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劇場のこけら落としにて
こけら落としにて・17 ◇第一皇子クリスティ視点
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後半部も俺は、研究中の魔術アイテムの事を考えて時間を潰した。
なるべく物語の内容が頭に入って来ないように。
そうは言っても、やっぱり劇場だ。
声がちゃんと伝わるように考えてる音響設備が素晴らしいのか、観客の耳に上手く入り込むような声の発し方をしてる役者の力量が素晴らしいのか。あるいは両方か。
たまぁに意味を持った言葉が聞こえて来て。
小説としても芝居としても有名で、話の内容を知ってるから。聞こえた時点で物語がどこまで進んでるのか、どんな場面なのかが嫌でも頭に浮かんで来て。
俺は何とも言い難い気分になる。
はぁ~あ、やっぱり俺は恋愛劇って楽しめない。
特に悲劇って、苦手寄りの嫌いだ。
物語だから仕方ないとは言えさ、主役がダメ人間過ぎないか?
こう言っちゃあナンだけど、……いや、ぅん、架空の登場人物の性格設定に文句を言うの自体、馬鹿馬鹿しい事だって思いはするんだけど……。
悲劇になっちゃうのは自分達の考え方の所為じゃない? きっと他の人なら、そこまで悲しい結末にはならなかったと思うぞ?
こけら落とし公演の演目に限定して、言わせて貰うとさ。
勇気を出して死ぬのは、もっと後でも良くない?
主役の令嬢が毒を手に入れてさ。心中場所で落ち合うって……。
一緒に死ぬ為にじゃなく、一緒に逃げて、生きる為に行動すれば?
屋敷をコッソリ出て来れたんだから、二人で街を出なよ。
他所の街でも、他所の国でも行って平民になりなよ。
手に入れた毒は二人で分け合って、密かに持っててさ。
逃げた先で見付かって家に連れ戻される、どうにも出来ないって時になったら……その時に死ねば? そうなるまでは生きなよ。
こういう所。原作者は庶民だなぁ、って思う。
貴族の令息や令嬢が家を捨てて逃げるなんて無理、って前提で書かれてる。
声を大にして言いたい。
貴族に生まれても大人になったら爵位が無い、なんて珍しくない。
そもそも、何人もいる子供の内、家を継げるのは一人だけなんだ。
他家の跡取りと婚姻するって道もあるけど、他家の跡取りだってその家に一人しか居ないんだから。
複数人いる子供達に領地を分け与えるのにも限界があるって、分かるだろ?
侯爵家が、跡取りになれない子に領地を与えて、必要な手続きを踏んで伯爵にしてやって……その伯爵家に複数人の子が育ったら、その伯爵は更に領地を分ける?
そんなの無理だよね? 領地をどんだけ細切れにする気? って感じだろ?
無尽蔵に貴族が増えたりしないんだから。第三子以降は平民か、それに近い感じで暮らす事になるんだぞ。
領地を持つ上級貴族は大抵、子供への教育で平民の暮らしぶりを教えてる。
だから必要以上に『平民の暮らし』に怯える事はあまり無いハズ。
怯えるとすれば……平民になる事が怖いんじゃない。
あくまでも『不名誉な罰』だから怖いんだ。
とか考えてたら。
芝居の後半も終わってた。
やっば。
「今日も素晴らしい滑舌だった。流石は看板女優。声も良いから聞きやすいね。」
「……そうですね。」
観てた振りをしながら、俺は観覧席を立った。
同じように立ち上がるジェフの声がなんだか元気が無い。
気の所為かな……?
先に帰るダディ達を、息子達で並んで見送った。
横目でジェフを見たら、やっぱり元気無い。
あれ? ……まさか、ジェフ。泣くのを我慢、してる……?
「ジェフ……大丈夫?」
「何がです?」
「なんか……泣きそうに見えるんだけど。」
「えっ……。」
レイ達に聞こえないよう、小声で注意してみた。
ビックリしたようにジェフが固まる。
そう言えばジェフって割かし、主人公と共感しがちだったな。
今日は五大悲劇って呼ばれるくらい、ゴリゴリに悲劇だもんなぁ。
それじゃあ、ちょっとウルウルもしちゃうよね。
ひょっとしたらこれ、このまま楽屋に行くのってマズくない?
俺一人で済ませるにしたってさ、その間ずっと、ジェフを馬車で待たせとくのかって問題が……あーっ、失敗したなぁ。
ダディ達が帰る前に気付いてれば。
あ、でも……そうだ。
「俺の気の所為かもだけど……今日はレイ達もいるしさ。」
「え、えぇ……。」
レオ達も馬車で来てるんだから、リカリオ侯爵家の馬車でジェフを送って貰えば良さそうだぞ。
緊張屋さんなジェフだけど、レイ達とはもういい加減、慣れても……。
……んっ?
……あ。
えぇっと……、あの……。
俺の……、本当に……気の所為だったよ。
ゴメン、ジェフ……。
「…楽屋には俺が行くから。ジェフは先に帰りなよ。」
「……えぇ。……そうします。」
泣きそうに見えたのは俺の気の所為だった。
ジェフは今、ガラス窓で顔を確認したから気付かなかったんだろう。
けど、ジェフがなんか怖い顔になってて「ゴメン、ゴメン」って言い出せない。
姑息な俺は、黙っておく事にした。
「ねぇ、レオ。良かったら城まで、ジェフを送ってくれる?」
俺はレオに助けを求めた。
馬車に乗せて貰うって話だから、長男のレオに頼むのがスジだから。
「皇族の馬車は俺が帰る時に使うから。よろしく頼むね?」
「分かった。では僭越ながら、お送りさせていただこう。ジェフリー殿下。」
流石はレオだ、男前。包容力あるね。
これでもうジェフについては安心だ。
頼んだ、任せた、よろしくお願いね。
俺は内心、胸を撫で下ろした。
そしたらジェフが……。
「……よろしくお願いします。レオ…ナルド様。」
ぎこちない挨拶するクセに。
ジェフはさも当然のように、レオの腕に自分の腕を絡めた。
えっ、二人ってそういう関係? いつの間に?
……って一瞬、思ったけど。そうじゃなさそう。
レオは激怒五秒前みたいな怖い顔で何かを堪えてるし。
ジェフは憎き仇敵を崖から突き落とすような笑顔だし。
それなのに、二人とも慌てて離れるような気配も無い。
二人とも、……なんで?
え~と……。
「そうだ。……ねぇ、レイ? 良かったらさ…」
俺は二人にツッコむのは止めた。
帰る支度をしてヒマそうに見てたレイを、もう少し引き止める事にしよう。
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