64 / 91
第二章 入学試験を受ける前まで戻って
64 転げ落ちる
しおりを挟む
校舎の中に入ると、賑やかで浮足立った雰囲気はすぐに消えた。
生徒達がみんなパーティーに参加してるから、廊下には人影が見えない。
足早な義弟は、全然迷い無く職員室に向かう。
ズンズン進む、その後ろから。
僕は少しだけ距離を開けてついて行く。
まるで義弟の後をつけてるみたいでちょっと嫌だけど。
義弟の隣に並ぶのはもっと嫌だし、前を歩くのは怖いもの。
しばらく行った、廊下の先の方。
目的の人を見付けた。
今回の人生では、初めて見る、ジンジェット様だ。
見覚えのある精悍な背中が階段を上ってる。
だけどすぐに、ジンジェット様は踊り場から更に上へ。
階段の手すりフェンスの陰に隠れちゃって姿が見えなくなってしまった。
「あっ……。」
「え~っと、ジン……! じゃない、ジンジェット様ぁ~っ!」
どう言って声を掛けようか。
土壇場で迷ってしまった僕とは対照的に、義弟は積極的に呼び止めようと声を掛けながら走り出す。
僕も走ったんだけど、残念ながら運動神経に差があるみたい。
引き離されながら、頑張って階段を駆け上がる。
踊り場にたどり着いた頃にはもう、義弟は上のフロアにいた。
ちょうど階段を上りきった所でジンジェット様を呼び止めたみたい。
「ブリガンデ家の養子がよく俺に声を掛けようなんて思えたな。」
こちらの方に顔を向けてるジンジェット様は、厳しい表情だ。
眉間に深い皺を刻んで、鋭い眼差しは義弟を睨み付けてるようにも見える。
僕に背中を向けてるから、義弟の表情は分からないけど…
「あの、……すいません、あの…」
「一応…決着したとは言え、だ。当事者の家族同士、よっぽどの事が無い限りは、まだしばらくは接触しない方がいいと……そういう話になってるんじゃあ、なかったか?」
「そっ…ですよね……すいません。」
「俺に何の用だ?」
「すっすいません、ブリガンデ公爵家の養子なんか、か…顔も見たくないで…」
「そういう事を言ってるんじゃねぇよ。何か用事があるんだろ? 謝らなくていいから、さっさと用件を言え。」
…なんだか雰囲気が良くないように感じる。
というか、義弟の態度がおかしい。……なんでだろう。
どんな風に声を掛けたか知らないけど、今は、変に謝り続けてて。義弟が口を開くたびにジンジェット様の機嫌が悪くなってく。
こんなんじゃ話なんか、どんどんしづらくなるのに。
「すいません、ぁの……お元気ですか。」
「お前、ふざけてるのかっ!」
とうとう怒ったジンジェット様が壁に拳を叩き付けた。
重たそうな、結構凄い音がして。
関係無いのに。僕は一瞬、身が竦んでしまう。
やっぱり義弟の態度はおかしい。
まるでジンジェット様を怒らせようとしてる感じ。
アイツはすぐに怒鳴るし、カッとなる……って。
ジンジェット様を、義弟がそんな風に言ってたのを。
ふと、思い出した。
嫌な予感がする。
「用件が無いならわざわざ呼び止めるな! それとも文句でも言いたいのか、だったら聞くからさっさと言えっ!」
「あります、あります。実はユアに頼まれて。」
言いながら義弟が、チラッとだけ僕を振り返った。
促されたジンジェット様も、険しい表情のまま僕を見た。
「お前がユア、か……。」
僕が怒られてるんじゃなくても怖い。
だけど僕は少しずつ、1段ずつ、階段を上り始める。
さり気なく、2人に近付くために。
義弟がジンジェット様の神経を逆撫でしようとするのは。何故だろうって考えて。
その狙いは。
ひょっとしたら、だけど。
ジンジェット様をカッとさせて、わざと階段で突き飛ばされるように。王城で起きた事件と同じように。
そう仕向けてる可能性が、頭の中に浮かんじゃったんだ。
もし、そうだとしたら。
ちゃんと証言出来るように、僕が2人をしっかり見てようと思った。けど。
そもそも義弟が階段から落ちなければ良いんだって、思い直して。
転げ落ちる前に。支えてやれば、何とかなるんじゃないかって。
あぁでも、僕の腕力で、バランスを崩した義弟を支えられるかが心配かも。
「ユアが気にしてて。ジョルジェーニが死んだんじゃないか、って。」
「何だと……?」
「どうせ出来の悪い方なんだから、そんなに気にしなくたっていいのにね。そもそも双子の兄弟なんて、どっちか片方がいればいいんだから。」
「お前……っ!」 「やめなよ!」
堪忍袋の緒が切れたジンジェット様と、僕の声が重なった。
ジンジェット様の腕が義弟の肩口当たりへ伸びる。
たぶん襟とかを掴もうとしたんだろう、けど。
捕まらないように、義弟は上体を逸らした。
そのまま後ろに1歩下がって、ジンジェット様から距離を取る。
踵が、階段を踏み外した。
「危ないっ!」
わざと落ちるかもしれないって、分かってたのに。
僕は、階段に倒れそうになる義弟に手を伸ばした。
義弟が僕にしがみ付き、僕は手すりを必死に掴む。
それで、2人とも事なきを得た……はずだったんだ。
むしろ義弟は僕の胸に自ら飛び込むようにして、僕を抱き込んで階段を落ちる。僕を下敷きにしながら。
踊り場から更にその下まで。
転げ落ちた。
生徒達がみんなパーティーに参加してるから、廊下には人影が見えない。
足早な義弟は、全然迷い無く職員室に向かう。
ズンズン進む、その後ろから。
僕は少しだけ距離を開けてついて行く。
まるで義弟の後をつけてるみたいでちょっと嫌だけど。
義弟の隣に並ぶのはもっと嫌だし、前を歩くのは怖いもの。
しばらく行った、廊下の先の方。
目的の人を見付けた。
今回の人生では、初めて見る、ジンジェット様だ。
見覚えのある精悍な背中が階段を上ってる。
だけどすぐに、ジンジェット様は踊り場から更に上へ。
階段の手すりフェンスの陰に隠れちゃって姿が見えなくなってしまった。
「あっ……。」
「え~っと、ジン……! じゃない、ジンジェット様ぁ~っ!」
どう言って声を掛けようか。
土壇場で迷ってしまった僕とは対照的に、義弟は積極的に呼び止めようと声を掛けながら走り出す。
僕も走ったんだけど、残念ながら運動神経に差があるみたい。
引き離されながら、頑張って階段を駆け上がる。
踊り場にたどり着いた頃にはもう、義弟は上のフロアにいた。
ちょうど階段を上りきった所でジンジェット様を呼び止めたみたい。
「ブリガンデ家の養子がよく俺に声を掛けようなんて思えたな。」
こちらの方に顔を向けてるジンジェット様は、厳しい表情だ。
眉間に深い皺を刻んで、鋭い眼差しは義弟を睨み付けてるようにも見える。
僕に背中を向けてるから、義弟の表情は分からないけど…
「あの、……すいません、あの…」
「一応…決着したとは言え、だ。当事者の家族同士、よっぽどの事が無い限りは、まだしばらくは接触しない方がいいと……そういう話になってるんじゃあ、なかったか?」
「そっ…ですよね……すいません。」
「俺に何の用だ?」
「すっすいません、ブリガンデ公爵家の養子なんか、か…顔も見たくないで…」
「そういう事を言ってるんじゃねぇよ。何か用事があるんだろ? 謝らなくていいから、さっさと用件を言え。」
…なんだか雰囲気が良くないように感じる。
というか、義弟の態度がおかしい。……なんでだろう。
どんな風に声を掛けたか知らないけど、今は、変に謝り続けてて。義弟が口を開くたびにジンジェット様の機嫌が悪くなってく。
こんなんじゃ話なんか、どんどんしづらくなるのに。
「すいません、ぁの……お元気ですか。」
「お前、ふざけてるのかっ!」
とうとう怒ったジンジェット様が壁に拳を叩き付けた。
重たそうな、結構凄い音がして。
関係無いのに。僕は一瞬、身が竦んでしまう。
やっぱり義弟の態度はおかしい。
まるでジンジェット様を怒らせようとしてる感じ。
アイツはすぐに怒鳴るし、カッとなる……って。
ジンジェット様を、義弟がそんな風に言ってたのを。
ふと、思い出した。
嫌な予感がする。
「用件が無いならわざわざ呼び止めるな! それとも文句でも言いたいのか、だったら聞くからさっさと言えっ!」
「あります、あります。実はユアに頼まれて。」
言いながら義弟が、チラッとだけ僕を振り返った。
促されたジンジェット様も、険しい表情のまま僕を見た。
「お前がユア、か……。」
僕が怒られてるんじゃなくても怖い。
だけど僕は少しずつ、1段ずつ、階段を上り始める。
さり気なく、2人に近付くために。
義弟がジンジェット様の神経を逆撫でしようとするのは。何故だろうって考えて。
その狙いは。
ひょっとしたら、だけど。
ジンジェット様をカッとさせて、わざと階段で突き飛ばされるように。王城で起きた事件と同じように。
そう仕向けてる可能性が、頭の中に浮かんじゃったんだ。
もし、そうだとしたら。
ちゃんと証言出来るように、僕が2人をしっかり見てようと思った。けど。
そもそも義弟が階段から落ちなければ良いんだって、思い直して。
転げ落ちる前に。支えてやれば、何とかなるんじゃないかって。
あぁでも、僕の腕力で、バランスを崩した義弟を支えられるかが心配かも。
「ユアが気にしてて。ジョルジェーニが死んだんじゃないか、って。」
「何だと……?」
「どうせ出来の悪い方なんだから、そんなに気にしなくたっていいのにね。そもそも双子の兄弟なんて、どっちか片方がいればいいんだから。」
「お前……っ!」 「やめなよ!」
堪忍袋の緒が切れたジンジェット様と、僕の声が重なった。
ジンジェット様の腕が義弟の肩口当たりへ伸びる。
たぶん襟とかを掴もうとしたんだろう、けど。
捕まらないように、義弟は上体を逸らした。
そのまま後ろに1歩下がって、ジンジェット様から距離を取る。
踵が、階段を踏み外した。
「危ないっ!」
わざと落ちるかもしれないって、分かってたのに。
僕は、階段に倒れそうになる義弟に手を伸ばした。
義弟が僕にしがみ付き、僕は手すりを必死に掴む。
それで、2人とも事なきを得た……はずだったんだ。
むしろ義弟は僕の胸に自ら飛び込むようにして、僕を抱き込んで階段を落ちる。僕を下敷きにしながら。
踊り場から更にその下まで。
転げ落ちた。
23
お気に入りに追加
387
あなたにおすすめの小説
可愛い悪役令息(攻)はアリですか?~恥を知った元我儘令息は、超恥ずかしがり屋さんの陰キャイケメンに生まれ変わりました~
狼蝶
BL
――『恥を知れ!』
婚約者にそう言い放たれた瞬間に、前世の自分が超恥ずかしがり屋だった記憶を思い出した公爵家次男、リツカ・クラネット8歳。
小姓にはいびり倒したことで怯えられているし、実の弟からは馬鹿にされ見下される日々。婚約者には嫌われていて、専属家庭教師にも未来を諦められている。
おまけに自身の腹を摘まむと大量のお肉・・・。
「よしっ、ダイエットしよう!」と決意しても、人前でダイエットをするのが恥ずかしい!
そんな『恥』を知った元悪役令息っぽい少年リツカが、彼を嫌っていた者たちを悩殺させてゆく(予定)のお話。
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている
青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子
ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ
そんな主人公が、BLゲームの世界で
モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを
楽しみにしていた。
だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない……
そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし
BL要素は、軽めです。
人生やり直ししたと思ったらいじめっ子からの好感度が高くて困惑しています
だいふく丸
BL
念願の魔法学校に入学できたと思ったらまさかのいじめの日々。
そんな毎日に耐え切れなくなった主人公は校舎の屋上から飛び降り自殺を決行。
再び目を覚ましてみればまさかの入学式に戻っていた!
今度こそ平穏無事に…せめて卒業までは頑張るぞ!
と意気込んでいたら入学式早々にいじめっ子達に絡まれてしまい…。
主人公の学園生活はどうなるのか!
転生したら乙女ゲームの攻略対象者!?攻略されるのが嫌なので女装をしたら、ヒロインそっちのけで口説かれてるんですけど…
リンゴリラ
BL
病弱だった男子高校生。
乙女ゲームあと一歩でクリアというところで寿命が尽きた。
(あぁ、死ぬんだ、自分。……せめて…ハッピーエンドを迎えたかった…)
次に目を開けたとき、そこにあるのは自分のではない体があり…
前世やっていた乙女ゲームの攻略対象者、『ジュン・テイジャー』に転生していた…
そうして…攻略対象者=女の子口説く側という、前世入院ばかりしていた自分があの甘い言葉を吐けるわけもなく。
それならば、ただのモブになるために!!この顔面を隠すために女装をしちゃいましょう。
じゃあ、ヒロインは王子や暗殺者やらまぁ他の攻略対象者にお任せしちゃいましょう。
ん…?いや待って!!ヒロインは自分じゃないからね!?
※ただいま修正につき、全てを非公開にしてから1話ずつ投稿をしております
やめて抱っこしないで!過保護なメンズに囲まれる!?〜異世界転生した俺は死にそうな最弱プリンスだけど最強冒険者〜
ゆきぶた
BL
異世界転生したからハーレムだ!と、思ったら男のハーレムが出来上がるBLです。主人公総受ですがエロなしのギャグ寄りです。
短編用に登場人物紹介を追加します。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
あらすじ
前世を思い出した第5王子のイルレイン(通称イル)はある日、謎の呪いで倒れてしまう。
20歳までに死ぬと言われたイルは禁呪に手を出し、呪いを解く素材を集めるため、セイと名乗り冒険者になる。
そして気がつけば、最強の冒険者の一人になっていた。
普段は病弱ながらも執事(スライム)に甘やかされ、冒険者として仲間達に甘やかされ、たまに兄達にも甘やかされる。
そして思ったハーレムとは違うハーレムを作りつつも、最強冒険者なのにいつも抱っこされてしまうイルは、自分の呪いを解くことが出来るのか??
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
お相手は人外(人型スライム)、冒険者(鍛冶屋)、錬金術師、兄王子達など。なにより皆、過保護です。
前半はギャグ多め、後半は恋愛思考が始まりラストはシリアスになります。
文章能力が低いので読みにくかったらすみません。
※一瞬でもhotランキング10位まで行けたのは皆様のおかげでございます。お気に入り1000嬉しいです。ありがとうございました!
本編は完結しましたが、暫く不定期ですがオマケを更新します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる