人形皇子は表情が乏しい自覚が無い

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学園の感謝祭にて

学園の感謝祭にて・8  ◇長男レオナルド視点

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思い思いに色々な人間が休憩したり、会話を楽しんだり。
決してうるさくはねぇが、雑多な賑やかさが落ち着く……ハズの、サロンの一角が。


悪い意味でオレの注意力を、暴力的なまでに奪い取った。



透け透けな腕に、ガッパリ開いた背中、そして胸元。
切り込みが深すぎて太腿までほぼ丸出しに近い。
うなじを見せ付けるように纏め上げた髪型だが、横側の髪の毛は、男に媚びるように一房ずつ垂らしている。無意識でかワザとか知らんが、それを掻き上げる仕草がやけに、ワザとらしくもギコチねぇ。
ゴリっゴリに、場末の売春婦を思わせる濃い化粧をしてもなお余りある、いつも以上に男臭さを振り撒いてる……変わり果てる事すら叶わなかった我が弟、レイモンド。


浮きに浮きまくった弟の姿に、オレは気が遠くなりそうだった。

余りにもひでぇ。
……だがその分、逆に目が離せねぇ。




「レイモンド様っ、とっても素敵ですよっ。」
「流石ですぅ、お似合いですぅ。」

はしゃぐ後輩達の声が聞こえなくとも、あの、どうしようもねぇ女装野郎がレイだって事は、遥か離れた位置から既に丸分かりだった。
信じられねぇ事に、レイの同級生達はあの出来栄えに疑問を抱いてないようだ。
寄ってたかって群がって、口々に褒め称える言葉をレイにくれてやってる。



「………。」

あからさまな社交辞令を浴びながら、レイは涼しい顔だ。
まるで女王にでもなったような気分でいるのか、同級生から恭しい所作でピンヒールを履かされている自分の足元を、満足そうに眺めてる。
その横顔ですら、ガチでレイモンドだ。


兄ちゃんは、な……お前は、もっと上手く女装をこなせると思ってたぞ、レイ。
何だ、そのザマは。
せめて口の奥に綿を頬張って、顔に女性らしい丸みを持たせるとか……方法は色々とあっただろうがよ。



「レイモンド様、はいっ。これをお持ちになってくださいっ。」

同級生らしき女子生徒が大きな扇をレイに持たせた。
受け取ったレイは確認するような動きで、ゆったりと扇を翻して見せる。
その上、「ふぅ…っ」とかナントカ、いい女ぶった溜息まで吐いた。


おいコラ、勘違いするんじゃねぇぞ、レイモンド。
兄のオレだから辛うじて、着てる衣装も手伝ったお陰で、どうにか『女装』したんじゃねぇかと思える程度の出来栄えなんだぞ? この……下手糞がっ。
お前を知らん人間が見たら、今のお前は、ただの『化粧のキツイ男』だからな?
それか、単なる変態だ。

さぁ、ドッチがいい? 選ばせてやる。




「あっ、レオナルド先輩だ。」

お……っと、やべぇ。
憤ってる間に見付かっちまったな。


後輩の誰かがオレに気付いて声を出したのを皮切りに、サロンにいた奴等がコッチへと視線を向けるのが分かった。
オレは気を取り直して、今ちょうど来たばかりだって顔でレイ達へと近付いた。
駆け寄って来たレイの同級生に、オレが持って来た差し入れを渡してやる。
ソイツはオレと同じ隊にいる騎士の弟で、何回か顔を会わせた事もあるんで、相手もオレには慣れたもんだ。
深々と礼をするのに片手を振って返してやり、レイの方を……


……向いて。オレは脱力しそうになった。

周囲の声で気付いたレイが振り返って、そっと口元を扇で隠す仕草の……。
物凄いガチガチの、オカマ感がえげつねぇ。いや……ここまで来れば寧ろ、バリバリのオスかもな。



「レオナルド先輩、わざわざ見に来てくれたんだ~。」
「ん、あぁ……まぁな。」

せっかくオレの周りに集まってくれた何人かの後輩には悪いんだが。
クラスの出し物である喫茶店のコンセプトについて説明してくれてるってのに、中途半端なレイの姿が目に飛び込んで来て、気が散って仕方がねぇんだ。
無言のレイが気取った感じで立ってるのが腹立つ。

そんなに上手い女装でもねぇどころか、失敗気味のクセに、よ。
いいから、とっとと声、掛けて来い。諦めて低い声で喋れ。




「……ところで、先輩。こちらのレディが喫茶店の宣伝で、校舎内をグルっと回って来るんですが……。せっかく来てくれたんだから、先輩がエスコートしてくださいよ。」

説明を終えた後輩に背中を押されて、オレはレイへと二歩も三歩も近付いた。
全く聞いてなかったワケでもねぇんだが、かなり気もそぞろだったのは否めねぇ。


この時点でオレは、完全に、「レイ、その恰好は何だ?」と突っ込めるタイミングを逃したようだ。
同級生から紹介されたレイが無言でオレを見る。
見に来てやった兄貴に対して、何の挨拶もして来ねぇ辺り、今日はこの『女装した別人』設定で押し通すようだ。
レイの同級生も、レイの事をレディとか言う辺り、その設定で行くんだろうな。

だが、よ……? それにしちゃあ、随分とお粗末なんじゃねぇか?



「………。」

改めて正面からレイの顔を見る。


兄としての先入観をナシで見ても……いやマテ、やっぱり酷過ぎねぇか?

この際、衣装がハレンチだってのはどうでもいい。男の肌が多少見えた所でそんなの別に、どうって事はねぇからな。
胸だの背中だの、生の身体が見えれば見える程、男だとバレやすくなるだけだ。
恐らくこいつは『マーダー・ムヤン』の仮装だろうからな、ある程度は露出が多めになるのも仕方ねぇ。

だが!
だったら!
もうちょっと、立ち居振る舞いが女っぽく見えるように、気を配れ!
いくら気取った所でなぁっ、お前の、その立ち方は、完全に野郎だ!
足を肩と平行に開くな、どちらかを若干でも後方に下げろ! 本当に女ならともかく、女装でその立ち方は男っぽさが増すだけだろぉが!

これだからっ! シロォトはっ!



「………。」

そんなオレの胸中を知らんレイは、目を細めて唇を薄く吊り上げた。
普段は見せねぇ表情だ。
本人的には、女っぽく微笑したツモリでいるんだろうが。
レイモンド感がグッと上がっただけだった。


いい加減にしろ、本当に、いい加減にしろ。
マジで酷いぞ、なんでこんなにケバケバしい化粧をしてるのに、何処からどう見てもレイモンドなんだ?
オレの弟はこんなに顔面の自己主張が激しかったか?
遠くから見ても酷かったが、近くで見れば見る程、顔がレイモンド百パーセント……あぁそうだな、化粧をしてる分だけ、二パーセント下げてやる……九十八パーセント、見た目がレイモンドなのをどうにかしろ!
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