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第二章 入学試験を受ける前まで戻って
41 新たな可能性
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組んでた手の指を解き、アルファルファ様は正面から僕を見る。
何をどう聞くか、心が決まったんだろう。
アルファルファ様の怜悧な瞳から躊躇いの色が消えた。
まだ王子殿下と顔も合わせてない状態だから、僕と王子殿下との交流の仕方について叱られる可能性は無い……はずだって思う。
だからこそ、今の段階で僕と何を話すつもりなのか予測できない。
まさかわざわざアルファルファ様が僕に、ジェニ様やリュエヌ様の話を伝えに来てくれるわけも無いし。
何を聞かれてもちゃんと話せるよう、僕も居ずまいを正して待った。
「キミは平民で間違いないか?」
「はい。」
「何処かの貴族の、あるいは、豪商の養子となる予定は?」
「えっ? いいえ、そんな話は……。」
「特待生として入学したキミにそのような話は無い、と?」
「ありません。第一、僕はよその国から来たんで、そもそも知り合いがいません。」
「では特に後ろ盾になるような存在も無いんだな?」
「はい。ありません。」
なるべく変な間が空かないように努めて答える。
何かを隠したり誤魔化そうとしてるって、思われないように。
だけど内心では、僕は割と戸惑ってた。
この質問でアルファルファ様が何を知ろうとしてるのか、全然分からない。
「婚約者は?」
「いませんけど……?」
「では、……恋人は?」
「お付き合いしてる人なんて、いません。」
「それらしき、特別に親しい相手は?」
「ぁの、いません。」
「好きな相手ぐらいはいるんじゃないか?」
「ぃ……いません。あの、せっかく学園に入学したところなんです。特待生としての良い成績を取るためにも勉強を頑張らないといけないし、好きな相手を作るような時間はありません。」
僕は頑張って、キッパリとした感じに聞こえるように言った。
聞かれてる内容自体はまるで、知り合いの恋愛関係を興味本位で聞き出そうとするような、そんな気軽なものだけど。
でも雰囲気は、クラスメイト達がお喋りしてるときとはかなり違う。
僕がはっきりと否定しても……うぅん、否定するだろうって予測してるように、次々と質問を出されて。まるで尋問されてるみたい。
一旦そこで言葉を切ったアルファルファ様は、また少し無言で僕を見る。
今の宣言が事実かどうか、僕の様子から確認してるように。
本当はまだ、少しだけ、僕は王子殿下に心を残してる。
だから、好きな相手が "いない" って言ったのは嘘になっちゃうけど、そこまで正直に表さなくてもいいよね?
心のほんの片隅にある小さな気持ちくらい、隠したっていいでしょ?
「ふむ……? 平民の分を弁えているからか。それともアイツの勘違いか……。」
「ぁ、あの、それは……?」
誰かから何か聞いたのかな? アルファルファ様がアイツって呼ぶ誰かから。
僕に婚約者とか恋人がいる、って。
でも……。アルファルファ様はそれを確認しに来たの?
面識の無い平民の恋愛事情を?
……そんなまさか。
「単刀直入に聞いた方が良さそうだな。ちょっと踏み込んだ話になるがいいか?」
「はい。」
「リュエヌ・オーウェンと婚約しようとする仲、だそうだな?」
「ひゃ……っ。」
はい? って言おうとして、余りの驚きで声が引っくり返ってしまった。
だって……だって、僕とリュエヌ様が婚約、なんて……。
大きく動揺した僕の様子をどう捉えたのか、アルファルファ様の目が鋭くなる。
「プロポーズされたか。」
「いえっ、そんな…」
「指輪ぐらいは贈られたんだろう?」
「っち…違います、リュエヌ様とはそんな親密な関係じゃありませんっ。」
「ほ~ぉ、名で呼ばせているんだな。」
「あっ……! 違うんです、これは、そういうんじゃなくって……。もぉ……婚約とか結婚とか、一体誰がそんなことを…」
「…………。とある人物がリュエヌ本人から聞いたそうだぞ?」
「…………っ!」
驚きで心臓が飛び出るかと思った。
アルファルファ様の前だっていうのに、思わず両手で口元を押さえてしまった。
だって……、だって、リュエヌ様が……。
「そう怯えるな。私は別に、2人の仲をどうこうと、反対しに来たんじゃない。」
優しい言葉を発しながらも、アルファルファ様の表情は決して穏やかではない。
でも僕にはそれを訝しく思うような余裕は無かった。
突然、降って湧いた可能性の存在に、僕はすっかり動揺してた。
むやみやたらに期待なんかしちゃ駄目。
分かってても、今までに無かったチャンスかも知れないって思ってしまう。
今回の人生で、リュエヌ様と会ったのはこないだの食事、1回きりだ。
僕の誕生祝を兼ねた食事会ってジェニ様から聞いてたみたいで、初対面の僕のために予備用のとても可愛いペンケースをプレゼントしてくれたけど。あくまでも友人の知り合いへの贈り物って感じだった。
あのとき僕に、リュエヌ様は、友人になろうって言ってたんだ。
そう、あくまでも友人レベル。
そのリュエヌ様が……僕との婚約について話した、って。
リュエヌ様と僕が婚約したのは、前回の人生での話。
まさか……だけど……。
リュエヌ様に、前の人生の、記憶が……?
何をどう聞くか、心が決まったんだろう。
アルファルファ様の怜悧な瞳から躊躇いの色が消えた。
まだ王子殿下と顔も合わせてない状態だから、僕と王子殿下との交流の仕方について叱られる可能性は無い……はずだって思う。
だからこそ、今の段階で僕と何を話すつもりなのか予測できない。
まさかわざわざアルファルファ様が僕に、ジェニ様やリュエヌ様の話を伝えに来てくれるわけも無いし。
何を聞かれてもちゃんと話せるよう、僕も居ずまいを正して待った。
「キミは平民で間違いないか?」
「はい。」
「何処かの貴族の、あるいは、豪商の養子となる予定は?」
「えっ? いいえ、そんな話は……。」
「特待生として入学したキミにそのような話は無い、と?」
「ありません。第一、僕はよその国から来たんで、そもそも知り合いがいません。」
「では特に後ろ盾になるような存在も無いんだな?」
「はい。ありません。」
なるべく変な間が空かないように努めて答える。
何かを隠したり誤魔化そうとしてるって、思われないように。
だけど内心では、僕は割と戸惑ってた。
この質問でアルファルファ様が何を知ろうとしてるのか、全然分からない。
「婚約者は?」
「いませんけど……?」
「では、……恋人は?」
「お付き合いしてる人なんて、いません。」
「それらしき、特別に親しい相手は?」
「ぁの、いません。」
「好きな相手ぐらいはいるんじゃないか?」
「ぃ……いません。あの、せっかく学園に入学したところなんです。特待生としての良い成績を取るためにも勉強を頑張らないといけないし、好きな相手を作るような時間はありません。」
僕は頑張って、キッパリとした感じに聞こえるように言った。
聞かれてる内容自体はまるで、知り合いの恋愛関係を興味本位で聞き出そうとするような、そんな気軽なものだけど。
でも雰囲気は、クラスメイト達がお喋りしてるときとはかなり違う。
僕がはっきりと否定しても……うぅん、否定するだろうって予測してるように、次々と質問を出されて。まるで尋問されてるみたい。
一旦そこで言葉を切ったアルファルファ様は、また少し無言で僕を見る。
今の宣言が事実かどうか、僕の様子から確認してるように。
本当はまだ、少しだけ、僕は王子殿下に心を残してる。
だから、好きな相手が "いない" って言ったのは嘘になっちゃうけど、そこまで正直に表さなくてもいいよね?
心のほんの片隅にある小さな気持ちくらい、隠したっていいでしょ?
「ふむ……? 平民の分を弁えているからか。それともアイツの勘違いか……。」
「ぁ、あの、それは……?」
誰かから何か聞いたのかな? アルファルファ様がアイツって呼ぶ誰かから。
僕に婚約者とか恋人がいる、って。
でも……。アルファルファ様はそれを確認しに来たの?
面識の無い平民の恋愛事情を?
……そんなまさか。
「単刀直入に聞いた方が良さそうだな。ちょっと踏み込んだ話になるがいいか?」
「はい。」
「リュエヌ・オーウェンと婚約しようとする仲、だそうだな?」
「ひゃ……っ。」
はい? って言おうとして、余りの驚きで声が引っくり返ってしまった。
だって……だって、僕とリュエヌ様が婚約、なんて……。
大きく動揺した僕の様子をどう捉えたのか、アルファルファ様の目が鋭くなる。
「プロポーズされたか。」
「いえっ、そんな…」
「指輪ぐらいは贈られたんだろう?」
「っち…違います、リュエヌ様とはそんな親密な関係じゃありませんっ。」
「ほ~ぉ、名で呼ばせているんだな。」
「あっ……! 違うんです、これは、そういうんじゃなくって……。もぉ……婚約とか結婚とか、一体誰がそんなことを…」
「…………。とある人物がリュエヌ本人から聞いたそうだぞ?」
「…………っ!」
驚きで心臓が飛び出るかと思った。
アルファルファ様の前だっていうのに、思わず両手で口元を押さえてしまった。
だって……、だって、リュエヌ様が……。
「そう怯えるな。私は別に、2人の仲をどうこうと、反対しに来たんじゃない。」
優しい言葉を発しながらも、アルファルファ様の表情は決して穏やかではない。
でも僕にはそれを訝しく思うような余裕は無かった。
突然、降って湧いた可能性の存在に、僕はすっかり動揺してた。
むやみやたらに期待なんかしちゃ駄目。
分かってても、今までに無かったチャンスかも知れないって思ってしまう。
今回の人生で、リュエヌ様と会ったのはこないだの食事、1回きりだ。
僕の誕生祝を兼ねた食事会ってジェニ様から聞いてたみたいで、初対面の僕のために予備用のとても可愛いペンケースをプレゼントしてくれたけど。あくまでも友人の知り合いへの贈り物って感じだった。
あのとき僕に、リュエヌ様は、友人になろうって言ってたんだ。
そう、あくまでも友人レベル。
そのリュエヌ様が……僕との婚約について話した、って。
リュエヌ様と僕が婚約したのは、前回の人生での話。
まさか……だけど……。
リュエヌ様に、前の人生の、記憶が……?
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