人形皇子は表情が乏しい自覚が無い

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劇場のこけら落としにて

こけら落としにて・19  ◇第一皇子クリスティ視点

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レイも同行する事について、叔父様……テローモ公爵からアッサリ許可が貰えた。
ウェンサバ劇場の今の後援者は叔父様だけど、それに俺が参加する事は前々からの予定通りだし、ジェフの代わりに同行するレイは宰相閣下の息子だから問題は無いらしい。



支配人の案内で、いざ、公演終了後の楽屋へ!



出番を終えた役者達が出迎えてくれた。
舞台用の煌びやかな衣装から着替えを済ませ、化粧も舞台用のクッキリしたものではなくなってる。
叔父様が素敵ジェントルな後援者っぽい感じで、出演者を含む、関係者全員に言葉を掛ける横に居させて貰って。程好い所で叔父様に話を振られる感じで、俺も普段通り挨拶した。
今日は宰相閣下の次男で見栄えも良い男のレイが一緒だから、こころなしか女性陣がウキウキしてるようにも感じるぞ。
ついでに叔父様から皆に、レイの事も軽く紹介して貰えた。


挨拶の後、叔父様が要所要所を移動しながら、そこにいる関係者達と喋ってる間。
俺はレイを連れて、是非とも、是非とも会いたかった人……レイを会わせてみたかった人の元へ向かった。


俺のお目当てはウェンサバ劇場の、主にクラシック芝居を披露する『組』に所属してる、実力派役者。
ゲンナジーさん。二十七歳。男性。
何度か会話してる俺は愛称の『ゲーラ』って呼ばせて貰ってる。
言い方は悪いかもだけど、お気に入りの役者さんだ。

お気に入りって……芝居を観るのが嫌いな奴が何を言ってるんだ、って思う?
恋愛物が苦手で悲恋が嫌いなだけで、実は喜劇もあんまり楽しめない俺だけど、役者の演技を凄いな、って思う事もあるんだよ。
戦記物とか、そういう……恋愛とは別なジャンルに、少し恋愛要素もある。って程度なら全然、平気だし。
それに、ホラ。役者さんの容姿とか、声とか、そういうのを楽しむのもアリだろ。



「ゲーラさん、お疲れ様。今日も大変素晴らしい舞台でした。」

振り返ったゲーラさんは、存在感のある艶やかな笑みを見せてくれた。
肩に下ろした少し暗めの銀髪がサラリと揺れて、俺はちょっとドキドキする。


今日のゲーラさんは、主役の令嬢の従兄弟役だった。
従兄弟は令嬢の事を好きなんだけど家の為に我慢し、令嬢を妹のように可愛がりながらも、幼き頃にした『結婚の約束』を忘れられずに苦しむ『お兄ちゃん』的な人物設定がされている。
しかもこの従兄弟は令嬢の所為で、もう一人の主役の令息に殺されるんだ。
……こうやって説明すると酷い話だなぁ。

ゲーラさんが……じゃない。従兄弟が殺される場面は、それはそれは辛いシーンだけど凄く人気もある場面なんだよね。
主役二人の恋愛の結末が悲劇になる、それが決定的になる所だから凄く重要だ。
この場面の良し悪しが、観終わった後の芝居全体の印象に関わるから、どこの劇場でも従兄弟の役には最も実力のある役者を起用するんだよ。



「あぁ、これはこれはクリスティ殿下。このような狭苦しい所へ、ようこそ。今日もわざわざ来ていただいたと言うのに、相変わらずバタバタとしていて申し訳ありません。」
「こちらこそ。舞台終了後で忙しい所を、こうして話をする時間を貰えて大変、嬉しく思っていますよ。」

流石は役者。
立て板に水で、長台詞も耳に心地良い。
な~んか、どっかの誰かさんとの遣り取りを思い出しちゃうぞ。


お互いに軽く挨拶を交わしたら、ゲーラさんの視線が俺の隣へ向いた。
ちょうど良いタイミングを貰ったんで、ここでレイを紹介する。



「今日はゲーラさんに、一度会わせてみたいと考えていた人を連れて来ました。」
「ほぉ、わたしにですか。」
「彼はレイモンド。私の…友人で、リカリオ侯爵家の次男です。」

まずはゲーラさんに、俺の隣にいるレイを紹介する。
実は、友人って単語の前に『親しい』を付けるかどうか、ちょっとだけ迷って止めた。
流石にアピールが強過ぎるよな。

レイの家名を出した時、ほんの少しだけ、ゲーラさんが緊張した。ように感じた。
宰相閣下の次男だって気付いたから、かも知れない。
瞬きした後のゲーラさんからは、緊張感は感じなくなってた。


次はレイに、ゲーラさんを紹介する番だ。
芝居の事を俺に聞いちゃうくらい、芝居に疎いレイは。きっと、ゲーラさんの事を全然知らないだろう。
どれだけ素晴らしい役者なのかを知った方が、きっと興味深い時間を過ごせるハズ。



「こちらはゲンナジーさん。嬉しい事に、私はゲーラさんと呼ばせて貰っています。……ふふっ。将来の後援者特典、でしょうかね。ゲーラさんはウェンサバ劇場が誇る、間違えようの無い実力派役者です。重厚なクラシック芝居の舞台で、主役としてはもちろんの事、非常に難しい役どころな脇役でも活躍なさっています。」
「お褒めに与り恐縮です、クリスティ殿下。ゲーラと呼んでいただける事……わたしの方こそが嬉しく思っておりますよ。」

俺の誉め言葉を受けて、ゲーラさんはすかさず謙遜する。
嫌味にならない程度の言い方で、顔に浮かべた微笑もちょうど良い。


俺は横を半分振り返ってレイを促した。
レイが半歩、前に踏み出す。



「初めまして、ゲンナジーさん。クリスティ殿下と懇意にさせていただいている、レイモンド・リカリオと言います。……どうぞお気軽に、レイモンドと呼んでください。」

そう言ってレイはゲーラさんに右手を差し出した。
口端を緩やかに吊り上げた微笑がメチャクチャに格好良くてドキドキしたけど、さり気なく俺と『仲良しアピール』をしてくれた事に、俺は内心嬉しくて仕方なかった。
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