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第二章 入学試験を受ける前まで戻って

62 じゃない方

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入学式の間近に、王城で事件が起きた。

その所為で、何人もが学園に来てない。

ジェニ様は犯人だと疑われてるようで。

しかもリュエヌ様は亡くなった、って。


気にならないわけ、ないじゃない。



「座って話そうよ。ほら、あっちのベンチとか、どう?」

「……うん。」

少し離れた場所にあるベンチを指差されて。迷ったけど、応じることにした。

人目に付かない室内に連れ込まれるよりは、全然マシだもの。


屋外には少なくない人数が居て、飲食や会話を楽しんでる。

だから、もし僕が義弟に襲われても、きっと誰かの目に留まるはずだから。




誰もが休めるよう、そこかしこに設置されてる沢山のベンチ。

片隅にある内のひとつに、僕達は並んで座った。


このベンチと周囲には誰もいない。

そこだけ皆の意識から抜け落ちたように、誰も寄り付かないでいる。


「ね~え、どこまで知ってる? ハリス伯爵家の息子がブリガンデ公爵家の養子を大階段から突き落とした、って話は……。……誰かから聞いてるみたい、だね。」

「………。」

「お喋りな人って、どこにでもいるんだねぇ~。まっ、いいけどさ。」

突き落とした……なんて酷い言い方に、僕は上着の裾をギュッと握った。


挑発に乗っちゃダメだ。

分かってるよ。ワザとだから、絶対。

怒ったり、動揺したり。そういう反応を求めてるんだから。期待に応えちゃダメ。


僕の様子を見て、義弟には大体の予想が付いたみたいだ。

楽しそうに口許を綻ばせた。


「その通り、ハリスの双子の次男がブリガンデの養子を殺したんだけど…」

「……っ!」

「実はブリガンデの養子も……双子、でさ~。」

「えっ……?」

悪戯でも仕掛けそうな表情に驚いて、まじまじと義弟の顔を見詰めてしまった。

僕の反応に気を良くしたのか、義弟はますます口端を吊り上げる。


「死んだのは、"じゃない方" の養子だよ。」

「じゃない方……って…」

「今回の特別アイテムなんだよねぇ~。双子の兄弟。普段は目くらましになってくれてぇ、都合の悪いことは全部押し付けちゃえる。しかも、いざって時には身代りに死んでくれるんだぁ~。」

「なっ……なにそれ、酷いじゃないっ。」

「そうだねぇ~、可哀想だね。同じ顔なのに、大人への態度が生意気で、だからあんまり可愛がられなくて、期待もされない、"じゃない方" のお兄ちゃん。終いには勘違いの人違いで死んじゃって。酷い話だねぇ~?」

「なんてことを……っ!」

思わず僕は声を荒げて立ち上がった。

離れたところにいる人達の注目を集めるとか、そんなの気にしてられない。


だって、信じられない暴言。

自分と双子の兄弟が亡くなったのに、そんな言い方。そんな楽しそうに。

どうしてそんな風に思えるの? 亡くなるまでずっと、兄弟として仲良く暮らして来たんじゃないの?



僕の態度なんて全く気にする様子も無く。

何かを思い出したように、義弟は両手をパチンっと打ち鳴らした。


「あ。"じゃない方" と言えば、さぁ~。ハリスの次男も、そうだよね? 双子の兄の、期待を掛けられてるジンと比べて今一つな、"じゃない方" の…」

「やめて、そんな言い方しないでっ。」


ジェニ様を馬鹿にする言葉を聞きたくない。言わせたくない。


遮ったのに義弟の口は止まらない。


「だって事実だよ? だからこそ、嫌疑を掛けられた息子を、ハリス家はあっさり見捨てたんだ。本当にそうなのかを独自に調べようともせずに、ね。」

「それは……!」

「近衛兵長を務めるハリス伯爵が本気で、根気良く調べれば。万に一つの可能性に過ぎないけども、ひょっとしたら見付かったかも知れないのにさ。……冤罪だって分かる、何かが。」

「………。」

僕は言葉を呑み込んだ。


やっぱりジェニ様は、人を階段から突き落としたりなんか、してないんだ。

そしてそれを、目の前にいる義弟も分かってる。

でも、きっと誰にも言ってない。


「どうしてそれを黙ってたの? 誰にも言ってないんでしょ、どうして?」

聞いたって仕方ない。答えてくれるわけない。

分かってても言わずにはいられなかった。


被害者の、双子の兄弟が言ったなら。

何かの間違いって可能性を、誰かが考えてくれたかも知れないのに。

そうしたらハリス家だってきっと、ジェニ様を…


「え、言うワケ無いでしょ。ただ黙ってるだけで、計算外のイレギュラーが退場してくれそうだってのに。」

「……イレギュラー?」

「そうだよ。ユアでも分かるでしょ? 今までジンに弟なんかいなかったじゃん。」

「だから黙ってたの? 酷いよ、今までいなかった人だからって、なに? ジェ……ジョルジェーニ様がキミに何したって言うの? キミの知らない人は存在しちゃいけないの?」


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