逆ざまぁされ要員な僕でもいつか平穏に暮らせますか?

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第一章 いつもと変わらないと思ってた

8 婚約者の責任

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婚約者様の言葉が耳に響く。

意味がよく分からない。


誰が僕を、こんな風に……って。別に僕は、誰にも……? ……待って。こんな風って、……どんな? 学園に入学した頃と、僕はそんなに、変わってないはず……。

ざまぁの記憶がある分、ずっと前の人生よりは分別が付いた……かな? もっとワガママ言ってた…かな……。どうだろう……あれ?

……僕って、どんな感じだったっけ?




「仕事先は何処だ?」

「…はい……えっ? あっ。」

失礼だけど僕は、聞き返してしまう。

だって質問が突然なんだもの。


さっきから、婚約者様の言動は理由の分からないことばっかりだ。


「……その怪我では働けないだろう。働き始める日を変更できそうか、仕事先に遣いをやって確認させる。」

「そんなの、無理ですよ……。働く前からクビに、なっちゃう……。」

「それならそれで、代わりの仕事は責任をもって用意しよう。」

「は、……はい?」

「しばらくはこの部屋を使うがいい。普段は使っていない部屋だ。本邸とは離れているから、そうそう騒がしいこともないはずだ。」


本当に、意味が分からない。

パーティでのやり取り、覚えてないの? 僕は大勢の前で、あんなに惨めに断罪されて……そんな風にされるような人間だよ? どうしてそんな僕を、こんなに……。

高貴な人って、こうなの?


「どうして、という顔をしているな。」

「……そこまでしてくれる理由が分からない、です。だって、僕は…」

「私にも責任があるからだ。」

思いも寄らない言葉を聞いた。


婚約者様は責める側、でしょ?

責任なんて……、一体、何の?



「学園でのエドゥアルド殿下の行動は、婚約者である私の落ち度だ。」

「そ、そんなっ、落ち度だなんて…」

「責任と分別のある行動をと、殿下に諌める言葉を届けることが出来なかった、私にも責はある。」


学園での行動は僕自身や、王子殿下自身が選んだことだ。

婚約者様に仕向けられて、じゃない。

責任を取ってもらうだなんて……2人とも子供じゃないんだから。


ただ僕が、身分違いも考えられず、好きになっちゃっただけ。

僕の気持ちにエドが応えてくれた……そんな勘違いをしちゃっただけ。




「あの男は……きみに、手を出しただろう?」


「……っ!」


あの男が誰のことなのか。

婚約者様の言葉の意図は。

分かるけど認めたくない。


「違うか?」

「ち、違います!」

「違わない。」

「違うっっ!」

婚約者様が相手なのに、自分でも驚くくらい大声が出た。

格の違いに怯んじゃいそうになりながら、僕は精一杯、睨み付ける。


だって本当に違うんだから。


ただ……、僕は、ただ……。好きな人、だから……許した、だけ。

悪戯に手を出されたんじゃない。



「責任を取ってもらうようなことは、ありませんから。」

どうにか声を震わせずに言えた……と、思う。


僕の言葉にピクッと片眉を上げた婚約者様は、少し眉を顰めて僕を睨んだ。

不愉快にさせたのは分かってる。

でも、これだけは譲れない。

婚約者様に責任を取ってもらうなんて、そこまで厚かましい人になりたくない。



「はぁぁ……。」

深い溜息を吐いた婚約者様は、まだ少し険しい顔のまま。

僕の顔に向けていた視線を下ろした。


気の所為かも知れないけど、僕の身体……お腹を見ている、ような……?


「……子供はどうする気だ?」

「…………?」

「学園を辞めて、働いて、独りで産み育てる気なのか?」

「えっ……!」

子供をどうする、って……。子供って……! 僕、の……?

……まさか、そんな……!


驚いて。でも手は無意識に、自分のお腹を庇った。

信じられない。

撫でてみても今までと何も変わりが無いのに。


「きみの怪我などについて、医者から診察結果を報告された際に聞いたことだ。医者が言うには、もうじき2ケ月だそうだが……本当に気が付いていなかったのか。」

「……っは、……はい。」

全く気付かなかった。自分の身体なのに。

言われてみればこの数日間……僕は少し食欲が落ちたり、ちょっと寝つきが浅かったり、気分が沈んだりしてた。

もうそろそろ、"ざまぁ" をされる時期だから、てっきりその所為だって思ってた。


「では改めて尋ねるが、……どうする気だ?」

「…………。」

「その子の父親には恐らく、責任を取る意思は無いだろう。」

「…………。」

何も言えない僕は、きっと酷い顔をしてる。

ベッドで横になってて良かった。

もしも立ってたら足元から崩れちゃいそう。


どうする……どうしたら、いい? 分からない。

仕事を紹介してもらって、どうにか……、独りで……。いつか、王子殿下が結婚して……。1年後、もしかしたら、また…僕の生命が終わる、そのときまで……。学園でのことを忘れて……生きて行こうって……思ってたのに。

忘れようって……。忘れられる、って……思えてたのに……っ!



「自分でも知らなかったなら、誰にも話していないんだな。……そこは幸いだった、と言えるか。」

婚約者様の話す声がやけにハッキリ聞こえる。

頭の中がグルグルしてる僕とは違って、とても冷静に、話を進めようとしてる。


「何もアテが無いなら、公爵家には助力の用意がある。」

「…………。」

「今はまだ目覚めたばかりだ。少し休むといい。」

「……婚約者としての、責任……ですか。」

絞り出した僕の言葉に、婚約者様は曖昧な頷きを返した。



その後、婚約者様が部屋を出て。

使用人さん達が暖かい食事を用意してくれたり。身体を拭いて、着替えを手伝ってくれたり。それから冷たい飲み物を用意してくれたり。こんな僕の世話をしてくれた。


僕は……どんな気持ちでいればいいのか、自分がどうしたいのかも分からない。

自分の気持ちをどこに向けたらいいんだろう。


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