人形皇子は表情が乏しい自覚が無い

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劇場のこけら落としにて

こけら落としにて・15  ◇第一皇子クリスティ視点

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せっかく貴賓室に案内されたのに。期待してたようには話せなかった。
ダディ達が来るまでの間、俺達をもてなす為に劇場関係者が室内に待機してるから。

世間が期待する第一皇子らしく振舞おうってのも、理由の一つではあるけど。
これでも俺は一応、将来の後援者になるだろうからさぁ。
劇場関係者のモチベーションを落とすような発言は出来ないワケで。
かと言って、せっかく劇場にいるんだから、話題にしないのも勘繰られそうだろ。


だから……。


だから、過去に見た事のある芸術作品について話そうとしたのに。



「ウェンサバ劇場の芝居はどの演目も非常に……、…。」

レイが全然、乗って来てくれないんだよ。
確かに、俺が最初に話し掛けたのはレオに対して、だけどさ。
だってそれは……前に、定例の食事会の時にも説明したと思うけど……第一皇子の俺が宰相の長男と次男に話し掛けるんだから、まずは長男に声を掛けるのが社交マナーだからな。

でも、いつもだったら俺がちょっと喋ったら、レイも参加して来てくれてたのに。
なんか今日は違うんだ。



「大ホールでの歌劇は是非。歌も勿論の事、楽団の演奏は…、……。」

さっきから、俺ばっかり喋ってる。
レオも少しは答えてくれるんだけど、レイは相槌を打つだけ。


ひょっとしたら話題が気に入らないのかな、って思ったから。
レイの様子をそっと窺ってみるんだけど。
俺と視線が合ったら少し目を細めるレイの表情に、なんか……ゾクッていうか、ドキッていうか。
そんな風に見られるのが恥ずかしくて、俺は反射的に視線を逸らしちゃって。

いつもなら俺から話し掛ける事もあるのに。
いつもみたいに「ところで、レイは…」って、言えないでいた。



「レオナルド様は……私的にはあまり、劇場に足を運ばれないのでしたか。………若くして隊長ともなれば、さぞやお忙しいのでしょうね。……あまり無理をなさっても良い事はありません。たまには休憩がてら、劇場で芸術に触れるひと時を楽しんでみてはいかがでしょうか。」

いつでもレイが話せるような感じで喋ってみたけど、レイは口を挟まなかった。
カップを傾けながら聞いてるレオは殆ど喋らない。
芝居が楽しみでたぶんワクワクしてるだろうジェフは、参加して来るワケがない。


いかにも老舗劇場の後援者です、って発言をしてるだけの俺。
なんか……ちょっと、つまんないな。



「……頭を使わず、気楽に見られる演目も沢山ありますよ? 恋愛劇など如何?」

俺の言葉に、レオは小さく頷いたように見えた。
気の所為かも知れないけど、何だか期待するような眼差しにも見える。


え~っと、あの……ゴメン。つまんない、とか思っててゴメン。
そんなに真剣に聞かれるのもちょっと、逆に申し訳ないんだけど。

あれ、え? ちょっと待って? 
この流れって……その視線って……まさか俺がレオに、お薦めの恋愛劇を紹介する事を期待してるのか?
……無いよ、そんなものは無いってば。恋愛劇全般、俺は好きじゃないし。
一般評価の高いヤツでも紹介する? でもなぁ、嫌いなものを紹介するの嫌だな。


ごく短い時間だったろうけど。
レオに何て答えようか、俺は密かに困った。



「兄は身体を動かす方が性に合っているので、芝居などを観る機会はどうしても乏しくなるのですよ。恋愛劇というのも、なかなか……一人で観るには敷居が高いものでして、ね。」

そんな俺を助けてくれたのは、やっぱりレイだった。
今まで相槌だけだった反動みたいに、今日も第一声が長い。


って言うかさ……遅いよぉ。
もうちょい早い内から参加してくれよ、全くもうっ。



「私も、兄にいつも付き合えるわけでもない。かと言って、さほど趣味でもないものに、仲間の騎士を無理に連れて来る程の事でもありますまい?」
「ウェンサバ劇場は将来、私かジェフリー、あるいは二人ともが後援者となる予定の劇場。是非とも、日頃から芸術に慣れ親しんでいない人にも楽しんで貰いたい。そう考えているのですが……その辺りについて、ご理解頂ければ幸いです。」

やっとレイと喋れた安心感で、俺もちょっと長くなってた。
レイに無言で見られるのは落ち着かなかったし、自分でも意識してないぐらい薄っすらと、ちょっとは寂しかったのかも知れない。


俺達が話してるのを確認したレオが立ち上がる。
カップを持ってるから、飲み物をお代わりするんだろう。
人に頼まず自分で動く所はレオらしい。
もしかしたらレオは、俺がレイと喋り出すのを待ってたのかも。
いつからカップが空になってたのかは知らないけど、タイミングを計ってたなら、悪い事をしちゃったかな。



いつも通りに戻った。
……って思った俺はすっかり油断してた。



「では、未来の老舗劇場の後援者であるクリスティ殿下にお尋ねしましょうか。芝居を楽しむという趣味の無い我ら兄弟に、お勧め出来るような……殿下のお気に入りの演目をお教え願いたい。数多くの名作をご覧になって来たのでしょうから。」
「えぇ、それはもちろん……と言いたい所ですが。果たして、私の好みで、お気に召すでしょうかねぇ?」

う、嘘ぉ~。俺が芝居をお薦めする流れ……まだ消えてなかったのっ?
ちょ…ちょっと、ジェフっ? 今日の演目の事を考えてる所、申し訳ないんだけどさっ。微笑ってないで、助けてくれないかなぁ?
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