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学園の感謝祭にて
学園の感謝祭にて・18 ◇俯瞰視点(少し内心有り)
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サロンから皇子二人が姿を消した後。
気を取り直した……と言うよりも、取り直さざるを得なかった長男と次男は、取り繕った顔で校舎内を闊歩した。
大胆な衣装に華やかな化粧を施した次男と、それをエスコートする威風堂々とした長男の取り合わせは、実に派手な光景として周囲の人々の目を惹き付けていた。
日頃は冷徹な次男が、穏やかな眼差しを周囲に向ける。
普段から厳格な長男の口元には、薄っすらと笑みが浮かび上がっている。
喫茶店を宣伝しながら、次男は周囲へと視線を流しながら、長男の顔を窺い見た。
力の抜けた、何かを思い出しているような、長男らしからぬ緩い微笑みだった。
それが皇子と会った後に見る事のある顔だと、思い出し。
次男は緩やかに不機嫌になって行った。
ピンヒールで歩く次男を肘にぶら下げながら、長男は内心、激しく落ち込んでいた。
弟からの視線も周囲の視線も、分かってはいるがそれを気にする余裕が無い程に。
頭の中では先程の光景が、思い出すまいとしても勝手に蘇って来る。
破廉恥な姿の弟をソファーへと強引に寝かせた所を。そんな場面をちょうど、よりにもよって第二皇子に見られた事。
さぞや侮蔑した視線を浴びるかと思いきや、そんな状況であってすら、第二皇子の視線を浴びるのは弟の方で。自分が睨まれる事すら無かった事。
無様な女装をしている弟の姿を見て、第二皇子がショックを受けただろう事。
取り繕う事も出来ず、踵を返した第二皇子の後ろ姿。
何かを堪えるように「不愉快です」と呟いた声までも聞こえて来るようだ。
もうちょっと何とか出来たんじゃないか。
そう思いながら、ではどうすれば良かったのか、思い浮かばずに。
そんな自分に嫌気も差しながら、今も肘に縋り付いている弟の事を微かに恨まずにはいられない長男だった。
「帰りは……いい。」
宣伝をしながら二十分程、歩いた頃だろうか。
校舎の出入口付近で次男は簡潔に告げた。
「どうする気だ?」
「他の者に頼む。」
長男から離れた次男は片手を、一緒に付いて来ていた同級生の肩へと乗せた。
ここまで長男の肘に縋り付く姿勢で歩いて来たのは、単純に、長男の歩くペースが速かったからだ。
もう少しゆっくりと歩いてくれていれば、そこまで無様にならずに済んだものを。
ペースを落としてくれと、正直に言えば良かっただけの話ではあるが。その時の次男は、先程第一皇子と『良い雰囲気で微笑み合った』長男に、頼みごとをする気にはなれなかったのだ。
このペースで帰りを歩ける自信が無い。
実際に今、妙に力が入った所為で、既に足首とふくらはぎが少々痛んでいた。
どうせもう既に、第一皇子とはサロンで会ってしまったのだ。
わざわざ自分の女装を揶揄いに、第一皇子が教室まで来るとも思えないし、ゆっくりと戻っても良いだろう。
長男としては、次男がピンヒールを履きこなせていないと分かったものの。
今日の目的である『第二皇子と偶然に出会う』を悪い形で果たしてしまった今、これ以上、弟のそばに留まる理由は無かった。
顔を出しに行こうと考えていた所は数か所あったが、今は気持ちが沈んでいる。
それらは最終日でも構わないだろう。今日はまだ感謝祭の初日なのだから。
「なら、オレはこれで。気を付けて戻れよ?」
「あぁ。……世話を掛けた。」
次男の同級生が長男に感謝の言葉と、別れの挨拶を告げる。
それに返事をして、長男は校舎を離れて行く。
長男の背中を少しだけ見送り、次男もその場を後にした。
長男、次男、両者とも。
俯きそうになる気持ちとは裏腹に背筋を張り、見た目だけは凛としていた。
気を取り直した……と言うよりも、取り直さざるを得なかった長男と次男は、取り繕った顔で校舎内を闊歩した。
大胆な衣装に華やかな化粧を施した次男と、それをエスコートする威風堂々とした長男の取り合わせは、実に派手な光景として周囲の人々の目を惹き付けていた。
日頃は冷徹な次男が、穏やかな眼差しを周囲に向ける。
普段から厳格な長男の口元には、薄っすらと笑みが浮かび上がっている。
喫茶店を宣伝しながら、次男は周囲へと視線を流しながら、長男の顔を窺い見た。
力の抜けた、何かを思い出しているような、長男らしからぬ緩い微笑みだった。
それが皇子と会った後に見る事のある顔だと、思い出し。
次男は緩やかに不機嫌になって行った。
ピンヒールで歩く次男を肘にぶら下げながら、長男は内心、激しく落ち込んでいた。
弟からの視線も周囲の視線も、分かってはいるがそれを気にする余裕が無い程に。
頭の中では先程の光景が、思い出すまいとしても勝手に蘇って来る。
破廉恥な姿の弟をソファーへと強引に寝かせた所を。そんな場面をちょうど、よりにもよって第二皇子に見られた事。
さぞや侮蔑した視線を浴びるかと思いきや、そんな状況であってすら、第二皇子の視線を浴びるのは弟の方で。自分が睨まれる事すら無かった事。
無様な女装をしている弟の姿を見て、第二皇子がショックを受けただろう事。
取り繕う事も出来ず、踵を返した第二皇子の後ろ姿。
何かを堪えるように「不愉快です」と呟いた声までも聞こえて来るようだ。
もうちょっと何とか出来たんじゃないか。
そう思いながら、ではどうすれば良かったのか、思い浮かばずに。
そんな自分に嫌気も差しながら、今も肘に縋り付いている弟の事を微かに恨まずにはいられない長男だった。
「帰りは……いい。」
宣伝をしながら二十分程、歩いた頃だろうか。
校舎の出入口付近で次男は簡潔に告げた。
「どうする気だ?」
「他の者に頼む。」
長男から離れた次男は片手を、一緒に付いて来ていた同級生の肩へと乗せた。
ここまで長男の肘に縋り付く姿勢で歩いて来たのは、単純に、長男の歩くペースが速かったからだ。
もう少しゆっくりと歩いてくれていれば、そこまで無様にならずに済んだものを。
ペースを落としてくれと、正直に言えば良かっただけの話ではあるが。その時の次男は、先程第一皇子と『良い雰囲気で微笑み合った』長男に、頼みごとをする気にはなれなかったのだ。
このペースで帰りを歩ける自信が無い。
実際に今、妙に力が入った所為で、既に足首とふくらはぎが少々痛んでいた。
どうせもう既に、第一皇子とはサロンで会ってしまったのだ。
わざわざ自分の女装を揶揄いに、第一皇子が教室まで来るとも思えないし、ゆっくりと戻っても良いだろう。
長男としては、次男がピンヒールを履きこなせていないと分かったものの。
今日の目的である『第二皇子と偶然に出会う』を悪い形で果たしてしまった今、これ以上、弟のそばに留まる理由は無かった。
顔を出しに行こうと考えていた所は数か所あったが、今は気持ちが沈んでいる。
それらは最終日でも構わないだろう。今日はまだ感謝祭の初日なのだから。
「なら、オレはこれで。気を付けて戻れよ?」
「あぁ。……世話を掛けた。」
次男の同級生が長男に感謝の言葉と、別れの挨拶を告げる。
それに返事をして、長男は校舎を離れて行く。
長男の背中を少しだけ見送り、次男もその場を後にした。
長男、次男、両者とも。
俯きそうになる気持ちとは裏腹に背筋を張り、見た目だけは凛としていた。
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