逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?

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第二章 入学試験を受ける前まで戻って

40 嵐の前の平穏

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   ◇   ◇   ◇ 



クロード様と話してから1ケ月くらい経ってしまった。

あれからも、クロード様の話に出て来た人達は学園に来てない。

ジェニ様もリュエヌ様も、王子殿下も……誰も。


もう12月も半ば近い、とある日。

各学年で行われる期末テストの最終日。

最後の科目を終えて、教室内はどことなくホッとした雰囲気が漂ってる。

クラスメイト達がお喋りを始めてる中、僕は手早く帰り支度を始めた。


今日は午前中がテストで、午後からの授業が無い。

特に予定も無いから、図書館に行こうかな。

もしかしたら図書館で待ってれば、ジェニ様が来るかも知れないし。やっぱり会えなくても、猫ちゃん達がちょっとずつ僕に慣れてくれてるし。



僕の学園生活は更に平穏になってる。かつてないくらいに。

一時的に流れた、僕が貴族のご令息狙いで云々って噂も、僕が2年生のクラス教室の様子を見に行かなくなってから、すぐに消えたらしい。

今のところ、僕が言われる悪口、陰口はせいぜいが「平民のクセに貴族のクラスにいる」とか「優等生ぶってる」とか、そんな感じの……割と可愛らしいものばかり。


きっと王子殿下と出会ってないからだ、と思う。

ひょっとしたら、それだけじゃないのかも知れないけど。前はあんなに嫌がらせ行為があったのに、王子殿下と関わらない人生ではこんなに……何にも無いんだ、って。

そう思ったら少し、なんだか、悲しい気持ちにも似た感じで鼻の奥がツンとした。


……でも、本来はこれでいいんだよね、きっと。

姿が見えなくて、声が聞けなくて、寂しいなんて思うのが間違いなんだ。

王子殿下と平民なんて、そんな組み合わせが上手く行くのは物語の中だけ。

それはきっとノベルゲームの世界だって同じで、しかも "逆ざまぁ" されるのが決まってるんだから…………、あれ?

そう言えば……。何度か人生を繰り返して、酷い目にも遭ってるけど。

ノベルゲーム。

逆ざまぁ。

……誰に聞いたんだっけ?



「なぁ、ユアも行くか?」

「えっ?」

2つ離れた席から声を掛けられた。

顔を上げてみると、お喋りしてた3人グループが僕を見てる。


「あっ、ご免なさい、聞こえてなくて。」

「なんだ、聞こえてなかったか。……テストが終わったからさ、何か食べに行こうって話してたんだ。」

「そうなんだ。じゃあ、一緒に行っても…いい?」

特別に親しい友人がいない僕を、たまに誘ってくれる人達。

せっかく声を掛けてくれたし、図書館に行くのは誰とも約束してないから、一緒に行こうかなって思った。


ペンケースを鞄に仕舞うと、ちょうど3人も荷物をまとめ終えたみたい。

みんなで席を立ったタイミングで、出入口の方から、同級生が僕を呼ぶ声がした。

ちょうど教室を出るところだったから、普通にそっちへ向かったけど。


そこに立つ、スラリとした姿を目にして、僕は足を止めてしまった。

誘ってくれた3人も驚いてる気配を感じる。


「え……?」

「キミが……特待生の、ユアか?」

「は、……はい。」

頷きながら、ついついジッと見詰めてしまう。

スラリとした立ち姿。真っ直ぐな銀髪に、少し冷たく整った顔立ち。


「突然で済まないな。私はブリガンデ公爵家のアルファルファだ。少しだけ話をしたいんだが、もし用事が無ければ今から少し、時間を貰えないか?」


今回の人生で初めて対面する、アルファルファ・ブリガンデ様だった。




アルファルファ様に呼ばれたので、誘ってくれた3人とは教室で別れた。

ブリガンデ公爵家のご子息が、特待生とは言え、わざわざ平民の僕を訪ねて来たんだから。きっと色々と気になっただろうけど、3人は快く、また今度ね、って。


僕は無言のアルファルファ様に連れられて、少し歩いた先にある休憩室へ。

小さな個室じゃなく、何人かのグループで使えそうな広さの部屋。

言われるまま、僕はアルファルファ様の向かいにあるソファに腰掛けた。


本当はすぐにでも、聞きたいことがある。

学園に来てない人達が今、どうしてるのか。

ジェニ様が……あの話、本当なの?

リュエヌ様は無事なの?

義弟は……どうなったの?

でも、身分の高いアルファルファ様に先んじて、僕が話し出すのは駄目だから。


腰掛けたアルファルファ様は、なんだか珍しく困ってるように見えた。

両手の指を絡め合わせるように組んで、僕の方を見ながらちょっと思案顔。


少し経ってからようやく、アルファルファ様が口を開いた。


「初対面で色々と尋ねるのは不躾だが、キミに幾つか聞きたい事がある。」

「あ、あの…大丈夫、です。僕に答えられること、なら……。」


なんとか平静を保って答えなきゃ。

アルファルファ様が僕に聞くことなんて、何があるのか分からないけど。

出来たら、アルファルファ様からの質問の後に、僕も何か尋ねられたらいいな。



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