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第一章 いつもと変わらないと思ってた

9 怒りの矛先

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   ◇   ◇   ◇


あの事故からあっという間に、2週間も過ぎてしまった。

自分で思ってたよりも僕の怪我は酷かったみたい。意識を取り戻した後も、ベッドの住人状態を卒業するまで更に4日間も掛かったんだ。

少しずつ起き上がれるようになって、部屋の中で歩けるようになって。

使用人さんを伴って裏庭へ出られるようになったのは、更に1週間経ってから。


僕が使わせてもらってるのは、公爵邸の離れの一角。……と言っても今、離れを利用しているのは僕だけらしい。実質、僕が独占してる状態だ。

婚約者様……アルファルファ様が言ってたとおり、ここはとても静かだった。訪れてくるのは診察してくれるお医者さんと、僕の様子を見に来るアルファルファ様だけ。

何人かの使用人さん達はみんな物静かで、僕があれこれ言われることもない。流石は公爵家の使用人さん、陰口ひとつ、僕の耳に入って来ない。

きっと胸の内では僕が公爵邸で過ごすことを、快くは思われてないだろうけど。

それを申し訳なく思って恐縮できる余裕が、まだ僕には無かった。




お昼過ぎ。

僕は裏庭でベンチに腰掛けて、薔薇の生け垣をぼんやり眺めてた。

骨折はしてなかったものの、足はかなり面倒な感じに捻ってたみたい。まだちょっと引きずってて、すぐ歩き疲れちゃうんだ。


すぐに疲れるのは気持ちの所為でもある……のかも知れない。

僕は未だに、自分の気持ちが整理付かなくて。

波立つように感情が荒れたりは、もう、しない。しないけど。何かよく分からない、怒りにも似たモヤモヤした感情が、気を抜くと胸の中でグルグルして、治まらなくなっちゃう。

悪い言葉が口をついて出ちゃいそうで、それがつらい。

どうしても気持ちがしんどくなったら、こうして裏庭に出てる。もう習慣になっちゃったみたいに、無意識の内にお腹を撫でながら、ただ景色に目をやってる。

僕の気持ちが悪い方向ばかり見ちゃ、お腹の子に良くないでしょ。

薔薇の季節じゃないから花は咲いてないけど、丁寧に手入れされた植物を見るだけでも少しは気分転換になるからね。



付き添いで一緒にいてくれる使用人さんが、近付いて来る人の気配に気付いて恭しく礼をする。僕もそっちを向いて、相手を確かめた。

少し難しい顔をしたアルファルファ様だった。


「そんな薄着で庭に出ているのか。」

「アルファルファ様……。」

咎めてるようで気遣ってくれる言葉に僕は、未だに戸惑ってしまう。

婚約者様は、僕が名前で呼ぶことを許してくれたり、妊娠してる僕の体調を気に掛けてくれてるんだ。まるで……本当に僕を、心配してくれてるみたいに。


どうしてアルファルファ様は、こんなに僕に配慮してくれるのか。

その理由を僕なりに考えてみた。

婚約者としての責任……なんてアルファルファ様は言ってたけど。そんなわけないって、僕にでも分かるよ。


思い当たることは、やっぱり……どう考えても、僕のお腹の中にいる子だ。

アルファルファ様は、僕のお腹に宿ったのが王子殿下の御子、だと考えてる。その情報は公爵家を通じて、お城に伝わってるだろう。自分が思ってた以上に、大変な状況になってるかも。

王子殿下の子を身ごもった僕を野放しには出来ない。市井でひっそりと子供を産むなんて、許されない。

産み落とされた子が将来、王太子殿下の……行く行くは国王陛下のご落胤、なんて担ぎ上げられて。王位を巡る火種になりかねないんだから。

僕やお腹の子に危害が加えられないのは、たぶんまだ、そこまでの決定が下されてないから。もしかするとお城では、この子の利用価値について検討されてるのかも知れない。


だからアルファルファ様は、僕を誰とも接触させないように離れで囲い込み、僕の体調にも気を配らなきゃいけないんだ。

そう、だから僕は公爵邸で世話をされている。

もしそれがアルファルファ様の言う、"婚約者としての責任" だとしたら、なんて酷い話なんだろう。



自分がこれからどうなるのか、分からない。

お腹の子もどうなるか。無事に生まれるのか、生まれてもいいのか、分からない。

そのことが僕の気持ちを落ち着かなくさせている。

だけどもう何処にも逃げ出せない。

痛む身体で、足を引きずって、人に知られず、ここから出るのは無理。万が一にでも抜け出せたとして、すぐに見付かるに決まってる。



何処にも行けない僕。文句を言いたくても、その相手はもう手の届かない人。

僕の様子を見に来なきゃならないアルファルファ様。僕をなじれない。



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