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第二章 入学試験を受ける前まで戻って

42 探り合い

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もしかしたら今のリュエヌ様は前回の人生を覚えてるのかな、って。

もちろん、それは思い過ごしかも知れない。

聞き間違いとか勘違いの可能性あるし、過度な期待はしちゃ駄目だけど。

でも可能性はあるかも知れないって、僕は密かにドキドキしてる。


もし仮にリュエヌ様に前回の記憶があったとしても、だからって僕を助けてくれるなんて決まってるわけでもないのに。

リュエヌ様に……会わせて、もらえないかな……。


「とりあえず、もう1つだけ聞かせてくれないか。」

「はい、どうぞ……。」

まずはアルファルファ様からの用事が終わってから。

僕がお願いしたい話は、それからにした方がいいよね。


「リュエヌとは何処でどう知り合ったんだ?」

「そ、それは…………ジョルジェーニ様の、紹介で……。」

ジェニ様の名を出すかどうか。

少しだけ迷って、でも結局、事実をそのまま話すことにした。


クロード様から聞いた話では、ブリガンデ公爵家とハリス伯爵家との仲が険悪になってるって。

それが本当だったら、ここでジェニ様の名を出すのは良くなさそう。

だけど、それは僕が知らないはずの話だし。こういうところで小さな嘘を吐くと、実はもうアルファルファ様は知ってたりした場合に、僕がアルファルファ様を騙そうとしてるように思われてしまう。

だから僕はジェニ様の名を出した。

少しだけ……アルファルファ様の口からジェニ様の話が出ないか、期待もして。


「そうか。ハリス家の……そうか、……分かった。」

そちらの期待は叶わなかった。

アルファルファ様は眉を深く寄せて、苦々しく言葉を吐き出した。



どうやらアルファルファ様が聞きたいことは、それで区切りが付いたみたい。

でも、ひょっとしたら僕の言葉では、用事は足りなかったのかな。

険しい眼差しの中に、何処となく気落ちした雰囲気が漂ってる。



役に立たなかったようで心苦しいんだけど。

思い切って僕はお願いしてみることにした。


「あの、すみません、僕からも、……いいですか?」

「ん、あぁ……何か聞きたいことでも?」

「いえ、あの……。……リュエヌ様に会わ…せて、もらうことは無理ですか?」

喋ってみたら、僕の声はちょっと震えてた。

自分が思ってたよりも、意外と動揺してるんだね。


「学園で会えるかと思ってたんですけど、来てないようで……。」

「……リュエヌに会いたい? 婚約者でも恋人でも、親密な仲でもないのにか?」

「そ……それは、そうなんですけど……。知らないわけでも、なくて……。」

淡々と聞き返されて、僕は口籠ってしまった。

アルファルファ様は眉を寄せてジッと僕を見てる。


「……新学期から来てない、って聞いて、それで……ケガとか、病気とかしてるんじゃないかな…って……。」

「ほぉ……?」


どうしよう……。

僕とリュエヌ様は、今回はまだ1回しか会ってない。友人としてもまだ浅い。

そんな僕が、学園に来てないリュエヌ様を心配したって、駄目かな?

婚約って話が出るような仲、ってリュエヌ様は言ったようだけど……僕もそれに合わせた方がいいのかな? でも僕が言うと、嘘になっちゃう。


「やっぱり無理、ですか……。」

「あぁ、済まない。キミに意地悪をしようとしたわけじゃないんだ。リュエヌと会えるかどうか、私の一存では何とも言えなくてな。」

「あっ……。そ、そうですよね。ご免なさい、僕、ヘンな思い違いをして…」

「いや構わない、私の態度も紛らわしかっただろう。」

アルファルファ様はそう言ってくれたけど、完全に僕の誤りだ。

言われてみれば確かにその通りだもの。

僕がリュエヌ様に会えるかどうか、アルファルファ様が決められるわけじゃない。

どうして僕はこんな勘違いをしたんだか、自分でも恥ずかしいよ。




話は本当にこれで終わりみたい。

アルファルファ様がソファから腰を上げるのに合わせて、僕も立ち上がる。


「……正直なところを言えば半信半疑、いや、殆ど信じてはいなかった。」

確認するように僕の姿を眺めながら、アルファルファ様が言う。

今日は随分とアルファルファ様に観察されてるような気がする。


「リュエヌに……親の承諾も無しで、婚約者と呼ぶほど愛する者が出来るとはな。」

「えっ、あのっ、その話は…」

「安心しろ、もちろん邪魔はしない。話を聞いた時は、何か面倒な事になっているのかと心配はしたが、そういう話でもないようだ。……相手からもちゃんと、愛されているようだしな。」

納得した様子で、アルファルファ様はとんでもないことを言い出した。

僕はすっかり動転してしまい、バタバタと手を振って否定する。


「ちち、ちっ、違いますっ。」

「先ほど、婚約の話を誰がしたか……リュエヌ本人だと私が言った時。凄く驚いたようだが、それ以上に嬉しそうだったな? その表情を見れば分かる。」

「それは…あの、……驚いてしまって。」

「ではそういう事にしておこう。」


アルファルファ様にそう見えたんなら、結構な誤解をさせてしまったかも。

でも、嬉しそうに見えたのは違う理由なんです。……って、言えない。


「長く時間を取らせて済まなかった。この辺で失礼するとしよう。」


とにかく誤解を解くべきかな、とも思ったけど。

引き止めて、何をどう言えばいいのか思い付かないまま。


ドアの前でアルファルファ様が僕を振り返る。


「キミがリュエヌと会えるかどうか、私の方でそれとなく様子を見ておこう。」

「あ、ありがとうございます。」

「…………。」

「? あ、あの…」

「いや、何でもない。もしかすると時間が掛かるかも知れないから、気長に待っていて欲しい。」

「……はい。」

僕に希望を持たせるような言葉なのに。

アルファルファ様の声がとても苦しそうに聞こえる気がして。

何だか嫌な予感がしてしまった……。



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