26 / 60
学園の感謝祭にて
学園の感謝祭にて・8 ◇長男レオナルド視点
しおりを挟む
思い思いに色々な人間が休憩したり、会話を楽しんだり。
決してうるさくはねぇが、雑多な賑やかさが落ち着く……ハズの、サロンの一角が。
悪い意味でオレの注意力を、暴力的なまでに奪い取った。
透け透けな腕に、ガッパリ開いた背中、そして胸元。
切り込みが深すぎて太腿までほぼ丸出しに近い。
うなじを見せ付けるように纏め上げた髪型だが、横側の髪の毛は、男に媚びるように一房ずつ垂らしている。無意識でかワザとか知らんが、それを掻き上げる仕草がやけに、ワザとらしくもギコチねぇ。
ゴリっゴリに、場末の売春婦を思わせる濃い化粧をしてもなお余りある、いつも以上に男臭さを振り撒いてる……変わり果てる事すら叶わなかった我が弟、レイモンド。
浮きに浮きまくった弟の姿に、オレは気が遠くなりそうだった。
余りにもひでぇ。
……だがその分、逆に目が離せねぇ。
「レイモンド様っ、とっても素敵ですよっ。」
「流石ですぅ、お似合いですぅ。」
はしゃぐ後輩達の声が聞こえなくとも、あの、どうしようもねぇ女装野郎がレイだって事は、遥か離れた位置から既に丸分かりだった。
信じられねぇ事に、レイの同級生達はあの出来栄えに疑問を抱いてないようだ。
寄ってたかって群がって、口々に褒め称える言葉をレイにくれてやってる。
「………。」
あからさまな社交辞令を浴びながら、レイは涼しい顔だ。
まるで女王にでもなったような気分でいるのか、同級生から恭しい所作でピンヒールを履かされている自分の足元を、満足そうに眺めてる。
その横顔ですら、ガチでレイモンドだ。
兄ちゃんは、な……お前は、もっと上手く女装をこなせると思ってたぞ、レイ。
何だ、そのザマは。
せめて口の奥に綿を頬張って、顔に女性らしい丸みを持たせるとか……方法は色々とあっただろうがよ。
「レイモンド様、はいっ。これをお持ちになってくださいっ。」
同級生らしき女子生徒が大きな扇をレイに持たせた。
受け取ったレイは確認するような動きで、ゆったりと扇を翻して見せる。
その上、「ふぅ…っ」とかナントカ、いい女ぶった溜息まで吐いた。
おいコラ、勘違いするんじゃねぇぞ、レイモンド。
兄のオレだから辛うじて、着てる衣装も手伝ったお陰で、どうにか『女装』したんじゃねぇかと思える程度の出来栄えなんだぞ? この……下手糞がっ。
お前を知らん人間が見たら、今のお前は、ただの『化粧のキツイ男』だからな?
それか、単なる変態だ。
さぁ、ドッチがいい? 選ばせてやる。
「あっ、レオナルド先輩だ。」
お……っと、やべぇ。
憤ってる間に見付かっちまったな。
後輩の誰かがオレに気付いて声を出したのを皮切りに、サロンにいた奴等がコッチへと視線を向けるのが分かった。
オレは気を取り直して、今ちょうど来たばかりだって顔でレイ達へと近付いた。
駆け寄って来たレイの同級生に、オレが持って来た差し入れを渡してやる。
ソイツはオレと同じ隊にいる騎士の弟で、何回か顔を会わせた事もあるんで、相手もオレには慣れたもんだ。
深々と礼をするのに片手を振って返してやり、レイの方を……
……向いて。オレは脱力しそうになった。
周囲の声で気付いたレイが振り返って、そっと口元を扇で隠す仕草の……。
物凄いガチガチの、オカマ感がえげつねぇ。いや……ここまで来れば寧ろ、バリバリのオスかもな。
「レオナルド先輩、わざわざ見に来てくれたんだ~。」
「ん、あぁ……まぁな。」
せっかくオレの周りに集まってくれた何人かの後輩には悪いんだが。
クラスの出し物である喫茶店のコンセプトについて説明してくれてるってのに、中途半端なレイの姿が目に飛び込んで来て、気が散って仕方がねぇんだ。
無言のレイが気取った感じで立ってるのが腹立つ。
そんなに上手い女装でもねぇどころか、失敗気味のクセに、よ。
いいから、とっとと声、掛けて来い。諦めて低い声で喋れ。
「……ところで、先輩。こちらのレディが喫茶店の宣伝で、校舎内をグルっと回って来るんですが……。せっかく来てくれたんだから、先輩がエスコートしてくださいよ。」
説明を終えた後輩に背中を押されて、オレはレイへと二歩も三歩も近付いた。
全く聞いてなかったワケでもねぇんだが、かなり気もそぞろだったのは否めねぇ。
この時点でオレは、完全に、「レイ、その恰好は何だ?」と突っ込めるタイミングを逃したようだ。
同級生から紹介されたレイが無言でオレを見る。
見に来てやった兄貴に対して、何の挨拶もして来ねぇ辺り、今日はこの『女装した別人』設定で押し通すようだ。
レイの同級生も、レイの事をレディとか言う辺り、その設定で行くんだろうな。
だが、よ……? それにしちゃあ、随分とお粗末なんじゃねぇか?
「………。」
改めて正面からレイの顔を見る。
兄としての先入観をナシで見ても……いやマテ、やっぱり酷過ぎねぇか?
この際、衣装がハレンチだってのはどうでもいい。男の肌が多少見えた所でそんなの別に、どうって事はねぇからな。
胸だの背中だの、生の身体が見えれば見える程、男だとバレやすくなるだけだ。
恐らくこいつは『マーダー・ムヤン』の仮装だろうからな、ある程度は露出が多めになるのも仕方ねぇ。
だが!
だったら!
もうちょっと、立ち居振る舞いが女っぽく見えるように、気を配れ!
いくら気取った所でなぁっ、お前の、その立ち方は、完全に野郎だ!
足を肩と平行に開くな、どちらかを若干でも後方に下げろ! 本当に女ならともかく、女装でその立ち方は男っぽさが増すだけだろぉが!
これだからっ! シロォトはっ!
「………。」
そんなオレの胸中を知らんレイは、目を細めて唇を薄く吊り上げた。
普段は見せねぇ表情だ。
本人的には、女っぽく微笑したツモリでいるんだろうが。
レイモンド感がグッと上がっただけだった。
いい加減にしろ、本当に、いい加減にしろ。
マジで酷いぞ、なんでこんなにケバケバしい化粧をしてるのに、何処からどう見てもレイモンドなんだ?
オレの弟はこんなに顔面の自己主張が激しかったか?
遠くから見ても酷かったが、近くで見れば見る程、顔がレイモンド百パーセント……あぁそうだな、化粧をしてる分だけ、二パーセント下げてやる……九十八パーセント、見た目がレイモンドなのをどうにかしろ!
決してうるさくはねぇが、雑多な賑やかさが落ち着く……ハズの、サロンの一角が。
悪い意味でオレの注意力を、暴力的なまでに奪い取った。
透け透けな腕に、ガッパリ開いた背中、そして胸元。
切り込みが深すぎて太腿までほぼ丸出しに近い。
うなじを見せ付けるように纏め上げた髪型だが、横側の髪の毛は、男に媚びるように一房ずつ垂らしている。無意識でかワザとか知らんが、それを掻き上げる仕草がやけに、ワザとらしくもギコチねぇ。
ゴリっゴリに、場末の売春婦を思わせる濃い化粧をしてもなお余りある、いつも以上に男臭さを振り撒いてる……変わり果てる事すら叶わなかった我が弟、レイモンド。
浮きに浮きまくった弟の姿に、オレは気が遠くなりそうだった。
余りにもひでぇ。
……だがその分、逆に目が離せねぇ。
「レイモンド様っ、とっても素敵ですよっ。」
「流石ですぅ、お似合いですぅ。」
はしゃぐ後輩達の声が聞こえなくとも、あの、どうしようもねぇ女装野郎がレイだって事は、遥か離れた位置から既に丸分かりだった。
信じられねぇ事に、レイの同級生達はあの出来栄えに疑問を抱いてないようだ。
寄ってたかって群がって、口々に褒め称える言葉をレイにくれてやってる。
「………。」
あからさまな社交辞令を浴びながら、レイは涼しい顔だ。
まるで女王にでもなったような気分でいるのか、同級生から恭しい所作でピンヒールを履かされている自分の足元を、満足そうに眺めてる。
その横顔ですら、ガチでレイモンドだ。
兄ちゃんは、な……お前は、もっと上手く女装をこなせると思ってたぞ、レイ。
何だ、そのザマは。
せめて口の奥に綿を頬張って、顔に女性らしい丸みを持たせるとか……方法は色々とあっただろうがよ。
「レイモンド様、はいっ。これをお持ちになってくださいっ。」
同級生らしき女子生徒が大きな扇をレイに持たせた。
受け取ったレイは確認するような動きで、ゆったりと扇を翻して見せる。
その上、「ふぅ…っ」とかナントカ、いい女ぶった溜息まで吐いた。
おいコラ、勘違いするんじゃねぇぞ、レイモンド。
兄のオレだから辛うじて、着てる衣装も手伝ったお陰で、どうにか『女装』したんじゃねぇかと思える程度の出来栄えなんだぞ? この……下手糞がっ。
お前を知らん人間が見たら、今のお前は、ただの『化粧のキツイ男』だからな?
それか、単なる変態だ。
さぁ、ドッチがいい? 選ばせてやる。
「あっ、レオナルド先輩だ。」
お……っと、やべぇ。
憤ってる間に見付かっちまったな。
後輩の誰かがオレに気付いて声を出したのを皮切りに、サロンにいた奴等がコッチへと視線を向けるのが分かった。
オレは気を取り直して、今ちょうど来たばかりだって顔でレイ達へと近付いた。
駆け寄って来たレイの同級生に、オレが持って来た差し入れを渡してやる。
ソイツはオレと同じ隊にいる騎士の弟で、何回か顔を会わせた事もあるんで、相手もオレには慣れたもんだ。
深々と礼をするのに片手を振って返してやり、レイの方を……
……向いて。オレは脱力しそうになった。
周囲の声で気付いたレイが振り返って、そっと口元を扇で隠す仕草の……。
物凄いガチガチの、オカマ感がえげつねぇ。いや……ここまで来れば寧ろ、バリバリのオスかもな。
「レオナルド先輩、わざわざ見に来てくれたんだ~。」
「ん、あぁ……まぁな。」
せっかくオレの周りに集まってくれた何人かの後輩には悪いんだが。
クラスの出し物である喫茶店のコンセプトについて説明してくれてるってのに、中途半端なレイの姿が目に飛び込んで来て、気が散って仕方がねぇんだ。
無言のレイが気取った感じで立ってるのが腹立つ。
そんなに上手い女装でもねぇどころか、失敗気味のクセに、よ。
いいから、とっとと声、掛けて来い。諦めて低い声で喋れ。
「……ところで、先輩。こちらのレディが喫茶店の宣伝で、校舎内をグルっと回って来るんですが……。せっかく来てくれたんだから、先輩がエスコートしてくださいよ。」
説明を終えた後輩に背中を押されて、オレはレイへと二歩も三歩も近付いた。
全く聞いてなかったワケでもねぇんだが、かなり気もそぞろだったのは否めねぇ。
この時点でオレは、完全に、「レイ、その恰好は何だ?」と突っ込めるタイミングを逃したようだ。
同級生から紹介されたレイが無言でオレを見る。
見に来てやった兄貴に対して、何の挨拶もして来ねぇ辺り、今日はこの『女装した別人』設定で押し通すようだ。
レイの同級生も、レイの事をレディとか言う辺り、その設定で行くんだろうな。
だが、よ……? それにしちゃあ、随分とお粗末なんじゃねぇか?
「………。」
改めて正面からレイの顔を見る。
兄としての先入観をナシで見ても……いやマテ、やっぱり酷過ぎねぇか?
この際、衣装がハレンチだってのはどうでもいい。男の肌が多少見えた所でそんなの別に、どうって事はねぇからな。
胸だの背中だの、生の身体が見えれば見える程、男だとバレやすくなるだけだ。
恐らくこいつは『マーダー・ムヤン』の仮装だろうからな、ある程度は露出が多めになるのも仕方ねぇ。
だが!
だったら!
もうちょっと、立ち居振る舞いが女っぽく見えるように、気を配れ!
いくら気取った所でなぁっ、お前の、その立ち方は、完全に野郎だ!
足を肩と平行に開くな、どちらかを若干でも後方に下げろ! 本当に女ならともかく、女装でその立ち方は男っぽさが増すだけだろぉが!
これだからっ! シロォトはっ!
「………。」
そんなオレの胸中を知らんレイは、目を細めて唇を薄く吊り上げた。
普段は見せねぇ表情だ。
本人的には、女っぽく微笑したツモリでいるんだろうが。
レイモンド感がグッと上がっただけだった。
いい加減にしろ、本当に、いい加減にしろ。
マジで酷いぞ、なんでこんなにケバケバしい化粧をしてるのに、何処からどう見てもレイモンドなんだ?
オレの弟はこんなに顔面の自己主張が激しかったか?
遠くから見ても酷かったが、近くで見れば見る程、顔がレイモンド百パーセント……あぁそうだな、化粧をしてる分だけ、二パーセント下げてやる……九十八パーセント、見た目がレイモンドなのをどうにかしろ!
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
皇帝の立役者
白鳩 唯斗
BL
実の弟に毒を盛られた。
「全てあなた達が悪いんですよ」
ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。
その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。
目を開けると、数年前に回帰していた。
紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる