逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?

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第一章 いつもと変わらないと思ってた

11 王子の為に。王家の為に。

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   ◆   ◆   ◆



ユアより一足先に応接間へと向かうアルファルファ・ブリガンデの秀麗な眉目には、先程ユアと話していたよりも深い皺が刻まれていた。

彼の表情をこうさせているのは紛れも無く、リュエヌ・オーウェンの言動だった。



あの事故の翌々日。ユアが目覚める前のこと。

リュエヌから、ブリガンデ公爵家に手紙が届いた。

手紙の内容の大部分は問題無い。

事故に遭ったユアの心配と、様子を窺う言葉。ユアを助けた公爵家に対する、多大なる感謝の言葉が綴られていたのだから。


手紙の差出人が、パーティ会場でユアを断罪した側のリュエヌであるという点と。締めくくりに添えられた一文が問題なのだ。



「格別な気遣いを……か。」


確かに書いてあった。

今のユアは大事な時期ですので格別な気遣いを願います……と。

明らかにユアが妊娠していることを示唆する一文であり、事実、ユアの胎内には小さな生命が宿っていた。


それを知っていて、あのような場で大々的に、晒し者にしたというのか。

あの場面を思い出すと、アルファルファの腹の奥から苦いものが込み上げて来る。


やはり一言、あの場で発言するべきだった。

もはや単なる言い訳に過ぎないが、あの時、あの場では。2人を衆目の前で明確に決別させることが、最も後の禍根が無く、有効なものと考えていたのだ。

ユアが王子妃の責を果たせるとは思えなかった。

だから黙っていた。

都合の良過ぎる婚約者からの視線や、興味津々といった風の第三者からの視線を浴びても、黙っていたのだ。


今なら、あの方法は最良では無かったと言える。

別れさせる事は変わらないとしても、他にやりようは何かあったはずだ。



ようやく目覚めたユアは、自分が妊娠しているとは知らなかった。

目覚めた際の受け答えを見る限り、しらばっくれているようには見えなかった。そもそも妊娠の事実を知っていたならば、馬車の直前に駆け込むような無謀な真似はするまい。

そして赤ん坊の父親がエドゥアルド王子であることも間違いないだろう。


試しにカマを掛けてみたユアの反応から、自分の予測が当たっていると確信したアルファルファは、頭の痛い思いだった。

例え……手を出した時には、ユアを側室として迎えるつもりだったとしても。もう少しは節度と忍耐を持てなかったものか、と。




「なにが……、愛の結晶、だ……。」


今日、ブリガンデ公爵家を訪れたリュエヌは全く表情を変えずに言い放った。

ユアと……、自分とユアとの愛の結晶を、連れ帰りたいと。


「よくもぬけぬけと。」

アルファルファの声に苛立ちが滲む。


お腹の子の父親がリュエヌだなどと、微塵も信じる気がしない。

リュエヌも、そんな戯れ言が通用しないと分かっている。

だがそれでも、リュエヌはそれを押し通す自信があるのだろう。



リュエヌ・オーウェンという男は……王子の醜聞を片付ける為に、ユアとの親密な関係を無かった事にするような男だ。


多少以上の強引な方法を選んだが、王子の醜聞に関して、リュエヌの火消し策は上手く成果を出していた。

学園内で密かに囁かれていた、「エドゥアルド王子が孤児の平民ユアと親密な関係になっている」という王子に相応しくない噂。

噂を広める多くの生徒達は、王子ともユアとも無関係な者ばかり。噂を噂のまま、面白おかしく話していただけだった。

リュエヌはそこを逆手に取り、パーティでの断罪より前から、密かにじわじわと、秘密の子飼い達を使って新たな噂を広めていた。


新たな噂は「ユアの親し気な振る舞いを見て、誤解した者が誤った噂を広めた」というもの。誤解に尾ひれが付いて広まった不躾な噂を訂正するために、大勢の前での吊るし上げは、やむを得ずの苦肉の策だった……という内容も付け加えて。

パーティ会場でのあの出来事以降、王子とユアの噂は「王子から気に掛けて貰った特待生が勘違いし、勝手に王子に熱を上げていただけ」という内容に、ほぼ塗り換わったと言える状態になった。

平民なのに王子から可愛がられているユアへのやっかみが、新たな噂が広まる原動力となった、という点も否めない。

リュエヌが噂の火消しに動いてから、3週間程度だった。


多くの無関係な生徒達の記憶は、新しい噂の内容に上書きされた。

2人の関係はそんな風には見えなかった、と声を上げる者はいない。

オーウェン侯爵家の権力を前に、婚約者がいる王子殿下の不貞を指摘するなど、なかなか出来ることではないのだから。



「多少汚くとも王家の為、か……。」

流石はオーウェン侯爵家の跡取り候補、と。

国と王家に対する忠誠心だけは、アルファルファも認めるところであった。



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