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癒し系美人騎士団長 + 強面の三十路兵士団長 × 若きエリート騎士団副長
5.騎士団長 + 兵士団長 × 騎士団副長
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同じ団の副長であるモナイに話す事を、キリは考えていなかった。
キリの予想では、自分が例の依頼に応じたとしても恐らく、ほんの数回……もしくは初回で。お役御免にされてしまう可能性が高いからだ。
デューク王子への対処療法については、騎士団の仕事でも無ければ、団長としての仕事でも無い。単なる一人の、攻めが出来そうな男に対する声掛けだろうと、キリは考えていた。
子を作る為の行為ではないのだから、剣術の腕前やら魔力の量やら頭の切れなどの能力で選ばれたわけでもなかろう。今回、団長や副長にお声が掛かったのは単に、どんな事情があれど王子殿下の身体を拓くのだから身元の確かな者を、というだけの基準に違いない。
そういう話であれば、王城に集められた団長・副長達で用が足りなかったとしても、王子殿下のお相手候補として声を掛ける範囲を広げれば良いだけの話だ。
……そのように考えれば。
絶対に僕じゃなければいけない、という程の事でもないのだから。多少は気もラクに……、いや、大してならないな。
前以ってご辞退申し上げられるような事情が無い以上は。畏れ多くも王子殿下の前で、恐らく僕は醜態を晒すだろう。
醜態という扱いで済めばまだ良い方か。下手をすれば……。
最悪の事態をキリの脳が勝手に想像してしまう。
もしも挿入出来るまでに屹立しなかったら。
仮に挿入までは至ったとしても途中で折れてしまったら。
それは王子殿下への侮辱に他ならない。
自分が男を『抱く側』でない事を薄っすらと認識しているキリは、目の前にいる、間違いなく『抱く側』な男の様子をそっと窺った。
もし自分が彼のような男であれば、と。何度か考えた事のある強面の兵士団長。
冷静になったのだろうか。しかめっ面で杯を傾けている男の心情は全く窺えない。
そう言えば、ヨーナ副長に話さないのかと気にしていた様子だったが……。
「ヨーナ副長へは、てっきりマサラー団長が話すかと思っていた。」
「オレから? なんでだ? お門違いだろ。」
自分とモナイが恋人同士だと、ある程度の人数から思われている事を知らないナンディは、心から不思議に思って言い返した。
相手がキリでなく、同じ兵士団の者であれば無遠慮に「説明するのはお前の役目だろ、面倒臭がるんじゃねぇよ」と突っ込んでいただろう。
「依頼をこなしてる間は団を留守にするんだし、よ。団長としてのスケジュールを調整するんでも、副長には話を通しといた方がいいんじゃねぇか?」
「あぁ、なるほど。」
「……まぁ、オレが口出しするようなアレでもねぇか。」
「ふむ……。」
依頼の件はあくまでも団長から副長に話すべき。というのが、恐らくマサラー団長のスタンスなのだろうな。
まったく……真面目と言おうか、義理堅いとでも言おうか。
ナンディ以上のペースで杯を煽りながら、キリは思った。
一応良かれと思って口に出した事なのだが伝わらなかったようだな、と。
キリにしてみれば、今回の殿下の依頼に限って言えば、ナンディからモナイに話す方が良いのでは、という考えだった。
例え任務とは言え、王子殿下の秘所に生で逸物を入れるのみでなく、殿下の中に精液を放つのだ。
恋人同士なのだから話さずにおく理由がない。いや、話すべきだ。
王子殿下と肌を重ねる依頼をされていると、他人の口から聞くよりも本人から話した方が、余計な擦れ違いだの誤解だのが生じ難いのだから。
酒の勢いが少々あったかも知れない。
ヨーナ副長に話しておくべきだという意見も尤もであるし、彼に話したという事を後からナンディに伝えるのも面倒臭い。
であれば、ナンディが今ここに来ているのも丁度良い事だから。一緒に話せば良いじゃないか。
キリはそう判断した。
「では有難く忠告を受けるとしよう。」
「いや、オレは別にそこまで…」
「…さあ、マサラー団長。今から行こうじゃないか。ヨーナ副長の所へ。」
残り三分の一程の量を一気に飲み干すと、キリはやにわに立ち上がる。
驚いたナンディを見下ろすキリの顔には、名案を思い付いた事による微笑が。全く笑えていないような瞳の強さも相俟って。
ろくでもない事を思い付いたか、よっぽどの激怒を堪えているかのように見えた。
キリはさも当然、という態度でナンディを連れて行く。
モナイの部屋へ向かって。
「マサラー団長は、よぉ~く御存じだろうが、一応案内させて貰うよ。」
「あ、あぁ……。」
時折キリが含み笑いを零すような声を出す。
ほぼ横並びに近いが若干前を行くキリの顔を、ナンディは見られなかった。
ナンディは内心焦っていた。
……なんでだ? 一体いつ、何がバイハル団長の逆鱗に触れたんだ?
モナに話をした方がいい、ってオレの意見がそこまで怒りを買うとも思えねぇんだが。いや……だが他に思い付かん。
それとも、この人の琴線に触れるような『面白い事』でも提供したか? ……いやいや。ソッチこそ皆目、見当が付かねぇ。
キリは少し後悔していた。
……まずいな。酔って来ているかも知れない。
大した量ではないはずなんだが、急に立ち上がったのが良くなかったか。それとも出歩くのが良くなかったか。
まぁ幸いな事に、今はマサラー団長もいる事だ。申し訳ないが不足部分はお願いするとして、僕は手短に説明して早々に帰らせて貰おう。
キリの予想では、自分が例の依頼に応じたとしても恐らく、ほんの数回……もしくは初回で。お役御免にされてしまう可能性が高いからだ。
デューク王子への対処療法については、騎士団の仕事でも無ければ、団長としての仕事でも無い。単なる一人の、攻めが出来そうな男に対する声掛けだろうと、キリは考えていた。
子を作る為の行為ではないのだから、剣術の腕前やら魔力の量やら頭の切れなどの能力で選ばれたわけでもなかろう。今回、団長や副長にお声が掛かったのは単に、どんな事情があれど王子殿下の身体を拓くのだから身元の確かな者を、というだけの基準に違いない。
そういう話であれば、王城に集められた団長・副長達で用が足りなかったとしても、王子殿下のお相手候補として声を掛ける範囲を広げれば良いだけの話だ。
……そのように考えれば。
絶対に僕じゃなければいけない、という程の事でもないのだから。多少は気もラクに……、いや、大してならないな。
前以ってご辞退申し上げられるような事情が無い以上は。畏れ多くも王子殿下の前で、恐らく僕は醜態を晒すだろう。
醜態という扱いで済めばまだ良い方か。下手をすれば……。
最悪の事態をキリの脳が勝手に想像してしまう。
もしも挿入出来るまでに屹立しなかったら。
仮に挿入までは至ったとしても途中で折れてしまったら。
それは王子殿下への侮辱に他ならない。
自分が男を『抱く側』でない事を薄っすらと認識しているキリは、目の前にいる、間違いなく『抱く側』な男の様子をそっと窺った。
もし自分が彼のような男であれば、と。何度か考えた事のある強面の兵士団長。
冷静になったのだろうか。しかめっ面で杯を傾けている男の心情は全く窺えない。
そう言えば、ヨーナ副長に話さないのかと気にしていた様子だったが……。
「ヨーナ副長へは、てっきりマサラー団長が話すかと思っていた。」
「オレから? なんでだ? お門違いだろ。」
自分とモナイが恋人同士だと、ある程度の人数から思われている事を知らないナンディは、心から不思議に思って言い返した。
相手がキリでなく、同じ兵士団の者であれば無遠慮に「説明するのはお前の役目だろ、面倒臭がるんじゃねぇよ」と突っ込んでいただろう。
「依頼をこなしてる間は団を留守にするんだし、よ。団長としてのスケジュールを調整するんでも、副長には話を通しといた方がいいんじゃねぇか?」
「あぁ、なるほど。」
「……まぁ、オレが口出しするようなアレでもねぇか。」
「ふむ……。」
依頼の件はあくまでも団長から副長に話すべき。というのが、恐らくマサラー団長のスタンスなのだろうな。
まったく……真面目と言おうか、義理堅いとでも言おうか。
ナンディ以上のペースで杯を煽りながら、キリは思った。
一応良かれと思って口に出した事なのだが伝わらなかったようだな、と。
キリにしてみれば、今回の殿下の依頼に限って言えば、ナンディからモナイに話す方が良いのでは、という考えだった。
例え任務とは言え、王子殿下の秘所に生で逸物を入れるのみでなく、殿下の中に精液を放つのだ。
恋人同士なのだから話さずにおく理由がない。いや、話すべきだ。
王子殿下と肌を重ねる依頼をされていると、他人の口から聞くよりも本人から話した方が、余計な擦れ違いだの誤解だのが生じ難いのだから。
酒の勢いが少々あったかも知れない。
ヨーナ副長に話しておくべきだという意見も尤もであるし、彼に話したという事を後からナンディに伝えるのも面倒臭い。
であれば、ナンディが今ここに来ているのも丁度良い事だから。一緒に話せば良いじゃないか。
キリはそう判断した。
「では有難く忠告を受けるとしよう。」
「いや、オレは別にそこまで…」
「…さあ、マサラー団長。今から行こうじゃないか。ヨーナ副長の所へ。」
残り三分の一程の量を一気に飲み干すと、キリはやにわに立ち上がる。
驚いたナンディを見下ろすキリの顔には、名案を思い付いた事による微笑が。全く笑えていないような瞳の強さも相俟って。
ろくでもない事を思い付いたか、よっぽどの激怒を堪えているかのように見えた。
キリはさも当然、という態度でナンディを連れて行く。
モナイの部屋へ向かって。
「マサラー団長は、よぉ~く御存じだろうが、一応案内させて貰うよ。」
「あ、あぁ……。」
時折キリが含み笑いを零すような声を出す。
ほぼ横並びに近いが若干前を行くキリの顔を、ナンディは見られなかった。
ナンディは内心焦っていた。
……なんでだ? 一体いつ、何がバイハル団長の逆鱗に触れたんだ?
モナに話をした方がいい、ってオレの意見がそこまで怒りを買うとも思えねぇんだが。いや……だが他に思い付かん。
それとも、この人の琴線に触れるような『面白い事』でも提供したか? ……いやいや。ソッチこそ皆目、見当が付かねぇ。
キリは少し後悔していた。
……まずいな。酔って来ているかも知れない。
大した量ではないはずなんだが、急に立ち上がったのが良くなかったか。それとも出歩くのが良くなかったか。
まぁ幸いな事に、今はマサラー団長もいる事だ。申し訳ないが不足部分はお願いするとして、僕は手短に説明して早々に帰らせて貰おう。
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