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学園の感謝祭にて
学園の感謝祭にて・16 ◇第二皇子ジェフリー視点
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早く、早く……早く行かなきゃ……!
焦る僕はクリスを急かしながらサロンへと戻りました。
先程までレオ様がいた場所へ視線を向けると、そこにレオ様の姿が見当たりません。
もう移動してしまったのかと更に焦って、周囲を見回して。
やっと僕は、壁際にあるソファーに、レオ様を見付ける事が出来たのです。
あぁ……! 良かった、まだ…間に合った……!
たった今ちょうど、レオ様は推定・レイモンド様をソファーに寝かせる所でした。
間に合った事でホッと胸を撫で下ろした僕は、その光景を見て。つい、想像してしまいました。
レオ様が僕を、優しくも強引な所作でソファーへと寝かせてくれる所を。
そして僕の事を愛しそうに見詰める、尚且つ欲望を湛えたレオ様の瞳を。
……もうっ! こんな時に働かなくても良いでしょうに、僕の想像力めっ。
自分の顔面が崩壊しそうだと気が付いた僕は、慌てて表情筋を叱咤します。
幸いな事に、周囲はまだ僕達に注目はしていません。
その間にどうにか、僕は『仮面皇子』らしく表面を取り繕えたはずです。
そんな事よりも今は、早くクリスに、レオ様へと声を掛けて貰わなければ……。
僕からわざわざ声を掛けるなんて、そんな不自然な事は恥ずかしくて出来ません。
それにもともと、学園感謝祭を見に行きたいと言い出したのはクリスです。
仮装をしているレイモンド様を揶揄うのが目的で来たんですから、ここはクリスが責任を持って話し掛けるべきでしょう? クリスはいつもレオ様とも話していて、慣れているのですから、適任ではないでしょうか。
それにしても、珍しくクリスが何も言いませんね。
いつもならもう、レイモンド様へと、挨拶代わりに嫌味の一つも言っている頃です。
もしかしてクリス……。壁際の二人に気が付いていないのでは?
そう考えて僕は、なかなか声を出さずにいるクリスを窺いました。
そして、クリスの顔が視界に入った瞬間、僕は理解したのです。
……クリスは今、……役に、立たない……っ!
俯いたクリスは何かを誤魔化すように足元に視線を下ろし、唇を震わせていました。
そうです。
クリスは今、爆笑し掛けているのです。
頑張って堪えているのでしょう、それでも口端、頬がピクピクと痙攣しています。
こんな状態のクリスがレオ様達に声を掛けようとして口を開けば、どうなるか……恐ろしい結果が容易に予測出来てしまいました。
恐らく我慢しきれなくなったクリスが第一皇子らしからぬ声と表情とで、大笑いしてしまうだろう事は間違いありません。
だからと言って、クリスの復活を待っている余裕は無いのです。
いつまでレオ様がソファーで休んでいるのか、分からないのですから。
「……くっ。」
僕は唇を噛みました。
クリスに頼れない以上、僕が話し掛けるより他は無さそうです。
レオ様の所に従者を使いにやる。などど失礼な事は出来ないのですから。
さぁ……そうと決まれば早く、話し掛けましょう。
緊張で咽喉から胃が出て来そうな思いですが、気の所為です。
取り敢えず無難な言葉を探し出し、無駄に震えぬよう、気を付けて声を出しました。
「こんな所で何をしているのですか……。」
僕としては上々な出来でした。
声を出したのと同じタイミングで、周囲が静かになってくれたのも良かった。
さほどの大声を出さずとも、僕の声はサロンの壁際まで届いたはずです。
なのに、肝心の……レオ様には届かなかったようです。
レオ様に振り向いて貰えませんでした。
周囲の者達からの注意だけは引いてしまったらしく、視線を浴びる僕はとても居た堪れない思いを感じました。
公務の時に注目されるのは当然ですし、そうでなくとも普段から第二皇子として周囲から見られる事には慣れています。
ですが……。
こうして、緊張しながら話し掛けたレオ様に気が付いて貰えなかったという場面を、ジッと見守られるのは。とても居心地が悪いです。
サロンが静まったままな事も、落ち着きません。
どうか皆さん、僕に気を遣わずに、それぞれに寛いでいて貰って構わないんですよ?
「何をしているのかと、私は聞きましたが……?」
きっと僕の声は自分が感じたよりも小さかったのだ、と。
そう思い直して、さっきよりも大きめに声を……。
出そうとしたのですが。無理でした。
変な所で声が区切れてしまうような有り様です。
自分でも情けなく感じて、言いながら僕は、視線をレオ様から逸らしました。
隣に来てくれたクリスの存在感にホッとします。
ようやく復活したのでしょうから、ここから先はクリスに任せましょう。
これでも僕は充分にやりました。一先ずはレオ様に声を掛ける事が出来たのですから、僕の役目はこれで終わりにします。
緊張感から解き放された僕は、ふと、レイモンド様の衣装が気になりました。
確か今日は、歴史上の人物に仮装すると聞いています。
ベッドにしどけなく横たわる太腿は、大きなスリットで剥き出しになっており。
腕は肩の部分から全てがシースルーで透けており。
胸元は大きく開いていました。
恐らく背中も同様でしょう。
その姿と『歴史上の人物』というキーワードとが結び付いた時。
それが『マーダー・ムヤン』の仮装だと理解した時。
僕は一気に不愉快な気分になりました。
普段ならばそんな風に、僕の気分が急激に変わる事などありません。
今は、寸前までの激しい緊張感の所為で。
そこから解放された反動で、緊張感が丸々、怒りへと変換されてしまったのです。
「行きましょう、クリス。不愉快です。」
このままここに居れば、不機嫌さで僕の顔が崩れてしまう。
そう思った瞬間。
僕の足は既に、サロンを出る為に歩き出していました。
焦る僕はクリスを急かしながらサロンへと戻りました。
先程までレオ様がいた場所へ視線を向けると、そこにレオ様の姿が見当たりません。
もう移動してしまったのかと更に焦って、周囲を見回して。
やっと僕は、壁際にあるソファーに、レオ様を見付ける事が出来たのです。
あぁ……! 良かった、まだ…間に合った……!
たった今ちょうど、レオ様は推定・レイモンド様をソファーに寝かせる所でした。
間に合った事でホッと胸を撫で下ろした僕は、その光景を見て。つい、想像してしまいました。
レオ様が僕を、優しくも強引な所作でソファーへと寝かせてくれる所を。
そして僕の事を愛しそうに見詰める、尚且つ欲望を湛えたレオ様の瞳を。
……もうっ! こんな時に働かなくても良いでしょうに、僕の想像力めっ。
自分の顔面が崩壊しそうだと気が付いた僕は、慌てて表情筋を叱咤します。
幸いな事に、周囲はまだ僕達に注目はしていません。
その間にどうにか、僕は『仮面皇子』らしく表面を取り繕えたはずです。
そんな事よりも今は、早くクリスに、レオ様へと声を掛けて貰わなければ……。
僕からわざわざ声を掛けるなんて、そんな不自然な事は恥ずかしくて出来ません。
それにもともと、学園感謝祭を見に行きたいと言い出したのはクリスです。
仮装をしているレイモンド様を揶揄うのが目的で来たんですから、ここはクリスが責任を持って話し掛けるべきでしょう? クリスはいつもレオ様とも話していて、慣れているのですから、適任ではないでしょうか。
それにしても、珍しくクリスが何も言いませんね。
いつもならもう、レイモンド様へと、挨拶代わりに嫌味の一つも言っている頃です。
もしかしてクリス……。壁際の二人に気が付いていないのでは?
そう考えて僕は、なかなか声を出さずにいるクリスを窺いました。
そして、クリスの顔が視界に入った瞬間、僕は理解したのです。
……クリスは今、……役に、立たない……っ!
俯いたクリスは何かを誤魔化すように足元に視線を下ろし、唇を震わせていました。
そうです。
クリスは今、爆笑し掛けているのです。
頑張って堪えているのでしょう、それでも口端、頬がピクピクと痙攣しています。
こんな状態のクリスがレオ様達に声を掛けようとして口を開けば、どうなるか……恐ろしい結果が容易に予測出来てしまいました。
恐らく我慢しきれなくなったクリスが第一皇子らしからぬ声と表情とで、大笑いしてしまうだろう事は間違いありません。
だからと言って、クリスの復活を待っている余裕は無いのです。
いつまでレオ様がソファーで休んでいるのか、分からないのですから。
「……くっ。」
僕は唇を噛みました。
クリスに頼れない以上、僕が話し掛けるより他は無さそうです。
レオ様の所に従者を使いにやる。などど失礼な事は出来ないのですから。
さぁ……そうと決まれば早く、話し掛けましょう。
緊張で咽喉から胃が出て来そうな思いですが、気の所為です。
取り敢えず無難な言葉を探し出し、無駄に震えぬよう、気を付けて声を出しました。
「こんな所で何をしているのですか……。」
僕としては上々な出来でした。
声を出したのと同じタイミングで、周囲が静かになってくれたのも良かった。
さほどの大声を出さずとも、僕の声はサロンの壁際まで届いたはずです。
なのに、肝心の……レオ様には届かなかったようです。
レオ様に振り向いて貰えませんでした。
周囲の者達からの注意だけは引いてしまったらしく、視線を浴びる僕はとても居た堪れない思いを感じました。
公務の時に注目されるのは当然ですし、そうでなくとも普段から第二皇子として周囲から見られる事には慣れています。
ですが……。
こうして、緊張しながら話し掛けたレオ様に気が付いて貰えなかったという場面を、ジッと見守られるのは。とても居心地が悪いです。
サロンが静まったままな事も、落ち着きません。
どうか皆さん、僕に気を遣わずに、それぞれに寛いでいて貰って構わないんですよ?
「何をしているのかと、私は聞きましたが……?」
きっと僕の声は自分が感じたよりも小さかったのだ、と。
そう思い直して、さっきよりも大きめに声を……。
出そうとしたのですが。無理でした。
変な所で声が区切れてしまうような有り様です。
自分でも情けなく感じて、言いながら僕は、視線をレオ様から逸らしました。
隣に来てくれたクリスの存在感にホッとします。
ようやく復活したのでしょうから、ここから先はクリスに任せましょう。
これでも僕は充分にやりました。一先ずはレオ様に声を掛ける事が出来たのですから、僕の役目はこれで終わりにします。
緊張感から解き放された僕は、ふと、レイモンド様の衣装が気になりました。
確か今日は、歴史上の人物に仮装すると聞いています。
ベッドにしどけなく横たわる太腿は、大きなスリットで剥き出しになっており。
腕は肩の部分から全てがシースルーで透けており。
胸元は大きく開いていました。
恐らく背中も同様でしょう。
その姿と『歴史上の人物』というキーワードとが結び付いた時。
それが『マーダー・ムヤン』の仮装だと理解した時。
僕は一気に不愉快な気分になりました。
普段ならばそんな風に、僕の気分が急激に変わる事などありません。
今は、寸前までの激しい緊張感の所為で。
そこから解放された反動で、緊張感が丸々、怒りへと変換されてしまったのです。
「行きましょう、クリス。不愉快です。」
このままここに居れば、不機嫌さで僕の顔が崩れてしまう。
そう思った瞬間。
僕の足は既に、サロンを出る為に歩き出していました。
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