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第三章 この国に来た頃まで戻って

76 オーウェンを名乗る者に課せられた存在意義

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「っていうか、オーウェン侯爵家の人ってみんな、そうじゃない?」

「それは違います。オーウェンにもちゃんと神殿担当者がいますよ。神殿で行われる全ての行事に不参加とは、流石に出来ませんからね。」

「あ、そっか。いくらオーウェン侯爵家でも、そうだよねぇ。」

ジョージの言葉に、リュエヌは曖昧に微笑んで視線をカップへ下ろした。


敢えて口には出さなかったが、オーウェン侯爵家の権力は強い。

神殿での行事の全てを、執事を代理人にして任せても問題無い程度に。


妊娠可能な者が限られている所為で、王族が子を授かれる可能性は低いため、王兄や王弟に子供が1人も出来ない事も珍しくはなかった。

彼らの場合、普通の貴族とは事情が違う。

王族なのに祝福を受ける子を授かれない事は、彼らの親類だけでなく、民をかなり落胆させるだろう。

そのような事は決して、あってはならない。

そんな場合に、オーウェンが何処からか連れて来た "祝福を受けた子" を、彼らの子として、秘密裏に家族に迎えるのだ。

ずっと昔から、そういう仕組みだった。

子供を何処から連れて来たのか、何処で見付けたのか、と聞いてはいけない。

それも、昔からある暗黙の了解だった。



オーウェン侯爵家では、どの世代でも常に何人もの養子を迎え入れている。

何代も続く家柄にも関わらず、オーウェンの当主は世襲しないからだ。

当主の息子が継承するのではなく、オーウェンの有力者で構成する "一族会" が、養子の中から優秀な数名を候補として選び出し、最終的に当主が次期継承者を指名する慣習となっている。

自らの血筋を残す必要が無いため、オーウェンの当主は基本的に子を作らない。そもそも結婚自体をしない当主も多かった。

養子として迎える子の多くは、オーウェン一族が関わる孤児院の出身だが、一部の子は「遠縁の親類です」という事になっている。

遠縁と言う割には、まるで本当の親子のように似ている養子も多いのだが……そこは明らかにするべきではない。

"祝福を受けた子" を見付ける伝手と同様に、詳しく聞いてはならぬ秘密だった。




「そう言えばさ。夢での話じゃなくて、リュエヌは現実にユアと婚約するって言ってたけど。それってゆくゆくは結婚までする予定で…なの? いや、あの、ちょっと下世話な話題になっちゃうんだけどさ。その場合って……ユアと子供、作るんだよね……?」

「そうですね、そうなるでしょう。私はオーウェンですから後継ぎを作る必要はありませんが、"精霊神の子" が誕生すると分かっているのなら、子作りしないといけませんからね。」

「あぁ~、だよねぇ。」

「オーウェンの者が自分の子を、とは……違和感があるでしょうが。」

「そっ、そんなこと無いよっ。オーウェンだからって、…その…………。」

自嘲めいた笑みを浮かべるリュエヌに、フォローする言葉をジョージは探した。

だが結局見付からず、困り顔で茶を啜る。


「大丈夫ですよ。ジョージは別に、私の事を悪く思っていないのでしょう?」

「ごめん、だって…」

「良いのです。」

リュエヌも優雅な仕草でカップを傾け、場には自然と沈黙が訪れる。

カップの中身はだいぶぬるく、残り少なくなっていた。


お代わりを淹れると言って、ジョージが席を立つ。

その背中を見送りながら、リュエヌは茶請けとして用意されている小さなジャム付きクッキーを口に運んだ。

イチゴを使用したジャムは予想よりも酸っぱく、僅かに眉が寄った。



先ほどジョージが言い掛けて謝罪したのは、オーウェン侯爵家にまつわる話。

貴族議会の重鎮や高位貴族、一部の者達が知る、オーウェンの醜聞についてだった。

ジョージは近衛兵のトップを務めるハリス家の息子だから、耳にした事があったのだろう。そして一瞬とはいえ、それが頭に浮かんだ事を申し訳なく思ったに違いない。

それは友人に対する酷い侮辱なのだから。


……王家代々の愛人一族。

強大な権力を持つオーウェンは、密やかに、そう称されている。

オーウェンに聞いてはいけない最たるものが、これだ。

そうそう見付けられるはずの無い "祝福を受けた子" をいとも簡単に連れて来られるのは。しかもその出処が明らかでないのは。オーウェンの者が王族の子を産んでいるから、ではないかと……。


もちろん、大部分の貴族達は王族とオーウェンとの関係性を知らないし、知っている極一部の者達も、そんな事は面と向かって言ったりはしない。

王家から並々ならぬ寵愛を受けているオーウェンと対立する事は得策ではない上に、今後、オーウェンが "祝福を受けた子" を見付けて来なくなる可能性もあるのだから。



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