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第二章 入学試験を受ける前まで戻って
60 逃げ出した先
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柔らかな金髪の王子殿下と、真っ直ぐな銀髪のアルファルファ様が並んでる。
手を重ねる2人の姿は、有名な芸術家が描いた美しい絵画みたいだ。
これまでの人生では、2人が一緒にいるのを近くで見ることが無かった。……ただ単に、僕が覚えてないだけかも知れないけど。
だから、ちっとも気付かなかった。気にしたことも無かった。
こうして見ると、王子殿下よりアルファルファ様の方が割と背が高いんだね。
少なくとも5センチは違ってそう。
何となく同じくらいか、王子殿下の方が僅かに高身長なような気がしてたから……結構、意外だった。
体格はさほど変わらない感じ、かな?
あっ、でもアルファルファ様は細身に見えるようなデザインのドレススーツを着てるから、ちょっと分からないかも。
改めて2人にお辞儀をして。
頷いてくれたのを確認して、僕は踵を返した。
やっと離れられる。
僕が踊りのエリアから抜け出すと、ようやく音楽が奏でられ始めた。
周囲の人々も何処となくホッとした様子を見せて。
踊りに加わるペア達。お喋りを始めるグループ。
それぞれが思い思いに過ごす時間を再開する。
独りになった僕は、同じクラスの友人達を探そうとして、止めた。
友人達はファーストダンスを見る予定だって言ってたから、きっと屋内運動場にいるだろうけど。王子殿下とずっと一緒に貴賓席にいた僕は、出来れば今は、ここから出たかったんだ。
なるべく目立たないようにヒッソリと……なんて思っても。
会場内のあちこちから、決して少なくはない視線を向けられてるから。
僕は文字通り、逃げるように外へ抜け出した。
屋外運動場には豪華な料理やデザート、飲み物が用意されてる。
ひとまず何かを口にして落ち着こうと思ったのに。
テーブルにたどり着く前に、数人の生徒達に取り囲まれてしまった。
上級生で、今回の人生では殆ど関りの無い人達。
だけどこの表情、この雰囲気。
僕への不愉快さ、嫉妬や怒りを露にした顔ぶれは見覚えがあった。
確か下位貴族の子息グループだ。
これまでの人生で、彼等からだけに限らずだけど、僕は何度も同じような嫌がらせをされて来た。
酷い目にも遭ったし、王子殿下のことまで悪く言われたように感じて我慢出来なくて泣いたり怒ったり、怒鳴ったりもした。
それで騒ぎになるたびに、いつも王子殿下が助けてくれてた。
そのたびに僕は嬉しかった。
自分が王子殿下から好かれてる。大事にされてるんだ。……って思えたから。
「お前、特待生のユアって言ったっけ。平民の、孤児の。」
「……はい。」
リーダー格のわざと嘲る言葉になるべく淡々と返事した。
今回は騒ぎにしない。
王子殿下は今頃アルファルファ様と一緒なはずだし、そもそも頼る気は無い。
僕は微笑も浮かべず、真面目な表情と声で続ける。
「上級生の方達、ですよね? 初めまして、特待生のユアと申します。ご存知のように平民ですので家名はありません。どうぞよろしくお願いいたします。」
「ちょ…、なに勝手に挨拶してるんだよ!」
「はい。そちらから声を掛けられましたので。」
一般的には身分に上下関係がある場合、下の者から挨拶するのはマナー違反。
例外は、既に知り合いである場合と。上位者から声を掛けた場合だ。
今みたいに、明らかに僕という存在を認識して話し掛けられたら、きちんと名乗って挨拶しない方がとやかく言われるだろうと思う。
「もしかして間違った礼儀でしたか? 不作法だったら申し訳ありません。」
少し生意気な言い方だったかも知れないけど、概ね間違ってないはず。
今回の人生では、僕は、王子殿下と親しくならないんだ。
そう決めたんだから。
見知らぬ人達に責められる理由は無いはずでしょ?
「……お前さぁ…」
「すいません、あのっ、貴方がユアさんですか?」
苛々した様子で口を開いた上級生の言葉を遮って、少年の声がした。
邪魔された上級生達も、名前を呼ばれた僕もそちらを見て。
「ぇ…………。」
僕の身体は固まってしまった。
驚きで……いや、衝撃で……あぁもう、分からない。……だって!
だって、その少年の外見は。前の人生で僕に襲い掛かった……リュエヌ様に酷い傷を負わせた……、あの、義弟とそっくりなんだ!
「おい、なに割り込もうとしてるんだよ。お前、1年生だろ?」
「今、取り込み中。用事があるなら後にしな。」
その少年が誰なのかを知らない上級生達は、ぞんざいに追い払おうとする。
上級生達にとっては見たことのない、推定1年生だから。
「あっ、ぁの…すいません、急に出て来て。」
ちょっとオドオドしながら。
だけど全然怯む様子なく、少年は僕と上級生達との輪に加わった。
ムッとした視線で上級生達から睨まれてるのに。
「ぁ、すいません、兄と一緒に来てたんですけど。……兄は今、エドゥアルド王子と踊ってるんで、それで、1人でいるんですけど。兄からユアさんの事、聞いてて……。」
兄が王子殿下と踊ってる、というキーワード。
少年が着てる可愛らしい印象の衣服の高級感。
それらに気付いた上級生達が口を閉ざす。
「あぁ、すいません。兄って……アルファルファ・ブリガンデ、です。」
ふにゃり、と。
脱力するような笑顔で、アルファルファ様の義弟が小首を傾げた。
手を重ねる2人の姿は、有名な芸術家が描いた美しい絵画みたいだ。
これまでの人生では、2人が一緒にいるのを近くで見ることが無かった。……ただ単に、僕が覚えてないだけかも知れないけど。
だから、ちっとも気付かなかった。気にしたことも無かった。
こうして見ると、王子殿下よりアルファルファ様の方が割と背が高いんだね。
少なくとも5センチは違ってそう。
何となく同じくらいか、王子殿下の方が僅かに高身長なような気がしてたから……結構、意外だった。
体格はさほど変わらない感じ、かな?
あっ、でもアルファルファ様は細身に見えるようなデザインのドレススーツを着てるから、ちょっと分からないかも。
改めて2人にお辞儀をして。
頷いてくれたのを確認して、僕は踵を返した。
やっと離れられる。
僕が踊りのエリアから抜け出すと、ようやく音楽が奏でられ始めた。
周囲の人々も何処となくホッとした様子を見せて。
踊りに加わるペア達。お喋りを始めるグループ。
それぞれが思い思いに過ごす時間を再開する。
独りになった僕は、同じクラスの友人達を探そうとして、止めた。
友人達はファーストダンスを見る予定だって言ってたから、きっと屋内運動場にいるだろうけど。王子殿下とずっと一緒に貴賓席にいた僕は、出来れば今は、ここから出たかったんだ。
なるべく目立たないようにヒッソリと……なんて思っても。
会場内のあちこちから、決して少なくはない視線を向けられてるから。
僕は文字通り、逃げるように外へ抜け出した。
屋外運動場には豪華な料理やデザート、飲み物が用意されてる。
ひとまず何かを口にして落ち着こうと思ったのに。
テーブルにたどり着く前に、数人の生徒達に取り囲まれてしまった。
上級生で、今回の人生では殆ど関りの無い人達。
だけどこの表情、この雰囲気。
僕への不愉快さ、嫉妬や怒りを露にした顔ぶれは見覚えがあった。
確か下位貴族の子息グループだ。
これまでの人生で、彼等からだけに限らずだけど、僕は何度も同じような嫌がらせをされて来た。
酷い目にも遭ったし、王子殿下のことまで悪く言われたように感じて我慢出来なくて泣いたり怒ったり、怒鳴ったりもした。
それで騒ぎになるたびに、いつも王子殿下が助けてくれてた。
そのたびに僕は嬉しかった。
自分が王子殿下から好かれてる。大事にされてるんだ。……って思えたから。
「お前、特待生のユアって言ったっけ。平民の、孤児の。」
「……はい。」
リーダー格のわざと嘲る言葉になるべく淡々と返事した。
今回は騒ぎにしない。
王子殿下は今頃アルファルファ様と一緒なはずだし、そもそも頼る気は無い。
僕は微笑も浮かべず、真面目な表情と声で続ける。
「上級生の方達、ですよね? 初めまして、特待生のユアと申します。ご存知のように平民ですので家名はありません。どうぞよろしくお願いいたします。」
「ちょ…、なに勝手に挨拶してるんだよ!」
「はい。そちらから声を掛けられましたので。」
一般的には身分に上下関係がある場合、下の者から挨拶するのはマナー違反。
例外は、既に知り合いである場合と。上位者から声を掛けた場合だ。
今みたいに、明らかに僕という存在を認識して話し掛けられたら、きちんと名乗って挨拶しない方がとやかく言われるだろうと思う。
「もしかして間違った礼儀でしたか? 不作法だったら申し訳ありません。」
少し生意気な言い方だったかも知れないけど、概ね間違ってないはず。
今回の人生では、僕は、王子殿下と親しくならないんだ。
そう決めたんだから。
見知らぬ人達に責められる理由は無いはずでしょ?
「……お前さぁ…」
「すいません、あのっ、貴方がユアさんですか?」
苛々した様子で口を開いた上級生の言葉を遮って、少年の声がした。
邪魔された上級生達も、名前を呼ばれた僕もそちらを見て。
「ぇ…………。」
僕の身体は固まってしまった。
驚きで……いや、衝撃で……あぁもう、分からない。……だって!
だって、その少年の外見は。前の人生で僕に襲い掛かった……リュエヌ様に酷い傷を負わせた……、あの、義弟とそっくりなんだ!
「おい、なに割り込もうとしてるんだよ。お前、1年生だろ?」
「今、取り込み中。用事があるなら後にしな。」
その少年が誰なのかを知らない上級生達は、ぞんざいに追い払おうとする。
上級生達にとっては見たことのない、推定1年生だから。
「あっ、ぁの…すいません、急に出て来て。」
ちょっとオドオドしながら。
だけど全然怯む様子なく、少年は僕と上級生達との輪に加わった。
ムッとした視線で上級生達から睨まれてるのに。
「ぁ、すいません、兄と一緒に来てたんですけど。……兄は今、エドゥアルド王子と踊ってるんで、それで、1人でいるんですけど。兄からユアさんの事、聞いてて……。」
兄が王子殿下と踊ってる、というキーワード。
少年が着てる可愛らしい印象の衣服の高級感。
それらに気付いた上級生達が口を閉ざす。
「あぁ、すいません。兄って……アルファルファ・ブリガンデ、です。」
ふにゃり、と。
脱力するような笑顔で、アルファルファ様の義弟が小首を傾げた。
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