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第一章 いつもと変わらないと思ってた
21 半端な告白と結末
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何処か遠くで義弟が斬られてる気配。
そんなのもう、どうでもいいよ。
「リュエヌ様……! リュエヌ様ぁっ!」
「治療師、中へ! すぐにだ! 急げ!」
涙声で僕が喚く間に、アルファルファ様が人を呼ぶ。
駆け付けた治療師が治癒の魔法を掛けようとして、躊躇するように手を止めた。
「何をしている、さっさと治癒を…!」
「無理です。」
「何が無理だ!」
「治癒の魔法は止血と、表面の傷を塞ぐものです。これだけ深い傷の表面を塞いでしまったら、身体の内側で大量の血をぶち撒けることになります。」
治療師とアルファルファ様の遣り取りに、背筋が冷たくなる。
僕を……庇った所為で……。
リュエヌ様が……!
……どうして……、リュエヌ様……弱い、のに……どうしてっ!
「ならば、何もしないと言うのかっ!」
「麻痺の魔法で、少しでも出血を抑えます。その間に、王宮治療師を…」
「誰かっ! 聞いた通りだ、大至急、城に使いをやれっ!」
治療師の言葉を聞いてアルファルファ様が叫ぶ。
常に冷静な人なのに、今は声に全然、余裕が無い。
「ブリガンデの家名を出して構わん、王宮治療師を連れて来い!」
アルファルファ様の指示で使用人さんの誰かが走り去った。
王宮に、大治癒の魔法を使える治療師を借りに。
治癒の魔法よりも高等な、深い傷を身体の内側から塞ぐ大治癒の魔法。
使える人はとても少なくて、1つの国にほんの数人くらいしかいない。
そんな人は当然、王族や国の重鎮、騎士達のために王宮に所属してる。
高位貴族の緊急事態だから、借りて来ることは出来るだろう。
けど……ここに来るまで、どれだけ時間が掛かる?
「リュエヌ様!」
「しっかりしろ、リュエヌ!」
リュエヌ様の呼吸が荒くなる。
苦しそうに、浅い呼吸を何度も。
「どなたか手伝いをお願いします。怪我人を絨毯に寝かせ……あ、うつ伏せで。」
治療師が言うと使用人さんが駆け寄って来る。
すぐそばにいたアルファルファ様も手伝おうとして、リュエヌ様の両脇から手を差し込んだ。
それをリュエヌ様は、断るように首を振って僕を抱き締める。
腕の力が……こんなに、弱いなんて……。
「ふざけている場合じゃないぞっ。ユアを潰し続ける気か!」
「…治癒、は……もぅ…」
「黙れ! こんなことぐらいで死なせるもんかっ。お前には、まだまだ文句を言い足りないんだぞ。」
「まだ恨ん…で……、し…執念、深い……です、ね。」
「当たり前だ、お前の所為で俺が王子と婚約する羽目になったんだからな。お前にはもうしばらく文句を言わせて貰うぞ。……ほら、退けっ。」
アルファルファ様は叱りながら、リュエヌ様の身体を横へと引っ張る。
使用人さんも手伝ってリュエヌ様を、僕のすぐ横に寝かせても、リュエヌ様は僕の手を掴んで離さなかった。
僕も、リュエヌ様に握られた手を離さなかった。
「ユア……すみません、みっとも…ない、ところを……見せ…しまっ…て…。」
「リュエヌ様……。」
治療術師が傍らに蹲って、リュエヌ様に麻痺の魔法を唱え始める。
でもまだ、すぐには効果が出ないみたい。
「ぁれ…は……、っお…うじの、件は……必要に、駆られ…て……。く、にの…」
「黙って大人しく寝ていろっ。」
無理して喋ろうとするリュエヌ様を、アルファルファ様が制止する。
アルファルファ様は、リュエヌ様が今のことを話してると思ってるかも知れない。
僕には分かった。
リュエヌ様が言ってるのは……僕が階段を踏み外した、あのとき。あの直前に知った、王子殿下とリュエヌ様との行為について。
もしかしたらって、思ったけど。……あぁ、やっぱりだ。
あれはリュエヌ様がわざと、僕に見せたんだね。
どうしてそんなことをしたのか、分からない。
分からないけど。
「リュエヌ様、しっかりしてください。お話は後で……ゆっくり、しましょう?」
あのときは本当にショックだった。でも。
だからって、リュエヌ様をこんな目に遭わせたいなんて、思ってない。
リュエヌ様……話してくれるなら。僕に話してもいいと思ってくれてるなら、ちゃんと落ち着いて、聞かせて。
だから死なないで!
「……ユア。っす、み…ま……、……。」
「っ! リュエヌ様っ!」
「リュエヌっ!」
ふっと、リュエヌ様の手から力が抜ける。
僕は慌てて、手を取り直した。
「大丈夫です、魔法が効いて意識が薄れただけです。出血の方も少しですが、緩やかになって来ました。」
「そ、そうなんですか……。」
「チッ。全く……紛らわしい。」
わざとらしく、アルファルファ様は舌打ちした。
僕もちょっとだけ、ホッとして……。
……あ、…れ? 何だか僕も、目を開けてるのが辛くなって、来た……。
頭がグルグルする。全身が重たくて、だるいんだ。
麻痺の魔法が…僕にも、効果……出ちゃった、みたい。
リュエヌ様と、手を……握って、た…から……かなぁ……。
「ユア? ……ユアっ!」
アルファルファ様が声を掛けてくれてるのに、僕は返事も出来ない。
ご免なさい、今は放っておいて。
もう、目を開けるのも、声を出すのもしんどいの……。
◇ ◇ ◇
目が覚めた。
頭も、身体も、何処も痛くない。
辺りを見回すと……。
「あ…っ……。」
ブリガンデ公爵家でも、オーウェン侯爵家でも、学生寮の部屋でもない。
そこは薄暗い、質素な部屋だった。
そんなのもう、どうでもいいよ。
「リュエヌ様……! リュエヌ様ぁっ!」
「治療師、中へ! すぐにだ! 急げ!」
涙声で僕が喚く間に、アルファルファ様が人を呼ぶ。
駆け付けた治療師が治癒の魔法を掛けようとして、躊躇するように手を止めた。
「何をしている、さっさと治癒を…!」
「無理です。」
「何が無理だ!」
「治癒の魔法は止血と、表面の傷を塞ぐものです。これだけ深い傷の表面を塞いでしまったら、身体の内側で大量の血をぶち撒けることになります。」
治療師とアルファルファ様の遣り取りに、背筋が冷たくなる。
僕を……庇った所為で……。
リュエヌ様が……!
……どうして……、リュエヌ様……弱い、のに……どうしてっ!
「ならば、何もしないと言うのかっ!」
「麻痺の魔法で、少しでも出血を抑えます。その間に、王宮治療師を…」
「誰かっ! 聞いた通りだ、大至急、城に使いをやれっ!」
治療師の言葉を聞いてアルファルファ様が叫ぶ。
常に冷静な人なのに、今は声に全然、余裕が無い。
「ブリガンデの家名を出して構わん、王宮治療師を連れて来い!」
アルファルファ様の指示で使用人さんの誰かが走り去った。
王宮に、大治癒の魔法を使える治療師を借りに。
治癒の魔法よりも高等な、深い傷を身体の内側から塞ぐ大治癒の魔法。
使える人はとても少なくて、1つの国にほんの数人くらいしかいない。
そんな人は当然、王族や国の重鎮、騎士達のために王宮に所属してる。
高位貴族の緊急事態だから、借りて来ることは出来るだろう。
けど……ここに来るまで、どれだけ時間が掛かる?
「リュエヌ様!」
「しっかりしろ、リュエヌ!」
リュエヌ様の呼吸が荒くなる。
苦しそうに、浅い呼吸を何度も。
「どなたか手伝いをお願いします。怪我人を絨毯に寝かせ……あ、うつ伏せで。」
治療師が言うと使用人さんが駆け寄って来る。
すぐそばにいたアルファルファ様も手伝おうとして、リュエヌ様の両脇から手を差し込んだ。
それをリュエヌ様は、断るように首を振って僕を抱き締める。
腕の力が……こんなに、弱いなんて……。
「ふざけている場合じゃないぞっ。ユアを潰し続ける気か!」
「…治癒、は……もぅ…」
「黙れ! こんなことぐらいで死なせるもんかっ。お前には、まだまだ文句を言い足りないんだぞ。」
「まだ恨ん…で……、し…執念、深い……です、ね。」
「当たり前だ、お前の所為で俺が王子と婚約する羽目になったんだからな。お前にはもうしばらく文句を言わせて貰うぞ。……ほら、退けっ。」
アルファルファ様は叱りながら、リュエヌ様の身体を横へと引っ張る。
使用人さんも手伝ってリュエヌ様を、僕のすぐ横に寝かせても、リュエヌ様は僕の手を掴んで離さなかった。
僕も、リュエヌ様に握られた手を離さなかった。
「ユア……すみません、みっとも…ない、ところを……見せ…しまっ…て…。」
「リュエヌ様……。」
治療術師が傍らに蹲って、リュエヌ様に麻痺の魔法を唱え始める。
でもまだ、すぐには効果が出ないみたい。
「ぁれ…は……、っお…うじの、件は……必要に、駆られ…て……。く、にの…」
「黙って大人しく寝ていろっ。」
無理して喋ろうとするリュエヌ様を、アルファルファ様が制止する。
アルファルファ様は、リュエヌ様が今のことを話してると思ってるかも知れない。
僕には分かった。
リュエヌ様が言ってるのは……僕が階段を踏み外した、あのとき。あの直前に知った、王子殿下とリュエヌ様との行為について。
もしかしたらって、思ったけど。……あぁ、やっぱりだ。
あれはリュエヌ様がわざと、僕に見せたんだね。
どうしてそんなことをしたのか、分からない。
分からないけど。
「リュエヌ様、しっかりしてください。お話は後で……ゆっくり、しましょう?」
あのときは本当にショックだった。でも。
だからって、リュエヌ様をこんな目に遭わせたいなんて、思ってない。
リュエヌ様……話してくれるなら。僕に話してもいいと思ってくれてるなら、ちゃんと落ち着いて、聞かせて。
だから死なないで!
「……ユア。っす、み…ま……、……。」
「っ! リュエヌ様っ!」
「リュエヌっ!」
ふっと、リュエヌ様の手から力が抜ける。
僕は慌てて、手を取り直した。
「大丈夫です、魔法が効いて意識が薄れただけです。出血の方も少しですが、緩やかになって来ました。」
「そ、そうなんですか……。」
「チッ。全く……紛らわしい。」
わざとらしく、アルファルファ様は舌打ちした。
僕もちょっとだけ、ホッとして……。
……あ、…れ? 何だか僕も、目を開けてるのが辛くなって、来た……。
頭がグルグルする。全身が重たくて、だるいんだ。
麻痺の魔法が…僕にも、効果……出ちゃった、みたい。
リュエヌ様と、手を……握って、た…から……かなぁ……。
「ユア? ……ユアっ!」
アルファルファ様が声を掛けてくれてるのに、僕は返事も出来ない。
ご免なさい、今は放っておいて。
もう、目を開けるのも、声を出すのもしんどいの……。
◇ ◇ ◇
目が覚めた。
頭も、身体も、何処も痛くない。
辺りを見回すと……。
「あ…っ……。」
ブリガンデ公爵家でも、オーウェン侯爵家でも、学生寮の部屋でもない。
そこは薄暗い、質素な部屋だった。
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