59 / 60
劇場のこけら落としにて
こけら落としにて・19 ◇第一皇子クリスティ視点
しおりを挟む* * *
レイも同行する事について、叔父様……テローモ公爵からアッサリ許可が貰えた。
ウェンサバ劇場の今の後援者は叔父様だけど、それに俺が参加する事は前々からの予定通りだし、ジェフの代わりに同行するレイは宰相閣下の息子だから問題は無いらしい。
支配人の案内で、いざ、公演終了後の楽屋へ!
出番を終えた役者達が出迎えてくれた。
舞台用の煌びやかな衣装から着替えを済ませ、化粧も舞台用のクッキリしたものではなくなってる。
叔父様が素敵ジェントルな後援者っぽい感じで、出演者を含む、関係者全員に言葉を掛ける横に居させて貰って。程好い所で叔父様に話を振られる感じで、俺も普段通り挨拶した。
今日は宰相閣下の次男で見栄えも良い男のレイが一緒だから、こころなしか女性陣がウキウキしてるようにも感じるぞ。
ついでに叔父様から皆に、レイの事も軽く紹介して貰えた。
挨拶の後、叔父様が要所要所を移動しながら、そこにいる関係者達と喋ってる間。
俺はレイを連れて、是非とも、是非とも会いたかった人……レイを会わせてみたかった人の元へ向かった。
俺のお目当てはウェンサバ劇場の、主にクラシック芝居を披露する『組』に所属してる、実力派役者。
ゲンナジーさん。二十七歳。男性。
何度か会話してる俺は愛称の『ゲーラ』って呼ばせて貰ってる。
言い方は悪いかもだけど、お気に入りの役者さんだ。
お気に入りって……芝居を観るのが嫌いな奴が何を言ってるんだ、って思う?
恋愛物が苦手で悲恋が嫌いなだけで、実は喜劇もあんまり楽しめない俺だけど、役者の演技を凄いな、って思う事もあるんだよ。
戦記物とか、そういう……恋愛とは別なジャンルに、少し恋愛要素もある。って程度なら全然、平気だし。
それに、ホラ。役者さんの容姿とか、声とか、そういうのを楽しむのもアリだろ。
「ゲーラさん、お疲れ様。今日も大変素晴らしい舞台でした。」
振り返ったゲーラさんは、存在感のある艶やかな笑みを見せてくれた。
肩に下ろした少し暗めの銀髪がサラリと揺れて、俺はちょっとドキドキする。
今日のゲーラさんは、主役の令嬢の従兄弟役だった。
従兄弟は令嬢の事を好きなんだけど家の為に我慢し、令嬢を妹のように可愛がりながらも、幼き頃にした『結婚の約束』を忘れられずに苦しむ『お兄ちゃん』的な人物設定がされている。
しかもこの従兄弟は令嬢の所為で、もう一人の主役の令息に殺されるんだ。
……こうやって説明すると酷い話だなぁ。
ゲーラさんが……じゃない。従兄弟が殺される場面は、それはそれは辛いシーンだけど凄く人気もある場面なんだよね。
主役二人の恋愛の結末が悲劇になる、それが決定的になる所だから凄く重要だ。
この場面の良し悪しが、観終わった後の芝居全体の印象に関わるから、どこの劇場でも従兄弟の役には最も実力のある役者を起用するんだよ。
「あぁ、これはこれはクリスティ殿下。このような狭苦しい所へ、ようこそ。今日もわざわざ来ていただいたと言うのに、相変わらずバタバタとしていて申し訳ありません。」
「こちらこそ。舞台終了後で忙しい所を、こうして話をする時間を貰えて大変、嬉しく思っていますよ。」
流石は役者。
立て板に水で、長台詞も耳に心地良い。
な~んか、どっかの誰かさんとの遣り取りを思い出しちゃうぞ。
お互いに軽く挨拶を交わしたら、ゲーラさんの視線が俺の隣へ向いた。
ちょうど良いタイミングを貰ったんで、ここでレイを紹介する。
「今日はゲーラさんに、一度会わせてみたいと考えていた人を連れて来ました。」
「ほぉ、わたしにですか。」
「彼はレイモンド。私の…友人で、リカリオ侯爵家の次男です。」
まずはゲーラさんに、俺の隣にいるレイを紹介する。
実は、友人って単語の前に『親しい』を付けるかどうか、ちょっとだけ迷って止めた。
流石にアピールが強過ぎるよな。
レイの家名を出した時、ほんの少しだけ、ゲーラさんが緊張した。ように感じた。
宰相閣下の次男だって気付いたから、かも知れない。
瞬きした後のゲーラさんからは、緊張感は感じなくなってた。
次はレイに、ゲーラさんを紹介する番だ。
芝居の事を俺に聞いちゃうくらい、芝居に疎いレイは。きっと、ゲーラさんの事を全然知らないだろう。
どれだけ素晴らしい役者なのかを知った方が、きっと興味深い時間を過ごせるハズ。
「こちらはゲンナジーさん。嬉しい事に、私はゲーラさんと呼ばせて貰っています。……ふふっ。将来の後援者特典、でしょうかね。ゲーラさんはウェンサバ劇場が誇る、間違えようの無い実力派役者です。重厚なクラシック芝居の舞台で、主役としてはもちろんの事、非常に難しい役どころな脇役でも活躍なさっています。」
「お褒めに与り恐縮です、クリスティ殿下。ゲーラと呼んでいただける事……わたしの方こそが嬉しく思っておりますよ。」
俺の誉め言葉を受けて、ゲーラさんはすかさず謙遜する。
嫌味にならない程度の言い方で、顔に浮かべた微笑もちょうど良い。
俺は横を半分振り返ってレイを促した。
レイが半歩、前に踏み出す。
「初めまして、ゲンナジーさん。クリスティ殿下と懇意にさせていただいている、レイモンド・リカリオと言います。……どうぞお気軽に、レイモンドと呼んでください。」
そう言ってレイはゲーラさんに右手を差し出した。
口端を緩やかに吊り上げた微笑がメチャクチャに格好良くてドキドキしたけど、さり気なく俺と『仲良しアピール』をしてくれた事に、俺は内心嬉しくて仕方なかった。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
皇帝の立役者
白鳩 唯斗
BL
実の弟に毒を盛られた。
「全てあなた達が悪いんですよ」
ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。
その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。
目を開けると、数年前に回帰していた。
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。
仮面の兵士と出来損ない王子
天使の輪っか
BL
姫として隣国へ嫁ぐことになった出来損ないの王子。
王子には、仮面をつけた兵士が護衛を務めていた。兵士は自ら志願して王子の護衛をしていたが、それにはある理由があった。
王子は姫として男だとばれぬように振舞うことにしようと決心した。
美しい見た目を最大限に使い結婚式に挑むが、相手の姿を見て驚愕する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる