識されたみたい。
それだけじゃなくて……。
「誰か倒れてるぞ! 酷い出血だ。」
「一体、何があったんだ。」
「ユアくんがっ、かっ……階段、からっ……!」
「何だって! おい、まさか……。」
僕が倒れてる原因もジンジェット様、ってことにされようとしてる。
涙声で言う義弟に、駆け付けた人達は騙されたんだ。
ジンジェット様が「違う」と否定する言葉は、責め立てる人達に届かない。
僕も「違う」って、声を大にして言いたいのに。
喋れないから、誰にも届かない。
「ユアくん、しっかりして!」
すぐ近くから義弟の声がすると思ったら、いきなり凄い圧迫感がして。
痛みで反射的に目が開いたら、やっぱり義弟に圧し掛かられてた。
誰も止めようとしないのはきっと、他の人達からは、縋り付いてるようにでも見えるからなんだろう。
自由の利かない視界の、辛うじて認識できる程度の端っこで。
ジンジェット様が、複数人から寄ってたかって取り押さえられてるのが分かった。
「お医者さんを呼んで来て! お願い!」
すぐさま誰かが駆け出して行った。
残った人達はジンジェット様を拘束したまま、じりじりと移動する。
被害者だろう義弟や僕と、近くに居させるのは良くない。何処かの部屋の中に連れて行こう、って判断したらしい。
皆で力を合わせて、僕の視界の、更に遠いところへ。義弟から引き離すように。
そして僕からは完全に見えなくなってしまった。
周囲から人が離れてるのを確認した後。
義弟は僕の、動かせない手を握って、僕に笑顔を向ける。
僕は声も出せないから、表情で問い掛けた。
……どうして? どうして僕を殺そうとするの?
これが "ざまぁ" なの?
でも僕はまだ何も……何も始まってないのに。
「なんで……って顔、してるね。」
僕の意思が伝わったようで、義弟は小さな声で囁いた。
何故だか得意そうな微笑まで浮かべて。
「今まで色んな "ざまぁ" があって、それで絶望して貰ってたじゃない? ユアが "どんな風に終わるか" によって、それぞれ違うエンディング扱いになるからさ。でも、それ以外にも、"いつ終わるか" によっても別エンディングを迎えたって扱いになるみたいなんだ。ほら、前回の終わりが早かったでしょ。これって、そろそろコンプリートが近いってことだよね。だからさぁ……。」
誰かが近付いて来るのを警戒してるのか、義弟は少しだけ早口だ。
こんなに長々と言われても、頑張って理解しようって気になれない。
あんまり頭も回らないし……。
「今回はここで終われよ。」
……あれ? 僕、いつの間に目を瞑ったんだろう。
あまりにも真っ暗で。
義弟がどんな表情をしてるのかも見えなくなってた。
身体中が痛い。
それ以上に頭が痛い。
頭が割れたように……うぅん、きっと割れてる。
だって階段を落ちる間に何回か叩き付けられた、感じがするから。
痛くて堪らないのに、身動きも取れない。
僕の上に義弟がのし掛かってるせい、もあるけど。
自分の身体なのに自由に動かせないなんて……あぁそうだ、前回にもあったね。
あのときはすぐに人が駆け付けてくれて命拾いしたけど……。
「…にを、やってるんだ! お前っ!」
慌てた様子のジンジェット様の声。
首もほとんど動かせない、ほぼ固定されてる視界に。
階段を駆け降りて来るジンジェット様が見えた。
「いつまで乗っかってる気だ、お前っ! 押し潰す気か!」
「うわあっ!」
余裕が無い感じで怒鳴るジンジェット様はちょっと珍しい。
ちょっと乱暴に義弟を掴んで、引っ張り上げようとしてるみたい。
助けようとしてくれるのは、とても有り難いんだけど。
ジンジェット様の怒鳴り声と、義弟の……悲鳴? みたいな声が、頭に響く。
ご免なさい、もう少しだけ、静かに話して……。
「はっ、離してぇっ!」
「おいっ!」
義弟が身を捩って、ジタバタ暴れた足が、僕の顔のすぐそばまで近付いた。
靴の裏がハッキリと見えるぐらい。
蹴られる、って思った瞬間。
気付いたジンジェット様が義弟を引き摺るように退かしてくれる。
「痛いぃっ! 離してよぉっ!」
「いい加減にしろっ、お前…」
「助けて! 誰か、助けてください~っ!」
何故だろう、義弟が助けを求めてる。
なんだか良くない予感がするけど、あまり考えられない。
段々と、何処が痛むのかもあやふやになってきてる。
目を開けてるのもしんどくなって、僕は目を閉じてしまった。
周囲が見えなくなると余計に頭がガンガンするのに。もう開けられない。
僕の視界から景色が消えた後。
ジンジェット様でも義弟でもない、他の人達の大声が聞こえてきた。
「おい、何をやっているんだ!」
「乱暴な真似は止せ!」
「その子を離してやれ!」
人の声の後に、乱れた足音。
揉めてる感じの不穏な物音。
誰かが通り掛かったんだ。
よりにもよって、こんな酷いタイミングで。
どうやらジンジェット様が義弟に暴力を振るおうとしてる、って認識されたみたい。
それだけじゃなくて……。
「誰か倒れてるぞ! 酷い出血だ。」
「一体、何があったんだ。」
「ユアくんがっ、かっ……階段、からっ……!」
「何だって! おい、まさか……。」
僕が倒れてる原因もジンジェット様、ってことにされようとしてる。
涙声で言う義弟に、駆け付けた人達は騙されたんだ。
ジンジェット様が「違う」と否定する言葉は、責め立てる人達に届かない。
僕も「違う」って、声を大にして言いたいのに。
喋れないから、誰にも届かない。
「ユアくん、しっかりして!」
すぐ近くから義弟の声がすると思ったら、いきなり凄い圧迫感がして。
痛みで反射的に目が開いたら、やっぱり義弟に圧し掛かられてた。
誰も止めようとしないのはきっと、他の人達からは、縋り付いてるようにでも見えるからなんだろう。
自由の利かない視界の、辛うじて認識できる程度の端っこで。
ジンジェット様が、複数人から寄ってたかって取り押さえられてるのが分かった。
「お医者さんを呼んで来て! お願い!」
すぐさま誰かが駆け出して行った。
残った人達はジンジェット様を拘束したまま、じりじりと移動する。
被害者だろう義弟や僕と、近くに居させるのは良くない。何処かの部屋の中に連れて行こう、って判断したらしい。
皆で力を合わせて、僕の視界の、更に遠いところへ。義弟から引き離すように。
そして僕からは完全に見えなくなってしまった。
周囲から人が離れてるのを確認した後。
義弟は僕の、動かせない手を握って、僕に笑顔を向ける。
僕は声も出せないから、表情で問い掛けた。
……どうして? どうして僕を殺そうとするの?
これが "ざまぁ" なの?
でも僕はまだ何も……何も始まってないのに。
「なんで……って顔、してるね。」
僕の意思が伝わったようで、義弟は小さな声で囁いた。
何故だか得意そうな微笑まで浮かべて。
「今まで色んな "ざまぁ" があって、それで絶望して貰ってたじゃない? ユアが "どんな風に終わるか" によって、それぞれ違うエンディング扱いになるからさ。でも、それ以外にも、"いつ終わるか" によっても別エンディングを迎えたって扱いになるみたいなんだ。ほら、前回の終わりが早かったでしょ。これって、そろそろコンプリートが近いってことだよね。だからさぁ……。」
誰かが近付いて来るのを警戒してるのか、義弟は少しだけ早口だ。
こんなに長々と言われても、頑張って理解しようって気になれない。
あんまり頭も回らないし……。
「今回はここで終われよ。」
……あれ? 僕、いつの間に目を瞑ったんだろう。
あまりにも真っ暗で。
義弟がどんな表情をしてるのかも見えなくなってた。
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