人形皇子は表情が乏しい自覚が無い

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劇場のこけら落としにて

こけら落としにて・5  ◇長男レオナルド視点

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全身鏡の前に立つオレは、両手にスカーフ。
左右に持ったそれを交互に首元に当て、更に別な物へも手を伸ばした。

どれもメインカラーは渋いグリーンだが、模様とサブカラーが違う。
明るい黄色。薄いオレンジ色。やや濃いオレンジ色。
お察しの通り。
全部、ジェフリー殿下の髪色をイメージしての選択だ。



「これが一番、自然……だな。」

散々っぱら迷ったが薄いオレンジ色の細い線がストライプで入ってる物に決めた。
帝国の国花はヒマワリでな。
この組み合わせなら「ひまわりカラーだ」と言い張れるだろう。



ダンダンダンっ! ガチャ、バタンっ!


……なんだ、うるせぇな。



「まだ支度が出来ないのかっ、レオっ!」

乱暴に扉を開ける音がしたと思えば、また、弟のレイモンド……レイだった。
スカーフを手早く首に巻いてるオレを、腕組みしながら睨み付けて来る。



「今、出来上がる所だ。……ほら、出来たぞ。」
「お前の首元が赤かろうが黄色かろうが誰も気にせんっ。」

オレのスカーフにチラリと目をやったレイは、不愉快そうに眉を顰めて視線もキツくした。
当たり前のように口調も厳しい。


なぁ、レイ? そこまでキッパリ言い切らんでもいいだろうよ。
オレだって自分でも分かっちゃいるんだ。
だがお前は、可愛げが無くてもオレの弟だろう?
ちょっとは家族として、お世辞でも褒めてくれたって良かねぇか?
兄ちゃん、レイの言葉で今、意外と結構傷付いたぞ?



「はぁ……。私は先に馬車へ行っている。正面に回すから、さっさと荷物を纏めて出ておく事だ。」
「おう……。」

溜息を吐いたレイは、眉間を人差し指と中指で押さえたまま背中を向けた。
立ち去る足音からして、かなり急いでる、……いや、焦ってるのが分かる程だ。
どっちかというと、今の言い方はまるでオレを家から追い出すみたいなんだが……そういう意図を隠してるワケじゃねぇだろうな?



肩を竦めたオレは改めて全身鏡に目をやる。
実はまだ、髪の毛をちゃんとしてねぇ。


「流石にこっから更に時間を掛けるワケにも行かねぇか。」

とりあえず乱れねぇ程度に、クリームで前髪を上げて横髪は撫で付けるに留めるか。
レイのあの様子じゃあ、すぐにでも馬車が正面玄関前に回ってるだろう。
あんまり待たせると、レイの頭が禿げ上がりそうだからな。





   *   *   *





ウェンサバ劇場までの道のりは予想よりもずっと順調だった。
行き交う馬車の交通量はそこそこだが、ウチの馬車にはリカリオ侯爵家の紋章が貼り付けてあるからな。多少は忖度して、他の馬車が道を譲ってくれてるからだ。
強引に押し通る気は無ぇけどよ、こういう時は多少煩わしくとも、遠慮無く先を行かせて貰っておくのが礼儀。馬車同士、お互いに遠慮し合っても邪魔になるだけだからな。


予定通り、二十分で劇場に到着する。
ウチの馬車以外にも何台かが劇場の敷地内に入って行くようだ。


「あっ……。」

落ち着かねぇ様子で窓の外を見てたレイが小さな声を上げた。
本当に小さくて、オレの耳に聞こえたのも偶然ってぐらいな声量だったんだが……普段あんまり聞かねぇような動揺っぷりと言うか。驚いたような、ガッカリしたような声だ。


「どうした、レイ?」
「……何でもない。」

……いや、おい? 何でもないって声じゃなかったろ?


気になったオレは、レイが目にしたと思われる、窓の外の景色に目をやった。
大規模な改修工事を行ったウェンサバ劇場は、建物だけでなく、その周囲にも手を入れたようだ。

建物前にある広場には、幾つかのテーブルと椅子が並べられてた。
近くの石畳の上に屋台があるから、恐らく通常時はオープン形式のフードコートになるんだろうよ。
今日の予定はこけら落とし公演だけだから、椅子で休んでる人影はあるものの、屋台はどれも準備中だ。
取扱いメニューを宣伝する『のぼり』や『垂れ幕』の存在が、屋台の営業中はさぞかし賑やかなものだろうと想像させる。この劇場ならではの、名物フードも……。



名物フード、だと…………?


オレの脳内に、まさかの予測が浮かんだ。



「レイ……? その、…もしかして……トルネードソーセージ狙い…」
「…何を言っている。」

全部を言う前にぶった切られた。

この速さ。
この表情。
この声音。


あぁこりゃ間違いねぇな。
レイの奴……。
開演前にウェンサバ劇場名物を食おう、って考えてたらしいな。
名物は人気があるから売り切れになる可能性を考えて、ひょっとするとレイは、人だかりが出来る前に買いたかったのかも知れねぇ。

だが……残念だったな、レイよ。屋台が開かれるのは通常営業になってからだ。
そういう所はちゃんと調べておけ。
あんなに急かされたのに、兄ちゃんは情けねぇぞ?



生暖かい気持ちになったオレは、また窓の外に目をやり。


「ぅあ……っ。」

さっきのレイ以上に動揺した声が出た。



劇場正面の馬車寄せに、立派な馬車が停まってるのを見たからだ。

皇族の紋章を施した四頭立て。
皇帝陛下はオレ達の父親である宰相と一緒に、もうちょい後から来るハズだ。
つまりあの馬車に乗ってるのはクリスティ殿下と、……ジェフリー殿下。


もしかしたら貴賓室に案内される前に、会えるかも知れねぇ。

そう思った途端。
オレは俄かに緊張して来た。
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