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第一章 いつもと変わらないと思ってた

3 断罪の立役者

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更に翌日。

朝の早い時期に学生寮を引き払った。


部屋の鍵を返却するとき、寮の事務員さんにこう言われた。

「昨日の今日で朝帰りか、まったく……。ちゃんと掃除はしたんだろうな?」

夜遅くまで掛かって部屋を綺麗に掃除してたのに。寝不足そうに見える僕は、事務員さんの中では朝帰り確定らしい。

言い返そうとしても、奪い取るように鍵を掴んで素早く背を向けられたら。わざわざ呼び止めて何か言っても無駄だと思った。

これが今の僕に対する評価、なんだ。


玄関から外に出て、門まで行ってから寮を振り返った。

貴族のご子息も入寮するからか、高い塀で囲まれた中に豪華な建物がそびえ立つ。


初めてここに来たときは、こんな立派な寮で暮らせるなんて夢のようだ、なんて思って凄く嬉しかったな。あの気持ちは、今回の人生のものじゃないけど。まだ覚えてる。

今は大して寂しくもない。

親しい友人が出来なかったから、だけじゃなくて。その時々で状況は違っても、この学園を去った経験は何度もあるから。


「……お世話になりました。」

だから寂しくない。学園を去るのが寂しいなんて、もう思わない。

ただ、卒業出来ないのが、ちょっと残念なだけ。




寮を出た僕はそのまま学園に足を運んだ。

これが最後の登校。

王子殿下のご友人と会うには、これが最後のチャンス。


貴族のご子息達が馬車を降りる停車場の物陰に、僕は身を潜めた。

王子殿下にこっぴどくフラれたことは、もう周囲に知れ渡ってるはず。パーティでの出来事は大勢の生徒達に見られてたもん。お金が無くて退学することも知られてるかも知れない。

悪評はすぐに広まるから。



しばらくすると、僕の待ってた人が姿を現した。

王子殿下の未来の腹心。オーウェン侯爵家のご子息だ。余計な嫌味を言う悪癖はあるけど、彼なら渋々でも僕の話を聞いてくれるかも知れない。


「オーウェン様っ。」

「…………。」

この人の名を呼んでた頃もあった。そう呼びなさいって言われた。

だけどもう、家名で呼び掛ける。パーティで、馴れ馴れしいって叱られたから。


オーウェン様の眉間に深い皺が寄る。

はぁ…と溜息を吐きながら、オーウェン様は僕から顔を背けた。


「あの、僕……お渡ししたい物が…」

貰った贈り物を、僕は、返そうと思って。

精一杯きれいな袋に入れてある、それをオーウェン様は迷惑そうに見た。

「あれほど言ってあげたのに、まだ理解出来ていないのですか。そんな物をわざわざ用意して……愚かにもほどがありますよ。」

「ちがっ、違います、これは王子殿下に…」

王子殿下に返して。僕は会えないから。持って行けないから。捨てられないから。

そう伝えようとしたのに。


「やっぱりまだ諦めてなかったんだ。往生際の悪いヤツだね。」

言おうとした僕の声は、割り込んで来た人物に遮られた。

その声で僕は身が竦んでしまう。


「キミは兄さまに敵わないよ。あの2人が並んだとこ見ても気付かないなら、本当に救いようが無いね。」

どうして……? どうしてオーウェン様の馬車に、一緒に乗ってるの?


「馬鹿なのも、男好きなのも、見た目が可愛いなら魅力のひとつだけど。キミの罪は、兄さまに牙を剥いたこと。2人の間に割り込もうとしたこと。それと…」

軽蔑しきった声が近付いて来る。


「そうやって他人を、自分の都合の良い人形としか見てないこと。誰もがキミの言いなりになるワケじゃない。それが当たり前なのに、どうしてそれが分かんないのかな。」

そんなこと、思ってないのに。どうして……何がそう見えるの?


「一緒に来て正解だったな。キミはやっぱり、接触して来た。……オーウェン様なら僕の言うことを聞いてくれるハズ、って考えたんだよね?」

「違うっ、そんなこと……っ!」

瞬間的にカッとなって、僕は大声を出した。出そうとした。

けど。


「チヤホヤされるのはお終い、だよ。キミさ、本当は主役じゃないんだから。」

王子殿下の婚約者様の義弟は、決定的な言葉を僕に突き付けた。


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