上 下
19 / 91
第一章 いつもと変わらないと思ってた

19 言い掛かり

しおりを挟む
庇ったお腹を。中に宿った小さな生命を、そっと撫でる。

手が頼りなく震えてる。

得体の知れない恐怖が形を作ってくようで。でも聞かずにいられなかった。


「……こ、今回、って……?」

「ぁん、なんでもない、コッチの話。」

軽く流されたけど、僕もある意味、確信した。

義弟は、僕が繰り返した人生のことを知ってるんだ、って。


でも……どうして?

今まで僕を "ざまぁ" する中心になってたのは、毎回いつも違う人だった。

アルファルファ様の義弟なんて、今まではいなかったよ?

僕が知らなかっただけで、これまでにも、いたの?



「困るんだよなぁ、あんまりガッツ見せられてもさ。」

うんざりした声で僕の思考は中断した。


「……パターン、変わって来たかな。まぁコッチもいい加減、独り寂しく死にましたエンドの連続には飽きて来たところだし。」

義弟の手が、僕の顎から首元へ移動する。

意外と大きい手で、僕の咽喉はすっぽりと覆われてしまった。


「今回は手を汚してもいいかな。」

義弟の手に少しだけ力が入った。

思わず身体が強ばった僕に、義弟は笑いながら顔を寄せる。


「いつもより早いけど、たまにはいいよね。早めに終わった分だけ、次が始まるのも早いだろうしさ。」

「そんなに……僕が嫌い、なの?」

「えっ、なに? 僕を嫌いになる人なんていないもん、ってわけ? うっわ、凄い自信だね。まだ勘違いしてるんだ~。前にも言わなかったっけ? 断罪前のキミが王子サマから好かれてたのは、そういう風に決められてるシナリオだから。そうじゃないと、"ざまぁ" 出来ないから。それだけ。」

「……っ! じゃあ……好きにならなければ良かったの?」


咽喉が詰まりそうになるのを我慢して、僕は問い掛け続けた。

ショックを受けてる場合じゃないって、自分を必死に励ましながら。


僕や王子殿下の気持ちを、"そういう風に決められてる" だなんて言われたら、今までの僕ならきっと泣いてしまうか、何も言えなくなってただろう。

でも今の僕は違う。

義弟の言ってたように、今回の僕は違う。


危ない目に2度も遭わせたこの子を、守らなくちゃ。

殺されるわけには行かない。

この子を産むまでは。殺されてやるもんか。


「無理だよ。どうせキミはまた、同じ事を繰り返すんだから。」

「次は違うよ。」

「違わないね。今までも結末は同じだから。キミには精々、惨めな気持ちになって貰わなきゃ。それが断罪の醍醐味だからさ。」

「……今までそうだからって、次も同じとは限らないよ。」


ちょっとでも、長く、会話をしなきゃ。

もう少ししたら、お医者さんかリュエヌ様が来てくれるはず。それか、使用人さんが戻って来るはず。


「……時間稼ぎは無駄だよ?」

「あ……ぐっ。」

見透かした言葉と同時に、咽喉を強く握られた。

頭に血が昇る。


苦しい……もう、駄目かも……。嫌だ、諦めちゃ駄目だっ。


「悪いけど、今は2人だけのシーンだ。特別アイテム使ったんだから。1シナリオに1回ものの強力なのだから、諦めなっ……、……い゛っ、…いだだあぁ~っ!」

義弟の手の甲に、思いっきり爪を立てた。怯んだところを更に、手指に噛み付く。

人を傷付けるのは怖いけど、考えてるような場面じゃない。


「いだぁっ、いだい……っ! …うあ゛あ゛ぁっ!」

悲鳴を上げた義弟は、僕を振り解いて突き飛ばした。

その拍子に、半端にベッドに乗り上げてた身体がバランスを崩して、義弟は後ろ向きでベッドから落ちる。重たい音がしたけど、豪華な絨毯が敷かれてるから大して痛くもないだろう。

精一杯の素早い動きで、僕もベッドを反対側へと降りる。


「あぁっ、クソ……! ぃ…ってェな、クソぉ。」

義弟が激しく苛立った様子で立ち上がった。

転んだ拍子に気絶した、なんて……僕の都合の良い展開にはならない。


近付いて来る義弟から少しでも遠ざかろうと、ベッドを間に挟んで逃げ回る。

外へ出たかったけど、廊下へのドアは遠くて。追い付かれそうだ。


「生意気に抵抗すンのか? ……今回は絶望が足りなかったみてぇだな。」

義弟がベッドを乗り越えて来た。

僕は必死で、そこらにある物を投げ付ける。

だけど僕が投げられるような、手頃な物の数は限られてて。


捕まえられて。腕を振り回しても解けなくて。

馬乗りするように倒された。


「っざけんなよ、クソがっ!」

「その喋り方が素なんだね。」

怒鳴り付ける義弟はすっかり雰囲気が変わってた。

学園で見てたのは、全部、演技だったみたい。


「お前、マジで絶望が足りてねぇな。」


ゴスっ……!


「あぐぅっ!」


今まで感じたことのない衝撃が、お腹に。

咄嗟に腕で庇っても、その上から躊躇なく痛め付けられる。


「やっ、…ぃ、や……、やだ…っ。」

「ふざけるなっ、なんでも、泣けばっ、許されると、思うなっ。」

何度も何度も殴られて。

お腹に手をやったまま動けなくなった僕に、義弟は圧し掛かった。


僕の首に義弟の両手が掛かる。


「お前みたいな、何でも周りが、やってくれて、叶えてくれて……っ、お礼を言うだけで、可愛いって、チヤホヤされるような奴が、大っ嫌いなんだよっ!」

義弟の言葉の後半は、叫び声になってた。


何かしてもらったらお礼を言うのは当たり前なのに。

そんなことでさえ、ここまで嫌われるなんて。


……どうして、そこまで言われなきゃならないの?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

可愛い悪役令息(攻)はアリですか?~恥を知った元我儘令息は、超恥ずかしがり屋さんの陰キャイケメンに生まれ変わりました~

狼蝶
BL
――『恥を知れ!』 婚約者にそう言い放たれた瞬間に、前世の自分が超恥ずかしがり屋だった記憶を思い出した公爵家次男、リツカ・クラネット8歳。 小姓にはいびり倒したことで怯えられているし、実の弟からは馬鹿にされ見下される日々。婚約者には嫌われていて、専属家庭教師にも未来を諦められている。 おまけに自身の腹を摘まむと大量のお肉・・・。 「よしっ、ダイエットしよう!」と決意しても、人前でダイエットをするのが恥ずかしい! そんな『恥』を知った元悪役令息っぽい少年リツカが、彼を嫌っていた者たちを悩殺させてゆく(予定)のお話。

いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな? そして今日も何故かオレの服が脱げそうです? そんなある日、義弟の親友と出会って…。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

人生やり直ししたと思ったらいじめっ子からの好感度が高くて困惑しています

だいふく丸
BL
念願の魔法学校に入学できたと思ったらまさかのいじめの日々。 そんな毎日に耐え切れなくなった主人公は校舎の屋上から飛び降り自殺を決行。 再び目を覚ましてみればまさかの入学式に戻っていた! 今度こそ平穏無事に…せめて卒業までは頑張るぞ! と意気込んでいたら入学式早々にいじめっ子達に絡まれてしまい…。 主人公の学園生活はどうなるのか!

転生したら乙女ゲームの攻略対象者!?攻略されるのが嫌なので女装をしたら、ヒロインそっちのけで口説かれてるんですけど…

リンゴリラ
BL
病弱だった男子高校生。 乙女ゲームあと一歩でクリアというところで寿命が尽きた。 (あぁ、死ぬんだ、自分。……せめて…ハッピーエンドを迎えたかった…) 次に目を開けたとき、そこにあるのは自分のではない体があり… 前世やっていた乙女ゲームの攻略対象者、『ジュン・テイジャー』に転生していた… そうして…攻略対象者=女の子口説く側という、前世入院ばかりしていた自分があの甘い言葉を吐けるわけもなく。 それならば、ただのモブになるために!!この顔面を隠すために女装をしちゃいましょう。 じゃあ、ヒロインは王子や暗殺者やらまぁ他の攻略対象者にお任せしちゃいましょう。 ん…?いや待って!!ヒロインは自分じゃないからね!? ※ただいま修正につき、全てを非公開にしてから1話ずつ投稿をしております

せっかくBLゲームに転生したのにモブだったけど前向きに生きる!

左側
BL
New プロローグよりも前。名簿・用語メモの次ページに【閑話】を載せました。    つい、発作的に載せちゃいました。 ハーレムワンダーパラダイス。 何度もやったBLゲームの世界に転生したのにモブキャラだった、隠れゲイで腐男子の元・日本人。 モブだからどうせハーレムなんかに関われないから、せめて周りのイチャイチャを見て妄想を膨らませようとするが……。 実際の世界は、知ってるゲーム情報とちょっとだけ違ってて。 ※簡単なメモ程度にキャラ一覧などを載せてみました。 ※主人公の下半身緩め。ネコはチョロめでお送りします。ご注意を。 ※タグ付けのセンスが無いので、付けるべきタグがあればお知らせください。 ※R指定は保険です。

処理中です...