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第二章 入学試験を受ける前まで戻って
38 不在
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学園に入学してから、気が付けば2ケ月が過ぎてた。
試験で首位だったからか、今回の僕は貴族のご子息達と同じクラスに入った。
上位貴族には僕と同じ年齢の子が少ないみたいで、殆どは下位貴族の子息。
今のところ、僕は平穏な学園生活を送ってる。本当に何も無い。
授業中に僕が先生から褒められたりすると、少しやっかみのような視線を浴びたり、聞こえよがしな陰口を囁かれたりするくらいだ。
僕が孤児院出身なこととか、隣国から来たことについても言われてるみたい。
何処から情報が伝わってるんだろうね。
その程度で収まってるんだから、平民の特待生な僕への対応にしては、大して激しいものじゃないと思う。
……そう感じるのは、これまでの人生ではもっと辛い目にも遭ってるからかな。慣れちゃったのかな。
しかも、そうやって悪意を見せるのは一部の生徒だけで。
多くの同級生は基本的に無関心な態度。
席が近い人とかは、普通に話したりもしてくれる。
今までのことを振り返って考えれば、今の学園での居心地は、決して悪くない。
それなのに……僕の内心は決して穏やかじゃなかった。
だって、ジェニ様と会えてないんだ。
あれ以来、1回も。何処でも。
ジェニ様だけじゃない。リュエヌ様にも。
入学してからの数日は僕も、学園内で2人の姿を見掛けないことを特に、疑問には思わなかった。
クラス教室は学年ごとにフロアが違ってるし、お昼の食事を摂るのも、全員が食堂に来るわけじゃない。上位貴族は特別なレストランがあるから、むしろ会わなくても当たり前。
だけど廊下を歩いてる上級生達の中にも、授業で外に出てる上級生クラスを窓から見ても、ジェニ様もリュエヌ様も姿が見当たらなくて。
よく話してくれる同級生が言うには、上位貴族の子息は急に学園を休むことも珍しくないんだって。領地に行ったりとか、色々と貴族ならではの事情があるんだって。
それを聞いて僕は、そういうものなんだなって自分を納得させた。
それなら会えないのも仕方ないな、って……そして、思い直した。
来てくれるのをジッと待つんじゃなく、会いたいなら、自分から行こうって。
廊下を歩いてるところを呼び止めたりは失礼だけど、その姿を見るだけなら。
それで僕は、2年生のクラス教室があるフロアに何度か行ってみた。
2人のクラスが何処にあるかは本人達から聞いてるし、リュエヌ様のクラスにはこれまでの人生で行ったこともある。
様子をそっと窺って、上級生達の雑談にも注意して。何か分からないかなって。
だけど全然、ジェニ様もリュエヌ様もいない。
2人についての話をする人もいなかった。
そうしてる内に僕の良くない噂が立ち始めたらしい。
特待生が貴族令息との出逢いを求めて上級生のフロアをうろついてる……って。
噂が立ってるのを、同じクラスの子爵令息が教えてくれたんだ。
その日から僕は、2年生のフロアに行くのを止めた。
せっかく子爵令息が忠告してくれたから、って理由もあるけど。
会えなさそうだって、分かったからだ。
ジェニ様も、リュエヌ様も。2人とも学園に来てない。
それどころか、ジェニ様の双子の兄であるジンジェット・ハリス様も。
王子殿下の婚約者であるアルファルファ・ブリガンデ様も。
そして……エドゥアルド王子殿下も。
みんな、誰一人、学園に来てなかった。
とある日のお昼休み。
誘ってくれたクラスメイトと昼食を終えた食堂で。
僕はとうとう、疑問を口に出した。
「ねぇ、ところで……。同じクラスの、ぶ…ブリガンデ様って、まだ…」
「ユア。」
ブリガンデ公爵令息。つまり、アルファルファ様の義弟も僕と同じクラスのはずなのに、まだ会ってない。
彼が1度もクラスに来てないからだ。
僕がジェニ様やリュエヌ様の不在について尋ねるのは躊躇いがあったけど、同じクラスメイトのことなら気にしてもいいんじゃないかなって。
そう思って話し始めたら、止められた。
少し強い口調で言われたのは、僕がこれ以上、喋り続けないようにだろう。
「食べ終わったから外に行こうか。」
「う、……うん。」
そっと場所を変えて、連れて来られたのは野菜を育ててる温室だった。
確か、菜園系のクラブが利用してるって聞いたような。
「今は誰もいない時間だけど、なるべく静かに話そう。トマトの花でも見て。」
クラスメイト……僕に忠告してくれたダンセル子爵令息が呟くように言う。
うっかりすると聞き逃してしまうくらいの、小さな声。
全神経を耳に集中させて、僕は無言で頷いた。
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