人形皇子は表情が乏しい自覚が無い

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劇場のこけら落としにて

こけら落としにて・11  ◇第二皇子ジェフリー視点

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前半部の上演を終え、三十分間の休憩に入りました。
上演中は最低限に絞られていた照明も戻り、明るくなった貴賓室では軽食と飲み物が用意されています。
観覧席からソファーへと移り、小腹を満たして後半部の観劇に備えるのです。


僕は物語の余韻に浸りつつ、スコーンとお茶を頂きます。
後半部もそれなりに長時間ですからね。
途中で席を立つ事の無いように、軽く済ませるのが当たり前ですよ。

だと言うのに……。



「流石はウェンサバの看板作品だ。素晴らしい演技ですね、後半も楽しみです。」

クリス……、クリスっ? 食べ過ぎ、飲み過ぎですよっ?
この短時間の内にどれだけ食べる気ですか。
まさか、ウェンサバ劇場の軽食を全種類制覇、とか……そんな馬鹿な事を狙ってはいませんよね?
芝居よりも食事を楽しみに来ている事が明らか、過ぎですよ。

あれはきっと、クリスは必要になれば遠慮無く席を立つつもりなのでしょうね。
いくら演目が『五大悲劇』の一つと呼ばれる古典で、お話の筋が分かっているとは言え……あぁ、そう言えば。クリスはこのお話、原作小説自体も嫌いなんでしたっけ。



「レオナルド様も見た事がある作品ですが……あまりお気に召しませんでしたか?」
「……いや、そんな事は……。」

またレオ様が絡まれています。
出来ればあまりレオ様を困らせないで欲しい、とは思いつつ。今の所は、この場のお喋りをクリスに任せる事にしました。

定例の食事会の時と同様に、今の僕は……。
いいえ、すみません、食事会以上に緊張しているので。


だって食事会の時には、僕とレオ様の間には食卓があるんです。
なのに今は、劇場の、単なるソファー席なので。
レオ様との間にあるのは、城にあるよりも小さめなテーブル。しかも低いもの。

つまり……! 僕の全身がレオ様の、視界に、入っている……!

これが緊張せずに居られますか。
上半身だけでなく、足の爪先まで、気をしっかりと保たなくては。


だから少々難有りでも、クリスが喋って注意を惹いてくれるのは有難いのです。

だと言うのに……(再び)。



「ジェフから、何か無い?」
「……ふぅ。……黙って観ていれば良いでしょう。」

いきなり僕に話を振らないでくださいっ。
大体ね、お芝居なんて黙って観て楽しむだけでしょうっ?
見どころも何も、観て、面白いと思った所が見どころですよっ。



「あくまでも私の、個人的な感想です…」

僕がどれだけ緊張して答えたかも知らずに、クリスが話し始めました。
レイモンド様と会話をしているので、後半部の上演まで時間が稼げるでしょう。

少し安心しながら、僕は心の中で物語を反芻します。



「父親を始めとした、唯一気取らずに本音を話せるハズの家族…」

僕は自分を、……自分とレオ様を、主役に投影して想像してしまいます。


今回のお芝居は悲劇です。
主役の二人は、家の都合により、結ばれる事はありません。
それでも構わない。
僕は、ストーリーにと言うよりは『愛し合っている二人』に自分とレオ様とを重ねてしまうので。

……もっとも。僕が主役の片割れであれば、死を選ぶ事はありませんがね。
だって、そうでしょう?
それまで散々に憎み合っていた貴族の家同士が。
何人もいる息子や娘が死んで、その直後から『反省』とやらをする……その程度の反発心しか持たない関係なのですから。
死を選ぶ程の覚悟があれば、何とか出来そうではないですか? だって、主役の二人は愛し合っていると、お互いに分かっている状態なのですから。

まぁ、こう言えるのも、物語が分かっているからでしょうかね。



「あぁ、こんな時間だ。もうすぐ後半が始まりますねぇ。」

えっ? もう、そんな時間ですか?
すっかり想像の世界に入り込んでいました。
へ……っ、変な顔とか、していないですよね?
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