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第二章 入学試験を受ける前まで戻って

61 今回の義弟

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近くで見ても、何度見返しても。

少年は僕の記憶にある、アルファルファ様の義弟と同じ顔だ。



「ぁの、兄が戻って来るまでの間、だけでもいいんですけど……ユアさんに、一緒にいて欲しいんですけど……。駄目、ですか……?」

上目遣いで気弱な風に話しながら、少年が僕と上級生達を見る。

上級生達はお互いに顔を見合わせた後、リーダー格の人に視線が集中した。

少年への対応を丸投げされたリーダー格は、困った顔になってる。

アルファルファ様の名を聞いて、この少年が誰なのかを理解したらしい。


「もしかして、今、忙しい…ですか? だったら待ちます、けど…」

「あ、いや大丈夫、ちょうど終わった所だ。それじゃ。」

そう言って、上級生達はそそくさと離れて行く。


ブリガンデ公爵家の……養子とは言え子息と、下手な関わり方はしない方がいいって判断したんだろう。

何故か特待生と2人になりたいらしいから、さっさと退散するのが得策、ってね。

下位貴族の彼等が王城での出来事をどれくらい知ってるのかは分からないけど、ブリガンデ公爵家の養子が亡くなったことは知ってるはずだから、きっと扱いにくいんだろう。


だけど、でも、それなら……。

どうして僕の前に、あの義弟がいるの?

王城の式典用大階段の上から突き落とされて生命を落とした……って。クロード様は確か、そう言ってたはずだよ。

もちろん僕は、ジェニ様が突き落としたなんて話は信じてないけど。



「あの……何処かに座って、休みませんか?」

少年がそっと話し掛けて来る声も、僕の記憶にあるのと同じ声。

だけど口調はだいぶ違ってて。



どうやら僕は思い違いをしてたみたい。

そもそも今回の人生でジェニ様やリュエヌ様から、アルファルファ様に義弟がいるって聞いた時点で。まだ会ってもないのに僕は何となく、きっと前回と同じ人なんだろうなって、思い込んでたんだ。

だからクロード様の話には凄く驚いて、心の奥では少しホッとしてたかも。

なのに今、僕の前には忘れようもない姿がある。


死んだのは別人? それとも嘘? もしかして養子は、彼1人じゃなかった?


「あ、あっちのベンチが、空いてますね。……行きましょう。」

「……っ!」

動揺しちゃってグルグル考えてる隙に、手を取られそうになって。

反射的に、僕は手を引っ込めた。

無意識で半歩くらい、後ずさりも。


その動きは小さかったけど、それを見た少年は軽く目を見開いた。

傷付いた表情をされて、僕はちょっと慌てる。


どうして初対面の僕に、こんなに近付いて来るのかは分からない。

だけど。

もし本当にこの少年の魂が、前回の義弟とは別物だとしたら。

今回は "ざまぁ" とは無関係な人だとしたら。

あまり近寄りたくないのが本音だけど、今の態度は酷かったかな……。


どうしよう。

今のこと、何て言おう。



「…………あのさぁ。ひょっとして、覚えてる?」

「え……。」

周囲には絶対聞こえない小さな声には、さっきまでと違って悪意があった。

他の人達の目があるから表情は変わってない。大人しそうな微笑みのまま。


でも今、義弟は、僕に正体を現した。


「そっか、そっか。今回は覚えてるんだね。」

「それじゃ、やっぱり……。」

「それとも案外、今までも記憶はあったりする感じ? ユアがちっとも学習しないからさ、その可能性は考えなかったな~。だって毎回、王子サマを好きになっちゃうじゃん。……まぁ、そういう仕様だから仕方ない、か。仕様じゃなかったらアホ過ぎるもんね。」


義弟は時折、手をもじもじさせたりして。

気の弱めな少年が、平民相手に気を遣って話してる、ように見せ掛けてる。

離れたところから僕の様子を見たらきっと、公爵家の養子に話し掛けられて緊張してるだけ、に見えるだろう。



「後から引っくり返されたりしてさ、どうせ結局は上手くいかないってさ、分かってるハズなのにさ~。」

「……言われなくたって分かってる。」

「ところで、今回は進展が遅いじゃない。どうしたの?」

「そんなこと、キミに関係無いでしょ。」

「関係あるよ? ユアが身の程知らずな夢を見てくれきゃ、お話にならないし。」

「も、……もう僕は…」

「前回ほどじゃなくても、今回も王子サマが好きなんでしょ? さっき一緒に踊ってるの見たけどさ、ユア、凄く嬉しそうなカオしてたよ?」

親切心を前面に押し出したような笑顔で、義弟が言う。

僕が最も言われたくない言葉を。


そんなこと無いよ! って、ハッキリ言えない自分が悔しくて。

僕はキュっと口唇を噛んだ。


声を荒げたりして、公爵家の人間と揉めてる姿を周囲に見せたくない。

問題のある生徒だって思われたら、今回も卒業が危うくなっちゃうかも、だから。

ちゃんと卒業して、ちゃんとした働き場所を見付けて、平穏に暮らしたいんだ。

早くこの場から離れた方がいい。



「特に用件が無いなら僕はもう行くよ。」

「あのさ、気にならない? 城での話。」

立ち去ろうとする僕は、義弟は悪戯っぽい声で止められた。



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