逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?

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第二章 入学試験を受ける前まで戻って

29 変えていく気持ち

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試験を首位で通過した僕は、無事に特待生として学園に通えることになった。

受験が終わった段階で、孤児院の雑用を少し手伝いながら、空き時間や寝る前に勉強する生活をしてた。


手伝う必要は無いらしいんだけど、自分の気持ちが落ち着かなくって。

だって、孤児院にいられる対象年齢じゃないのに、居させてもらってるんだから。少しは働かないとね?

この間までと違って、今は部屋に明るい照明があって勉強もしやすい。ちゃんとしたベッドもあるから、寝付きも寝起きも悪くない。

自分の時間もちゃんと取れるし、ちょっとくらい働いても、身体的にも精神的にも辛くはないんだ。


違う、と言えば。

最近は孤児院の子供達とも関われるようになった。

前の院長時代には「子供に悪影響を与えないように」って強く言われて、僕が子供達と会話することは禁止されてたから。

子供達が僕を見て、16歳を超えても孤児院にいられると誤解した上に甘ったれた人格に育ったら大変だ……って言われてたから。

だから僕はこれまで孤児院のアチコチで仕事をしてたけど、いつも子供達がいない場所でばかりだった。例え見掛けても僕は黙って働いてたし、子供達も言い含められてるみたいで誰も近寄っては来なかった。


せっかく、前とは良い方向で違ってるんだもの。

僕は僕の出来る方法で子供達とも関わりたいって、孤児院の人にお願いしたんだ。

文字の読み書きは先生がいるから、学園で習った礼儀作法を教えることに。

高位貴族には通用しなくても、ある程度の下地があるって思わせれば、その先に何か可能性が広がるかも知れないでしょ?


子供達は人懐っこくて、最初は僕の方がおっかなびっくりだったよ。

今更かなって心配してたけど、僕にも懐いてくれた。


もし……もし、また学園を去ることになったら。

いつかの断罪のときみたいに、国を追われることになったら。

またここに。……挨拶くらいは、しに来たいな。




8月も半分を過ぎて。

来月には入学式。僕は学生寮に入る。

その前に色々と準備をするため、街へも出掛けるようになった。


寮で使う部屋は、毎回の人生と同じく個室だ。

ベッドとか机とか、衣装ダンスとかの家具類は備え付けられてる。

制服も、鞄も、授業で使う教材も、特待生は学園から支給される。

必要最低限の物は揃ってるから、石鹸とかタオルとかの日用品と、下着だけを持って入寮することも出来る。


……実際、これまでの僕はそうしてた。

奨学金を全て孤児院に渡して、僅かに貰ったお金で日用品を用意した。

前回までの僕が全然お金が無かったのは、こんな理由だったんだ。

すっかり忘れてたけど、……うぅん、忘れてたって言うよりは。孤児院のことなんて全然、僕の頭に無かったな。

だって、いつもは入寮した後から人生が再開してたから。準備するようなタイミングも無かったから。



でも、今回は違ってる。

院長や副院長が変わって、奨学金は僕がそのまま受け取っていいって言われた。

これまで生活させてくれたんだから、何も渡さないのは流石に気が引けて、せめて半分ずつにしたいって言ったんだけど。新しい院長には、それでも多過ぎだって断られて。

どうにか2割くらいを受け取ってもらったんだ。


それを差し引いても、僕の手元には結構な額のお金が残った。
そのお金で僕は、前よりはもうちょっと物を寮に持ち込むつもり。

今回は、前よりもっと余裕があるように見せたいんだ。

少なくとも……「貴族との出逢いを求めて無理して学園に通ってる貧乏人」、「自分は何にも持ってないってアピールして物を買ってもらう乞食」って悪口を言われないように。

寮内を歩くにも恥ずかしくない服は最低限、買っておかなきゃ。靴も要るよね。それと、学生鞄以外のバッグもあった方がいいな。

日用品の石鹸やタオル、ハンカチとかは少し多めに持って行きたい。

あと、安物で構わないから、何か可愛い装飾品も買おうかな。アクセサリーは足りてますって、分かってくれたらいいんだけど。


もちろん、前より沢山あるからってお金を使い切ったりはしないよ。

配給される教科書以外にも、本屋で良さそうな参考書があれば買いたいし。

親友……は無理でも、同じクラスで仲良くしてもらえる友人が出来るように頑張るから。休日には友人と一緒に、何処かへ出掛けたりしたい。



あ、そうだ。……僕ね?

受験が終わった後の、6月の終わり。

誕生日だったんだ。

もうとっくに過ぎてしまってるけど。


僕は18歳になった。



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