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第二章 入学試験を受ける前まで戻って
40 嵐の前の平穏
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クロード様と話してから1ケ月くらい経ってしまった。
あれからも、クロード様の話に出て来た人達は学園に来てない。
ジェニ様もリュエヌ様も、王子殿下も……誰も。
もう12月も半ば近い、とある日。
各学年で行われる期末テストの最終日。
最後の科目を終えて、教室内はどことなくホッとした雰囲気が漂ってる。
クラスメイト達がお喋りを始めてる中、僕は手早く帰り支度を始めた。
今日は午前中がテストで、午後からの授業が無い。
特に予定も無いから、図書館に行こうかな。
もしかしたら図書館で待ってれば、ジェニ様が来るかも知れないし。やっぱり会えなくても、猫ちゃん達がちょっとずつ僕に慣れてくれてるし。
僕の学園生活は更に平穏になってる。かつてないくらいに。
一時的に流れた、僕が貴族のご令息狙いで云々って噂も、僕が2年生のクラス教室の様子を見に行かなくなってから、すぐに消えたらしい。
今のところ、僕が言われる悪口、陰口はせいぜいが「平民のクセに貴族のクラスにいる」とか「優等生ぶってる」とか、そんな感じの……割と可愛らしいものばかり。
きっと王子殿下と出会ってないからだ、と思う。
ひょっとしたら、それだけじゃないのかも知れないけど。前はあんなに嫌がらせ行為があったのに、王子殿下と関わらない人生ではこんなに……何にも無いんだ、って。
そう思ったら少し、なんだか、悲しい気持ちにも似た感じで鼻の奥がツンとした。
……でも、本来はこれでいいんだよね、きっと。
姿が見えなくて、声が聞けなくて、寂しいなんて思うのが間違いなんだ。
王子殿下と平民なんて、そんな組み合わせが上手く行くのは物語の中だけ。
それはきっとノベルゲームの世界だって同じで、しかも "逆ざまぁ" されるのが決まってるんだから…………、あれ?
そう言えば……。何度か人生を繰り返して、酷い目にも遭ってるけど。
ノベルゲーム。
逆ざまぁ。
……誰に聞いたんだっけ?
「なぁ、ユアも行くか?」
「えっ?」
2つ離れた席から声を掛けられた。
顔を上げてみると、お喋りしてた3人グループが僕を見てる。
「あっ、ご免なさい、聞こえてなくて。」
「なんだ、聞こえてなかったか。……テストが終わったからさ、何か食べに行こうって話してたんだ。」
「そうなんだ。じゃあ、一緒に行っても…いい?」
特別に親しい友人がいない僕を、たまに誘ってくれる人達。
せっかく声を掛けてくれたし、図書館に行くのは誰とも約束してないから、一緒に行こうかなって思った。
ペンケースを鞄に仕舞うと、ちょうど3人も荷物をまとめ終えたみたい。
みんなで席を立ったタイミングで、出入口の方から、同級生が僕を呼ぶ声がした。
ちょうど教室を出るところだったから、普通にそっちへ向かったけど。
そこに立つ、スラリとした姿を目にして、僕は足を止めてしまった。
誘ってくれた3人も驚いてる気配を感じる。
「え……?」
「キミが……特待生の、ユアか?」
「は、……はい。」
頷きながら、ついついジッと見詰めてしまう。
スラリとした立ち姿。真っ直ぐな銀髪に、少し冷たく整った顔立ち。
「突然で済まないな。私はブリガンデ公爵家のアルファルファだ。少しだけ話をしたいんだが、もし用事が無ければ今から少し、時間を貰えないか?」
今回の人生で初めて対面する、アルファルファ・ブリガンデ様だった。
アルファルファ様に呼ばれたので、誘ってくれた3人とは教室で別れた。
ブリガンデ公爵家のご子息が、特待生とは言え、わざわざ平民の僕を訪ねて来たんだから。きっと色々と気になっただろうけど、3人は快く、また今度ね、って。
僕は無言のアルファルファ様に連れられて、少し歩いた先にある休憩室へ。
小さな個室じゃなく、何人かのグループで使えそうな広さの部屋。
言われるまま、僕はアルファルファ様の向かいにあるソファに腰掛けた。
本当はすぐにでも、聞きたいことがある。
学園に来てない人達が今、どうしてるのか。
ジェニ様が……あの話、本当なの?
リュエヌ様は無事なの?
義弟は……どうなったの?
でも、身分の高いアルファルファ様に先んじて、僕が話し出すのは駄目だから。
腰掛けたアルファルファ様は、なんだか珍しく困ってるように見えた。
両手の指を絡め合わせるように組んで、僕の方を見ながらちょっと思案顔。
少し経ってからようやく、アルファルファ様が口を開いた。
「初対面で色々と尋ねるのは不躾だが、キミに幾つか聞きたい事がある。」
「あ、あの…大丈夫、です。僕に答えられること、なら……。」
なんとか平静を保って答えなきゃ。
アルファルファ様が僕に聞くことなんて、何があるのか分からないけど。
出来たら、アルファルファ様からの質問の後に、僕も何か尋ねられたらいいな。
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