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劇場のこけら落としにて
こけら落としにて・18 ◇第一皇子クリスティ視点
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「良かったら、この後……少し付き合って貰えないかな? 時間ある?」
「お忙しいクリスティ殿下と比べれば私など、大体が暇なようなものだ。そうでなくとも、第一皇子殿下のご用命とあらば、多少の些末な問題は後回しにもしよう。」
真面目なレイが凄く真面目な言い方で答えてくれる。
要するにオッケー、って事だ。
近付いて来てくれたレイに俺も寄って、控えめな声で話す。
別にコソコソするツモリじゃない。
すぐそこで、ジェフがレオにしがみ付いた状態のまま何か会話をしてるから、それの邪魔をしないようにだ。
なんか凄い親密そうな雰囲気出してるのが羨ましい、って理由もあった。
「テローモ公爵の楽屋挨拶に同行する予定なんだけど、良かったらレイも、どう?」
「楽屋に? ……私が?」
レイは怪訝そうな表情。
それもそうだろう。レイはウェンサバ劇場とは特に関係は無い。
だけど俺は、せっかくだから、レイと一緒に行きたいっ。
それだけ長くレイと一緒に居られるし。
レイが楽屋挨拶も一緒に来てくれればさ。リカリオ侯爵家の馬車は、レオとジェフが使用するんだから。その逆で俺がレイを家まで送る感じになるだろ。
そしたらもっと一緒に居られるじゃないか。
ねぇ~、叔父様に頼んでみて、駄目そうだったら諦めるからぁ。
それにさ、俺……。
レイから上演開始前に、お薦めの演目を聞かれた時にも。休憩時間中に、後半の見どころを聞かれた時にも。
将来の劇場後援者かつ芸術を嗜む者っぽい発言を、何一つ出来なかっただろ?
どうにか話した感想も微妙な雰囲気にしちゃっただけだし。
だから、汚名返上って言うか。名誉挽回って言うか。
何か一つでもレイに『劇場での面白い事』を体験して貰いたい。
「芝居を楽しむって趣味が無いなら、そんなの詰まらなそうだと思うかも知れないけど。楽屋を訪れるのって、思ったより楽しいものだよ? 舞台裏を見て楽しむ事も、劇場ならでは……ってね。ヴェルデュール学園じゃないけど、町の子供達が通う学校では、舞台を観た後に楽屋を訪問するって行事もあるみたい。毎回、とっても人気があるそうだよ。」
レイに頷いて貰いたい俺は、頑張って言葉を連ねた。
ちょっと言い過ぎな感じもするけど。
楽屋訪問って楽しいよ! 一緒に行こうよ! ってアピールする。
実際、俺……芝居を観るよりもソッチの方が好き。
「そう言えば、レオはあんまり劇場に足を運ばない、って話だったね。誘えば…」
「今日、レオは昼過ぎまでみっちり仕事をして来た。内容までは聞かなかったが、何やら大変そうな様子だったから今日は早めに休んだ方が良いだろう。」
「あ……、そう?」
「恐らくは肉体的な面以上に精神的な面でも疲労しているようだ。今日の上演中も、何度か辛そうにしているようだったからな。早く帰った方が良い。騎士は心身ともに健康であるべきだろう。」
レオに関しては、「誘ってあげれば良かったけど、今日はジェフの事を頼んじゃったから。レオとはまた今度、って事で。」……って言おうと思ったんだけど。
思いの外、レイの台詞が食い気味で。
そもそもレオがそんなに疲れてるなんて、俺は全く気付かなかった。
良く考えなくても、レオは部隊長だもんな、疲れるよな。
流石は弟だな、レイ。兄を良く見てる。
「それじゃ……。レイは一緒に残る、んで……良い?」
「勿論だとも。そもそも侯爵家の馬車は皇族のそれと比べて、中は大して広くない。ジェフリー殿下をお送りするとなれば、そこにレオと私の二人ともが同乗するよりは、レオだけの方が幾分とは言え余裕が出来るだろう。」
「確かに……ふふっ。」
レイの言葉に俺は、つい笑っちゃった。
リカリオ侯爵家の馬車内で、ジェフがレイとレオに挟まれてギュウギュウになってる光景を、想像しちゃって。
実際にはそんな座り方はしないって、分かってるけどさ。
慌てて俺は、ジェフの方に視線を向けた。
幸い、ジェフはまだレオと見つめ合ってて、こっちに気付いてない。
でも真面目に考えても、レイの言う通りかも。
緊張屋さんのジェフが狭い馬車の中。二人よりレオ一人の方がラクかな?
俺ならレイが居てくれるのが良いけどな。
ジェフは……う~ん、その辺りは俺が想像しても仕方ないか。
「それではレオに、私を置いて行くようにと伝えて来る。」
「うん、よろしく。」
そう言ってレイは、未だに見つめ合うジェフとレオの所に行った。
あの人達……どんだけ見つめ合ってるんだよ。
いや、羨ましいけど。
口出しするのは止めておこう。何となく関わらない方が良い気がする。
それよりも、レイと一緒に楽屋に行けるよう、ちゃんと叔父様に許可を貰わなきゃ。
「お忙しいクリスティ殿下と比べれば私など、大体が暇なようなものだ。そうでなくとも、第一皇子殿下のご用命とあらば、多少の些末な問題は後回しにもしよう。」
真面目なレイが凄く真面目な言い方で答えてくれる。
要するにオッケー、って事だ。
近付いて来てくれたレイに俺も寄って、控えめな声で話す。
別にコソコソするツモリじゃない。
すぐそこで、ジェフがレオにしがみ付いた状態のまま何か会話をしてるから、それの邪魔をしないようにだ。
なんか凄い親密そうな雰囲気出してるのが羨ましい、って理由もあった。
「テローモ公爵の楽屋挨拶に同行する予定なんだけど、良かったらレイも、どう?」
「楽屋に? ……私が?」
レイは怪訝そうな表情。
それもそうだろう。レイはウェンサバ劇場とは特に関係は無い。
だけど俺は、せっかくだから、レイと一緒に行きたいっ。
それだけ長くレイと一緒に居られるし。
レイが楽屋挨拶も一緒に来てくれればさ。リカリオ侯爵家の馬車は、レオとジェフが使用するんだから。その逆で俺がレイを家まで送る感じになるだろ。
そしたらもっと一緒に居られるじゃないか。
ねぇ~、叔父様に頼んでみて、駄目そうだったら諦めるからぁ。
それにさ、俺……。
レイから上演開始前に、お薦めの演目を聞かれた時にも。休憩時間中に、後半の見どころを聞かれた時にも。
将来の劇場後援者かつ芸術を嗜む者っぽい発言を、何一つ出来なかっただろ?
どうにか話した感想も微妙な雰囲気にしちゃっただけだし。
だから、汚名返上って言うか。名誉挽回って言うか。
何か一つでもレイに『劇場での面白い事』を体験して貰いたい。
「芝居を楽しむって趣味が無いなら、そんなの詰まらなそうだと思うかも知れないけど。楽屋を訪れるのって、思ったより楽しいものだよ? 舞台裏を見て楽しむ事も、劇場ならでは……ってね。ヴェルデュール学園じゃないけど、町の子供達が通う学校では、舞台を観た後に楽屋を訪問するって行事もあるみたい。毎回、とっても人気があるそうだよ。」
レイに頷いて貰いたい俺は、頑張って言葉を連ねた。
ちょっと言い過ぎな感じもするけど。
楽屋訪問って楽しいよ! 一緒に行こうよ! ってアピールする。
実際、俺……芝居を観るよりもソッチの方が好き。
「そう言えば、レオはあんまり劇場に足を運ばない、って話だったね。誘えば…」
「今日、レオは昼過ぎまでみっちり仕事をして来た。内容までは聞かなかったが、何やら大変そうな様子だったから今日は早めに休んだ方が良いだろう。」
「あ……、そう?」
「恐らくは肉体的な面以上に精神的な面でも疲労しているようだ。今日の上演中も、何度か辛そうにしているようだったからな。早く帰った方が良い。騎士は心身ともに健康であるべきだろう。」
レオに関しては、「誘ってあげれば良かったけど、今日はジェフの事を頼んじゃったから。レオとはまた今度、って事で。」……って言おうと思ったんだけど。
思いの外、レイの台詞が食い気味で。
そもそもレオがそんなに疲れてるなんて、俺は全く気付かなかった。
良く考えなくても、レオは部隊長だもんな、疲れるよな。
流石は弟だな、レイ。兄を良く見てる。
「それじゃ……。レイは一緒に残る、んで……良い?」
「勿論だとも。そもそも侯爵家の馬車は皇族のそれと比べて、中は大して広くない。ジェフリー殿下をお送りするとなれば、そこにレオと私の二人ともが同乗するよりは、レオだけの方が幾分とは言え余裕が出来るだろう。」
「確かに……ふふっ。」
レイの言葉に俺は、つい笑っちゃった。
リカリオ侯爵家の馬車内で、ジェフがレイとレオに挟まれてギュウギュウになってる光景を、想像しちゃって。
実際にはそんな座り方はしないって、分かってるけどさ。
慌てて俺は、ジェフの方に視線を向けた。
幸い、ジェフはまだレオと見つめ合ってて、こっちに気付いてない。
でも真面目に考えても、レイの言う通りかも。
緊張屋さんのジェフが狭い馬車の中。二人よりレオ一人の方がラクかな?
俺ならレイが居てくれるのが良いけどな。
ジェフは……う~ん、その辺りは俺が想像しても仕方ないか。
「それではレオに、私を置いて行くようにと伝えて来る。」
「うん、よろしく。」
そう言ってレイは、未だに見つめ合うジェフとレオの所に行った。
あの人達……どんだけ見つめ合ってるんだよ。
いや、羨ましいけど。
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