人形皇子は表情が乏しい自覚が無い

左側

文字の大きさ
上 下
54 / 60
劇場のこけら落としにて

こけら落としにて・14  ◇第一皇子クリスティ視点

しおりを挟む
「結構早めに着いたね。」
「そうですね。」

あ~あ、もうウェンサバ劇場に着いちゃった。
上演開始は午後五時半、だぞ? でも今、まだ午後四時過ぎじゃん。
貴賓室に案内して貰う以上、身分の高い者が時間ギリギリに到着するのは良くないって分かってるけどさ。いくら何でも早過ぎたなぁ。
これから部屋に通されて、そこでお茶でも出して貰って……はぁ。一時間も無駄に過ごすのかぁ。

だから俺、芝居を観に来るの、嫌なんだよなぁ。
こけら落とし公演の演目も……よりにもよって『五大悲劇』のアレだし。
正直言ったら今日のお楽しみは、ウェンサバ劇場の美味しい軽食と、レイに会えるって事だね。



「あぁそうだ。もう来てるのかなぁ……、……レオとレイは。」
「ええっ!」
「あれ? 知らない? ダディと宰相も一緒なんだから分かってると思ってた。」
「そんな……っ、きっ、……聞いてませんよっ!」
「あれぇ~? …………あ。ゴメン、伝えるの忘れてたぁ~。」
「くっ…クリスぅっ……!」

そっかぁ、ジェフは知らなかったのかぁ。
知ってるもんだと思ってたから、俺はわざわざ伝えてなかったよ。
ゴメン、言えば良かったね。

って言うか、さ? レオとレイが来たって、ジェフは別にどうって事ないだろ?
定例の食事会で何回も喋ってるんだし、そもそもレオとは一学年違いで同じ学園に通ってたんだし、いくらジェフが緊張屋さんでも、いい加減にもう慣れてもいいと思うよ?
ジェフは今日の公演を楽しみにしてたんだから、いつも通り、レオとレイを気にしないで、芝居の世界に没入すればいいだけじゃん。

俺はホラ。あの……、レイと会えるってなったら、さ。
そりゃあ身支度にも気合が入るってもんだけどさ。
今日も着飾りつつ、お腹周りを締め付け過ぎない服を着て来たし、さ。




キィ~………、ガタン。


コンコン。


「到着致しました。」
「ありがとう、開けて構わない。」

馬車が停まって、御者から声を掛けられる。
俺は背筋を伸ばしながら、コッソリ溜息を吐いた。


あぁ~、本当に着いちゃった。
外では劇場の支配人がたぶん待ってるだろうから、第一皇子っぽくしなきゃ。



「これはこれは、両殿下。お忙しいところを……、…。」
「こちらこそ、今日の日を迎えられる事、嬉しく思います。…。」

劇場に一歩、足を踏み入れた途端。
案の定、恭しく声を掛けられた。


丁寧に対応してくれる支配人には悪いんだけど、そこそこの挨拶で良いよね。
あんまり力を入れて喋って、劇場側へのプレッシャーになってもアレだし。
ちょちょっと話したら、ジェフに振っとこう。



「…、期待しています。……ねぇ、ジェフリー?」
「今日のこけら落とし公演は、何日も前から楽しみにしていました。」

いつもは緊張屋さんのジェフだけど、公人として、ちゃんとしなきゃいけない場面はちゃんとしてるなぁ。
もう既に気もそぞろな俺と違って、ね。


さっそく貴賓室に案内されるっぽい。
開演までどうやって時間を潰そうかなって考えてたら。



馬車寄せに、リカリオ侯爵家の馬車が停まった。
中から出て来た二人の姿に、周囲の来場者が視線を奪われてる。


きっ、……来たあぁ~~~っ! レイだあぁ~っ!
劇場に早く着きすぎてどうしようかと思ってたけど、レイもこの時間に来るなら、心配する必要は無かったな。
それだけ長く一緒に居られるから、これはこれで良かったぞっ。

実は最近、さぁ……。
そのぉ……、結っ構~、イイっ感じの、雰囲気…なんだよねぇ。
誰と、って……もちろんレイと、だぞぅ?
学園感謝祭で結構、ぐっと距離が縮まった、って言うかさ。

芝居が始まるまでの退屈な時間、レイに付き合って貰おうっと。



「……ご機嫌よう。……リカリオ侯爵家のお二人。」

思わず手を振りそうになったのを我慢して、俺は精一杯気取ってみた。
声を掛ける前に、素早くジェフとお互いをチェックし合ったから大丈夫なハズ。
これでも頑張って良さげな衣装を選んで来たから、ちょっとはいいなって、思ってくれれば嬉しい。

俺、人形皇子って呼ばれるんだから容姿はそれなりに自信あるんだけど。
やっぱりホラ。好きな相手がどう思うか、が重要だろ?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

王道にはしたくないので

八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉 幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。 これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。

【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】アナザーストーリー

selen
BL
【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】のアナザーストーリーです。 幸せなルイスとウィル、エリカちゃん。(⌒▽⌒)その他大勢の生活なんかが覗けますよ(⌒▽⌒)(⌒▽⌒)

もういいや

senri
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが…… まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん! しかも男子校かよ……… ーーーーーーーー 亀更新です☆期待しないでください☆

処理中です...