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癒し系美人騎士団長 + 強面の三十路兵士団長 × 若きエリート騎士団副長
2.騎士団長 + 兵士団長 × 騎士団副長
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「はぁ……。」
無意識の内に溜息を吐いてしまい。
第二騎士団長キリ・バイハルは、内心慌てながら視線だけで素早く周囲を窺った。
だが幸い、ここは王城の廊下。
要所を警備する衛兵の姿はあるものの、キリの近くには人影はない。
キリの端整な美顔に憂いが差し込んだ事に、気が付く者はいないだろう。
団長及び副長が揃って王城へ上がるよう、招集の報せを受けたのはほんの三日前。
キリが団長を務めている第二騎士団だけでなく。そもそも滅多に集合しない第一騎士団、遠方にいるはずの第三騎士団、更には雑多な集まりである兵士団までも。一斉に団長と副長が呼び集められたのだ。
城へと馳せ参じた時の緊張感は、並々ならぬものがあった。
その緊張感は形を変えて、キリに纏わり付く事になる。
デューク王子殿下との、団ごとに行われた個別謁見を終えて、控え室へと戻る途中のキリだが。
つい今しがた謁見室で聞かされた、王子殿下に関する『命令』に近い『頼み』の事を考えると、自分でも分かるくらいに足取りが重たくなってしまう。
第二騎士団の団長たる者として相応しくない、頼りない姿を見せるわけには行かないというのに。
控え室には、他団の団長や副長達が集まっているのだから。
先に謁見室を出されたモナイ・ヨーナ副長も、控え室で待っているだろう。
副長であるにも関わらず先に部屋を出され、団長だけが残されたのだ。
一体何事があったかと、恐らく非常に気を揉んでいるに違いない。
ヨーナ副長に無駄な……本当に無駄な、心配を掛けてしまうのは申し訳ない。
しかしだからと言って、頼まれた事の内容を話すわけには行かないのだ。
頼まれた内容が問題なのではない。
必要であれば団長判断で、副長には話して良いとも言われている。
王子の頼み事に自分が困っている、という事実を知られる事こそが問題なのだ。
……まさか、デューク殿下が病を患っていらっしゃるとは。
しかも、この僕が殿下の……病の症状を緩和するという大役を仰せつかるなど、考えた事も無かったぞ。
随分と買って頂いているようだが、僕は……。心苦しくて仕方ない。
誠意を尽くして殿下のご期待に沿いたい、という気持ちに嘘は無い。だが僕では、役に立たないのではないだろうか。
殿下を抱く、自信が。抱いてご満足頂ける自信が、無い。
ぐるぐると考え込んでいる内に、足は控え室まで辿り着いてしまった。
扉の両脇には衛兵が一人ずつ。
室内にいる面子が誰なのかを考えれば不要そうなものだが。仮にも要職にある者達が集まっているのだ、放ったらかしにも出来ないのだろう。
第二騎士団長であるキリが近付くと衛兵二人は敬礼し、その内の一人が扉に手を掛ける。開けるのも彼等の仕事だ。
迷いを振り払うようにキリは一旦、目を閉じる。
再び目を開いた顔は、柔らかくも凛々しい騎士団長の微笑を浮かべていた。
「やぁ、バイハル団長。お疲れ様。」
控え室へと足を踏み入れたキリに声を掛けたのは、たまたま一番近くにいた第三騎士団長だった。
この場にいる豪華な顔触れの中でも存在感を放つ、三十七歳の精悍な美丈夫。
その人に声を掛けて貰えた嬉しさから。キリの心臓は、他の人達に音が聞こえるのではないかという程に跳ね上がった。
それを隠す為。
キリは努めて冷静に、普段以上に完璧な微笑の仮面を被る。
「どうやらバイハル団長にも、俺と同じ『話』があったようだな?」
「…………ふふっ。」
うっかりと変な声が出そうになった所を、笑い声に変換する技で誤魔化した。
話をされたのは自分だけではないだろうと推測は出来ていたが、実際に本人の口から聞く衝撃は、推測よりも遥かに大きかった。
それに……不躾な事に。ついつい想像してしまったのだ。
汗ばんだ肌を晒した彼が、しどけなくも麗しい殿下を胸に掻き抱く情景を。
確かに彼ならば、殿下にご満足頂くのも容易いだろうな。
一体どんな風に奉仕されるのだろう。さぞや力強くて、逞しくて……羨ましい。
あぁ、駄目だ。いけない。
病でお困りになっている殿下を、羨ましがるなどと……、でも……。
自分も『振動病』を患えば、その対処療法として。第三騎士団長は抱いてくれるだろうか、と。
思わずにはいられない、キリだった。
「そちらの副長殿には『話』は無かったようだが……。まぁ、頷けるな。」
ヨーナ副長を話に出され、自然とキリの注意は副長を探して他所へ向かった。
視線を逸らしたキリは気が付かない。
微笑む直前の整った唇の隙間から、チロリと赤い舌が覗いた様子が淫靡に見えるという事に。
片側の口端だけを僅かに吊り上げるキリの微笑はまるで。受けの身体を奥底まで、甚振りながらも可愛がってやる鬼畜攻めのソレっぽく見えるという事に。
殿下からの『頼み事』など子供の可愛いお強請り、とでも言いそうな余裕を、キリは醸し出している。
その表情が、第三騎士団長の視線を釘付けにしている事に。
無意識の内に溜息を吐いてしまい。
第二騎士団長キリ・バイハルは、内心慌てながら視線だけで素早く周囲を窺った。
だが幸い、ここは王城の廊下。
要所を警備する衛兵の姿はあるものの、キリの近くには人影はない。
キリの端整な美顔に憂いが差し込んだ事に、気が付く者はいないだろう。
団長及び副長が揃って王城へ上がるよう、招集の報せを受けたのはほんの三日前。
キリが団長を務めている第二騎士団だけでなく。そもそも滅多に集合しない第一騎士団、遠方にいるはずの第三騎士団、更には雑多な集まりである兵士団までも。一斉に団長と副長が呼び集められたのだ。
城へと馳せ参じた時の緊張感は、並々ならぬものがあった。
その緊張感は形を変えて、キリに纏わり付く事になる。
デューク王子殿下との、団ごとに行われた個別謁見を終えて、控え室へと戻る途中のキリだが。
つい今しがた謁見室で聞かされた、王子殿下に関する『命令』に近い『頼み』の事を考えると、自分でも分かるくらいに足取りが重たくなってしまう。
第二騎士団の団長たる者として相応しくない、頼りない姿を見せるわけには行かないというのに。
控え室には、他団の団長や副長達が集まっているのだから。
先に謁見室を出されたモナイ・ヨーナ副長も、控え室で待っているだろう。
副長であるにも関わらず先に部屋を出され、団長だけが残されたのだ。
一体何事があったかと、恐らく非常に気を揉んでいるに違いない。
ヨーナ副長に無駄な……本当に無駄な、心配を掛けてしまうのは申し訳ない。
しかしだからと言って、頼まれた事の内容を話すわけには行かないのだ。
頼まれた内容が問題なのではない。
必要であれば団長判断で、副長には話して良いとも言われている。
王子の頼み事に自分が困っている、という事実を知られる事こそが問題なのだ。
……まさか、デューク殿下が病を患っていらっしゃるとは。
しかも、この僕が殿下の……病の症状を緩和するという大役を仰せつかるなど、考えた事も無かったぞ。
随分と買って頂いているようだが、僕は……。心苦しくて仕方ない。
誠意を尽くして殿下のご期待に沿いたい、という気持ちに嘘は無い。だが僕では、役に立たないのではないだろうか。
殿下を抱く、自信が。抱いてご満足頂ける自信が、無い。
ぐるぐると考え込んでいる内に、足は控え室まで辿り着いてしまった。
扉の両脇には衛兵が一人ずつ。
室内にいる面子が誰なのかを考えれば不要そうなものだが。仮にも要職にある者達が集まっているのだ、放ったらかしにも出来ないのだろう。
第二騎士団長であるキリが近付くと衛兵二人は敬礼し、その内の一人が扉に手を掛ける。開けるのも彼等の仕事だ。
迷いを振り払うようにキリは一旦、目を閉じる。
再び目を開いた顔は、柔らかくも凛々しい騎士団長の微笑を浮かべていた。
「やぁ、バイハル団長。お疲れ様。」
控え室へと足を踏み入れたキリに声を掛けたのは、たまたま一番近くにいた第三騎士団長だった。
この場にいる豪華な顔触れの中でも存在感を放つ、三十七歳の精悍な美丈夫。
その人に声を掛けて貰えた嬉しさから。キリの心臓は、他の人達に音が聞こえるのではないかという程に跳ね上がった。
それを隠す為。
キリは努めて冷静に、普段以上に完璧な微笑の仮面を被る。
「どうやらバイハル団長にも、俺と同じ『話』があったようだな?」
「…………ふふっ。」
うっかりと変な声が出そうになった所を、笑い声に変換する技で誤魔化した。
話をされたのは自分だけではないだろうと推測は出来ていたが、実際に本人の口から聞く衝撃は、推測よりも遥かに大きかった。
それに……不躾な事に。ついつい想像してしまったのだ。
汗ばんだ肌を晒した彼が、しどけなくも麗しい殿下を胸に掻き抱く情景を。
確かに彼ならば、殿下にご満足頂くのも容易いだろうな。
一体どんな風に奉仕されるのだろう。さぞや力強くて、逞しくて……羨ましい。
あぁ、駄目だ。いけない。
病でお困りになっている殿下を、羨ましがるなどと……、でも……。
自分も『振動病』を患えば、その対処療法として。第三騎士団長は抱いてくれるだろうか、と。
思わずにはいられない、キリだった。
「そちらの副長殿には『話』は無かったようだが……。まぁ、頷けるな。」
ヨーナ副長を話に出され、自然とキリの注意は副長を探して他所へ向かった。
視線を逸らしたキリは気が付かない。
微笑む直前の整った唇の隙間から、チロリと赤い舌が覗いた様子が淫靡に見えるという事に。
片側の口端だけを僅かに吊り上げるキリの微笑はまるで。受けの身体を奥底まで、甚振りながらも可愛がってやる鬼畜攻めのソレっぽく見えるという事に。
殿下からの『頼み事』など子供の可愛いお強請り、とでも言いそうな余裕を、キリは醸し出している。
その表情が、第三騎士団長の視線を釘付けにしている事に。
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