13 / 91
第一章 いつもと変わらないと思ってた
13 すべて恙無く
しおりを挟む◇ ◇ ◇
応接室に入った僕の方を、アルファルファ様とオーウェン様が振り返る。
僕を見たオーウェン様は穏やかな笑みを浮かべた。
最近の記憶にある表情とは全然違う、優しい微笑に僕は戸惑ってしまう。
何となく落ち着かない感じがして、僕は部屋から持って来た袋をギュッと抱えた。
王子殿下に返す物を入れた、綺麗な袋。馬車に轢かれたあの日に汚れちゃったのを、使用人さんが洗ってくれたんだ。
「久し振りですね……ユア。」
「ぁ、はい。お久しぶり、です……。」
自分から会いに来てくれたんだから、物を預かるくらいはお願いできるかなって期待はしてたんだけど。
オーウェン様の様子は、僕が想像してた以上に柔らかかった。
ぎこちなく挨拶した僕にアルファルファ様が、ソファーに座るよう言ってくれる。
示されたのは一人掛けソファ―。アルファルファ様の隣に置いてある方だ。
オーウェン様が座ってる長ソファ―の方じゃなくて良かった。
同じソファ―に並んで座るなんて、今はまだ、ちょっと居心地が悪いと思うから。
「ユアが馬車に轢かれたと聞いて、とても心配しましたよ。歩ける程度までには回復したようですね。……良かった。」
「はい……あの、お陰様で。」
優しく話し掛けてくれるオーウェン様。
まるで "ざまぁ" される前に戻ったみたいな気持ちになる。
学園で、みんなで楽しくお喋りしてた……。王子殿下が結構真面目って言うか、お堅く考えるタイプで……、意外とリュエヌ様が人を揶揄うのが好きで……
「歩けるとは言っても、今見た通り、まだ足を引きずっている。体力の方は回復したとは言い難い。まだしばらく日数が掛かるだろう。」
ちょっと気が緩んだ僕を、アルファルファ様の声が現実に引き戻した。
……いけない。思い出を懐かしんでる場合じゃない。
それに、オーウェン様のことをリュエヌ様って。そんな呼び方しちゃ駄目だよ。僕はもうそんな立場じゃないんだから。
「長引くような見舞いは遠慮願いたい。医者からも言われている。」
アルファルファ様は淡々とした声で告げる。
きっと僕の体調を心配して言ってくれてるんだろうけど、オーウェン様を相手に、なんだかちょっと冷たい感じ。
2人でいる間に、何か、言い争いでもしたのかな……?
僕が心配することじゃないだろうけど、でも……もし僕の所為だったら……。
「えぇ、そうですね。私も長居する気はありません。……ユア。」
「は、はい。」
「迎えに来ました。一緒に帰りましょう。」
「えっ……ええっ?」
今の言葉、聞き間違いじゃないよね? 迎えに来た、って……僕を?
帰る家が無い僕を、オーウェン様は何処に連れて行く気なんだろう。
「あの……迎えに、って…」
「もちろん、オーウェン侯爵家の屋敷にですよ。やっと家の者達を説得する事が出来ましたから、ユアを堂々と連れて帰れます。」
「あの、話が…」
話が見えないんだけど……?
えぇと、もしかして。アルファルファ様がオーウェン様に、僕を引き取るように言ったんだろうか? でも……だったらまず、僕に言うよね?
対応に困った僕はつい、助けを求めてアルファルファ様に顔を向けた。
なんとなく、今のオーウェン様に聞いても答えが貰えなさそうで。
アルファルファ様は軽く溜息を吐いてから、明らかにオーウェン様を睨んだ。
「今のはお前が悪いぞ、リュエヌ。ちゃんと説明してやるべきだ。……私の前で下手な演技をする必要は無い。」
「下手な演技、とは……随分な言い方ですね。」
「お前が説明しないのなら私が言う。」
「……ふっ。」
オーウェン様は苦笑を零して肩を竦めた。
それを了承と捉えたようで、アルファルファ様が僕を見る。
「その男が言うには……自分はユアと恋人同士、らしい。お腹の子の父親も当然、自分だと主張している。」
「え、それは……。」
「そういう事にしたいんだ、その男は。」
アルファルファ様は吐き捨てるように言う。
言われたオーウェン様は穏やかな微笑を浮かべるだけ。止める気配も無い。
「今日ここに来たのも、愛する恋人を迎えに来た……という設定らしいな。お腹の子ごと、オーウェンで押さえておきたいようだ。」
「設定……。」
「大勢の前できみにあんな物言いをしておきながら今更、掌返しも甚だしいが……王家の憂いを排除する為なら、それも平気なんだろう。」
そっか……。……そう、だよね。オーウェン様は王子殿下の腹心だもんね。
僕が王子殿下の子を妊娠したって聞いたら、何らかの対処をしなきゃ、だよね。
「ユア、あの時の事はお詫びします。どうか私の所に来てください。」
「まだ体調も万全ではないだろう。無理をしなくとも良い。」
オーウェン様と一緒に行くか。アルファルファ様の言葉に甘えるか。
どちらを選ぶのがいいんだろう。
……僕に選択権なんか、あるのかな。
59
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
目覚めたそこはBLゲームの中だった。
慎
BL
ーーパッパー!!
キキーッ! …ドンッ!!
鳴り響くトラックのクラクションと闇夜を一点だけ照らすヘッドライト‥
身体が曲線を描いて宙に浮く…
全ての景色がスローモーションで… 全身を襲う痛みと共に訪れた闇は変に心地よくて、目を開けたらそこは――‥
『ぇ゙ッ・・・ ここ、どこ!?』
異世界だった。
否、
腐女子だった姉ちゃんが愛用していた『ファンタジア王国と精霊の愛し子』とかいう… なんとも最悪なことに乙女ゲームは乙女ゲームでも… BLゲームの世界だった。
繋がれた絆はどこまでも
mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。
そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。
ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。
当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。
それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。
次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。
そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。
その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。
それを見たライトは、ある決意をし……?
カランコエの咲く所で
mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。
しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。
次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。
それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。
だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。
そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。
本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる