逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?

左側

文字の大きさ
上 下
18 / 91
第一章 いつもと変わらないと思ってた

18 未だ決着せず

しおりを挟む
静かな部屋で僕は目覚めた。

寝てるのは柔らかなベッド。

自分の身体から消毒薬の匂いがする。


今まで繰り返してきた人生の、始まりの場所と違う。



「ど…して……?」

愕然と呟いた。


これで終わるんだ、って思ったのに。

どうして、まだ生きてるの?

僕はまだ、あの人生の続きをしなくちゃいけないの?

馬車に轢かれても、階段から転げ落ちても僕が生きてるのは……王子殿下が結婚してない、から……?



「ユア様、気が…付かれましたか……。」

見覚えのある使用人さんが僕を見て涙ぐむ。

僕が意識を取り戻したことを、喜んで、ホッとしてくれてるんだ。

そんなに長い付き合いでもないし、僕なんか、リュエヌ様が急に連れて来た紛い物の婚約者なのに。こんなに心配してくれてた。


だけど僕は返事をしなかった。

あぁ、ここはオーウェン侯爵家の一室なんだなって認識するだけ。

胸が痛くなって、それから、じわじわと心が冷えて行く。



使用人さんは僕に、決して起き上がらないようにと言い含めると、僕が目覚めたことを知らせに、急ぎ足で部屋を出て行った。

しばらくしたら、リュエヌ様か、お医者さんか……誰か来るだろう。

会いたくないけど、会いたくないですって言葉にするのも嫌だ。


身体全体がズキズキして、ヒリヒリもする。ちょっと麻痺した感じもある。

寝返りも満足に出来ないのが分かって、仕方なく目を閉じた。


リュエヌ様が来るまでの間に、僕自身を守る鎧を作らないといけない。

そうじゃないと、この人生の終わりが訪れるまでが辛過ぎで。



休もう。これからは。生命が終わるまでずっと。

自分の気持ちに、お休みをあげよう。

勘違いしない。期待しない。悩むのも、申し訳なく思うのも、全部やめる。

どうせ逃げられないんだから。

お腹に王子殿下の子を宿した僕は、自分の意思で何処かに行けるはずも無い。


だから、せめて……生まれた子が酷い目に遭わされないように。

僕は精々、偉い人達の都合の良い人形でいよう。

何も聞かず、何も知らず、望まれるまま、逆らわずに。


大丈夫。だって、今までと何にも変わらないんだから。

王子殿下の心に僕がいない、ってことも。最初っから変わらないんだから。




目を瞑ってボンヤリしてたから、部屋に入って来る人に気付かなかった。

でも何だか、ねっとりした嫌な気配を感じて目蓋を上げる。


「……!」

「おはよ。」

見下ろしてる人物に、僕は声を失った。


「兄さまに取り入ってるな~、と思ってたら……リュエヌと婚約だって? ついこないだまで王子を追い掛け回してたのに、変わり身早いね。」

声だけは楽しそうに、アルファルファ様の義弟が僕を嘲笑う。

大きな声じゃないのに義弟の言葉は、やけにハッキリと聞こえた。


「でも、その様子じゃ……ちょっとは現実を知ったみたいだね。みんなが優しくしてくれてる夢からは、ちゃんと覚めたかい?」

「……何しに、来たの?」

「あっれぇ~? なんだよ、意外と元気じゃん。しぶといね~。」

義弟はわざとらしく目を見開く。


「キミの様子、見たかったのにさ。リュエヌったら、ちっとも会わせてくれないんだもん。友達の婚約をお祝いしてあげたかったのにな。……なんてね。」

「お祝いの言葉なら、……リュエヌ様に、言って。」

聞きたくなくて、僕は顔を背けた。


すると義弟が、僕の顎を掴んで、無理矢理に顔の向きを戻す。

力でねじ伏せるように、乱暴に押さえ付けられて。


「ぃた…いっ……。」

「ねぇ、キミさ……。」

義弟が食い入るように僕の顔を覗き込む。

口元だけを歪ませた義弟の笑顔に、言い知れない恐怖を感じた。



「転生者だろ?」

問い掛ける言葉だけど、義弟の表情は尋ねるものじゃない。

分かってることを口に出してるだけだ。


「……てん、せい…しゃ……。……僕が?」


他の国々ではどうだか知らないけど。この国や、僕が昔いた隣国では、おとぎ話の題材によく "生まれ変わり" が書かれてる。

物語では、生まれ変わることを転生って表現してた。

僕の知ってる "転生" は、死んだ人の魂が天国で休憩してからまた生まれるときに、死ぬ前の記憶や知識をうっかりして持ち込んじゃう……そういうもの。


だから僕は違う。僕は転生じゃない。

何度か繰り返してる人生だけど、それは全部、僕だから。


「僕は違うよ。」

「ほ~っら、わざとらしい。やっぱりね。」

僕の反応で義弟は、逆に確信を強めたみたい。

歪な口唇をますます吊り上げた。


……なんで? なんで、そう思うの?


「違う……って言う時点で、そうですって自白したようなもんだよ。それに気付かないとか、ほんっと、バカだね。」

「だって、本当に…」

「ど~りでね。死にそうなタイミングがあっても死なないワケだ。それどころか、逆に利用して兄さまやリュエヌをいいように利用してさ。」

「それは……。」

「身重の身体で、馬車に轢かれても、階段から転げ落ちても死なないし。しかも、赤ん坊も流れない、とか。今回のキミ、ちょっと……モチ過ぎ、じゃない?」


義弟の目が、僕の身体の方へと流れる。


不躾に注がれた視線から隠すように、僕は布団の中でお腹を庇った。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

そんなの真実じゃない

イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———? 彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。 ============== 人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

春を拒む【完結】

璃々丸
BL
 日本有数の財閥三男でΩの北條院環(ほうじょういん たまき)の目の前には見るからに可憐で儚げなΩの女子大生、桜雛子(さくら ひなこ)が座っていた。 「ケイト君を解放してあげてください!」  大きなおめめをうるうるさせながらそう訴えかけてきた。  ケイト君────諏訪恵都(すわ けいと)は環の婚約者であるαだった。  環とはひとまわり歳の差がある。この女はそんな環の負い目を突いてきたつもりだろうが、『こちとらお前等より人生経験それなりに積んどんねん────!』  そう簡単に譲って堪るか、と大人げない反撃を開始するのであった。  オメガバな設定ですが設定は緩めで独自設定があります、ご注意。 不定期更新になります。   

思い出してしまったのです

月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。 妹のルルだけが特別なのはどうして? 婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの? でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。 愛されないのは当然です。 だって私は…。

処理中です...