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癒し系美人騎士団長 + 強面の三十路兵士団長 × 若きエリート騎士団副長
10.騎士団長 + 兵士団長 × 騎士団副長(完)
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苦虫を噛み潰したようなナンディと、茹でダコのようになったモナイ。
隠せていると思っていた関係が周囲に知られていると分かった二人は、ともに動揺しきっているのだろう。ナンディもモナイも言葉を発せずにいる。
キリも黙って二人の様子を見守っていた為、しばらく無言の時間が流れ。
「じゃあ、そろそろ……僕はこの辺でお暇するとしよう。」
ゆっくりとキリが席を立つ。
話しの切りは良くないものの、少なくともキリが伝えなければならない事は話せただろうから。
上官が立ち上がったので、モナイもアワアワ立ち上がる。まだ全然、内心の動揺が収まっていないようだ。
見送ってくれようとする部下に通常通りの笑みを向けてから、キリはナンディへ視線を流す。
「ところで、マサラー団長は…」
「あぁ、バイハル団長。悪いがオレは、も~ちっと居るツモリだ。ちょっと……モナイに話があるんでな。」
二人きりでもないのに名を呼ばれたモナイが驚いて目を瞬かせる。
驚きはしたものの、嫌がったり怒ったりはしていない表情を見てナンディは、自嘲めいた苦笑を口元に作った。
キリの呼び掛けを遮って。家名に肩書付きの呼び方でなく、「モナイ」と名で呼んだのは。間違いなく、キリへの牽制だ。
自分より年下の団長相手に大人げが無い。ついでに、人前で呼ぶ事についてモナイに許可を取る余裕も、モナイの意思を確認する余裕も無い。
この僅かな時間で、モナイに対する感情だけでなく、独占欲まで怒濤の勢いで認識してしまった。ヤル事はヤってる癖に、まるで十代の子供みたいな反応。
モナイを手に入れられそうなスペックを持った相手に対して、あまりに拙い対抗の仕方だという事は。
それはナンディも、自分でも分かっているのだ。
「そうだな、そうすると良い。今後の二人の話だものね。」
対するキリの表情は実に涼し気だ。機嫌も良さそうで……実際、良かった。
自分の前でナンディが「モナイ」と呼んだのだ。影ながら二人を応援しているという気持ちを、ナンディが理解してくれたように感じていた。
王子殿下の依頼をどうするか、結局のところ、最終的に決めるのはナンディだ。恋人がいる者は辞退して良いという話だったが相手は王子殿下。忠誠心やら家の事情もある。
ちゃんと話すべきだろう。二人きりで。
「マサラー団長がヨーナ副長にどう話すのか、それに興味が無いわけでもないが……大事な事だから二人きりでじっくりと話すだろう? 邪魔にされない内に今日はもう失礼するよ。」
「……そう、か。気を遣わせて悪いな。」
「あぁ、そうそう。僕にとってもヨーナ副長は可愛いんだ。……よろしく頼むよ?」
「……分かってる。」
「ふふ、良かった。」
ナンディからの返答に、勝手に頼もしさを感じ取ってキリは満足した。
欲を言えば、ナンディが王子殿下の依頼をどうするのかも知りたかったが、それは後日に尋ねてみる事にしよう。
二人の遣り取りを心配そうな表情で見守るモナイにも、努めて優しく声を掛ける。
「ヨーナ副長、ご馳走様。何かあったら相談に乗る……いや、特に何も無くても、話しぐらいは聞かせて貰うよ? 話すだけでも気が楽になる事もあるだろう。」
「は……、はい。」
返事を確認してキリは玄関扉のドアノブに手を掛ける。
立ち去ろうとした背中をモナイの小さな声が呼び止めた。
「では、さっそくですが……ぁの、団長。」
「……ぅん?」
まさか、今から? ここで? 相談か? 愚痴か? いつでも良いと言ったような気はするが、今じゃないだろう?
キリとナンディが同じような事を思った時。
恥ずかしそうでいながら真剣な表情のモナイが。
「猿ぐつわと拘束具を購入出来る店を教えてください。」
「…………え?」
聞き間違いなのだと思った。
だが、何を聞き間違ったのかが全く予測出来ない。
聞き返すキリの声も、とても小さくなった。表情も強張っているだろう。
ナンディは……ナンディすら、能面のようになっている。
「それと、お言葉に甘えて恐縮ですが……。団長がお持ちの物で、今はあまり使用していない物があれば……、差し当たって、お借り出来れば有難いです。その……購入する前に試せたら安心、かと。」
「…………え?」
猿ぐつわ。拘束具。
つまり、あの……マサラー団長とスル時に使う気なのだろうが……。
なんで僕が、そんな物を持っていると思うのか。それも複数個を。
……持っていないとは言わないが。
「もしや、団長はお持ちじゃないのですか?」
「ゃ、あ……あ~、ぅん……?」
「しかしこれまで、団長の部屋からセックスらしき声などが聞こえた事がありません。ご迷惑をお掛けしませんから、どういう物を使っているのか、教えてください。」
「ぁ、あっ、……ぅ、ん、……うん。」
何故だ……。今、何故、ヨーナ副長から言葉責めをされているのだろう?
僕がどんな道具を持っているか、何故、白状させられようとしているのだろう?
キリは遠い目で虚ろな表情になっている……つもりだった。
実際は、自分が玩具の名称や形状、使用方法まで言葉にさせられる事を想像した所為で。見る間に先程のモナイばりに、羞恥で顔を真っ赤に染めていた。
それだけでなく、瞳も恥ずかしそうに潤み、あやふやな声しか出せない唇も細かく震えている。
この場面だけ切り取って見れば。
キリとモナイ。完全に『受け』二人だった。
それこそ、ナンディが安心して胸を撫で下ろすぐらいには。
少々モナイが意地悪をしているような感じなのが丁度良い具合に、可愛い遣り取りに見える。
「それとも道具無し、ですか? どうやってるんですか、団長?」
「あ、っぅ…」
「モナイ……。今日はもう、そのぐらいにしてやれ……。なぁ?」
一気に脱力したナンディが開き直った呼び方でモナイを止めた。
モナイがナンディに視線を移動させた事により、キリは心底ホッとしたようだ。
「玄関先でするような話じゃねぇだろ。かと言って、今からソファに戻るにしちゃ、もう時間も遅い。大体、バイハル団長は帰ろうとしたトコだろが。」
「あぁ確かに。団長、呼び止めて失礼しました。」
「ぃや……か、構わない。」
そう言った台詞は社交辞令だ。
出来ればもう二度と、このような羞恥プレイは御免だ。……と思うキリだった。
「あと、オレも話、あるからな?」
「そう言えばそんな話だったか。ディーは時間、大丈夫なのか?」
「もうちょっとぐらいなら、な。」
「ちょっと、か……。」
「いや流石に、泊まる予定じゃねぇからよ。」
「それは分かっているが……。」
そのままイチャ付き始めた恋人同士が、本気で遠慮なしにイチャ付き始める前に。
そっと「本当にご馳走様」と言い残して、キリはモナイの部屋から逃走した。
宿舎の共用廊下を進む間もキリは、顔が熱くて仕方ない。
恥ずかしい思いをした。
恋人同士の(キリにとっては充分に)甘い空気にもアテられた。
自室に戻ったら、もう一杯か二杯ぐらい酒を飲んで。
……久々に、玩具でも使ってしまおうか……。
隠せていると思っていた関係が周囲に知られていると分かった二人は、ともに動揺しきっているのだろう。ナンディもモナイも言葉を発せずにいる。
キリも黙って二人の様子を見守っていた為、しばらく無言の時間が流れ。
「じゃあ、そろそろ……僕はこの辺でお暇するとしよう。」
ゆっくりとキリが席を立つ。
話しの切りは良くないものの、少なくともキリが伝えなければならない事は話せただろうから。
上官が立ち上がったので、モナイもアワアワ立ち上がる。まだ全然、内心の動揺が収まっていないようだ。
見送ってくれようとする部下に通常通りの笑みを向けてから、キリはナンディへ視線を流す。
「ところで、マサラー団長は…」
「あぁ、バイハル団長。悪いがオレは、も~ちっと居るツモリだ。ちょっと……モナイに話があるんでな。」
二人きりでもないのに名を呼ばれたモナイが驚いて目を瞬かせる。
驚きはしたものの、嫌がったり怒ったりはしていない表情を見てナンディは、自嘲めいた苦笑を口元に作った。
キリの呼び掛けを遮って。家名に肩書付きの呼び方でなく、「モナイ」と名で呼んだのは。間違いなく、キリへの牽制だ。
自分より年下の団長相手に大人げが無い。ついでに、人前で呼ぶ事についてモナイに許可を取る余裕も、モナイの意思を確認する余裕も無い。
この僅かな時間で、モナイに対する感情だけでなく、独占欲まで怒濤の勢いで認識してしまった。ヤル事はヤってる癖に、まるで十代の子供みたいな反応。
モナイを手に入れられそうなスペックを持った相手に対して、あまりに拙い対抗の仕方だという事は。
それはナンディも、自分でも分かっているのだ。
「そうだな、そうすると良い。今後の二人の話だものね。」
対するキリの表情は実に涼し気だ。機嫌も良さそうで……実際、良かった。
自分の前でナンディが「モナイ」と呼んだのだ。影ながら二人を応援しているという気持ちを、ナンディが理解してくれたように感じていた。
王子殿下の依頼をどうするか、結局のところ、最終的に決めるのはナンディだ。恋人がいる者は辞退して良いという話だったが相手は王子殿下。忠誠心やら家の事情もある。
ちゃんと話すべきだろう。二人きりで。
「マサラー団長がヨーナ副長にどう話すのか、それに興味が無いわけでもないが……大事な事だから二人きりでじっくりと話すだろう? 邪魔にされない内に今日はもう失礼するよ。」
「……そう、か。気を遣わせて悪いな。」
「あぁ、そうそう。僕にとってもヨーナ副長は可愛いんだ。……よろしく頼むよ?」
「……分かってる。」
「ふふ、良かった。」
ナンディからの返答に、勝手に頼もしさを感じ取ってキリは満足した。
欲を言えば、ナンディが王子殿下の依頼をどうするのかも知りたかったが、それは後日に尋ねてみる事にしよう。
二人の遣り取りを心配そうな表情で見守るモナイにも、努めて優しく声を掛ける。
「ヨーナ副長、ご馳走様。何かあったら相談に乗る……いや、特に何も無くても、話しぐらいは聞かせて貰うよ? 話すだけでも気が楽になる事もあるだろう。」
「は……、はい。」
返事を確認してキリは玄関扉のドアノブに手を掛ける。
立ち去ろうとした背中をモナイの小さな声が呼び止めた。
「では、さっそくですが……ぁの、団長。」
「……ぅん?」
まさか、今から? ここで? 相談か? 愚痴か? いつでも良いと言ったような気はするが、今じゃないだろう?
キリとナンディが同じような事を思った時。
恥ずかしそうでいながら真剣な表情のモナイが。
「猿ぐつわと拘束具を購入出来る店を教えてください。」
「…………え?」
聞き間違いなのだと思った。
だが、何を聞き間違ったのかが全く予測出来ない。
聞き返すキリの声も、とても小さくなった。表情も強張っているだろう。
ナンディは……ナンディすら、能面のようになっている。
「それと、お言葉に甘えて恐縮ですが……。団長がお持ちの物で、今はあまり使用していない物があれば……、差し当たって、お借り出来れば有難いです。その……購入する前に試せたら安心、かと。」
「…………え?」
猿ぐつわ。拘束具。
つまり、あの……マサラー団長とスル時に使う気なのだろうが……。
なんで僕が、そんな物を持っていると思うのか。それも複数個を。
……持っていないとは言わないが。
「もしや、団長はお持ちじゃないのですか?」
「ゃ、あ……あ~、ぅん……?」
「しかしこれまで、団長の部屋からセックスらしき声などが聞こえた事がありません。ご迷惑をお掛けしませんから、どういう物を使っているのか、教えてください。」
「ぁ、あっ、……ぅ、ん、……うん。」
何故だ……。今、何故、ヨーナ副長から言葉責めをされているのだろう?
僕がどんな道具を持っているか、何故、白状させられようとしているのだろう?
キリは遠い目で虚ろな表情になっている……つもりだった。
実際は、自分が玩具の名称や形状、使用方法まで言葉にさせられる事を想像した所為で。見る間に先程のモナイばりに、羞恥で顔を真っ赤に染めていた。
それだけでなく、瞳も恥ずかしそうに潤み、あやふやな声しか出せない唇も細かく震えている。
この場面だけ切り取って見れば。
キリとモナイ。完全に『受け』二人だった。
それこそ、ナンディが安心して胸を撫で下ろすぐらいには。
少々モナイが意地悪をしているような感じなのが丁度良い具合に、可愛い遣り取りに見える。
「それとも道具無し、ですか? どうやってるんですか、団長?」
「あ、っぅ…」
「モナイ……。今日はもう、そのぐらいにしてやれ……。なぁ?」
一気に脱力したナンディが開き直った呼び方でモナイを止めた。
モナイがナンディに視線を移動させた事により、キリは心底ホッとしたようだ。
「玄関先でするような話じゃねぇだろ。かと言って、今からソファに戻るにしちゃ、もう時間も遅い。大体、バイハル団長は帰ろうとしたトコだろが。」
「あぁ確かに。団長、呼び止めて失礼しました。」
「ぃや……か、構わない。」
そう言った台詞は社交辞令だ。
出来ればもう二度と、このような羞恥プレイは御免だ。……と思うキリだった。
「あと、オレも話、あるからな?」
「そう言えばそんな話だったか。ディーは時間、大丈夫なのか?」
「もうちょっとぐらいなら、な。」
「ちょっと、か……。」
「いや流石に、泊まる予定じゃねぇからよ。」
「それは分かっているが……。」
そのままイチャ付き始めた恋人同士が、本気で遠慮なしにイチャ付き始める前に。
そっと「本当にご馳走様」と言い残して、キリはモナイの部屋から逃走した。
宿舎の共用廊下を進む間もキリは、顔が熱くて仕方ない。
恥ずかしい思いをした。
恋人同士の(キリにとっては充分に)甘い空気にもアテられた。
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