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学園の感謝祭にて
学園の感謝祭にて・3 ◇俯瞰視点
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「それなりの距離を歩くんだから、こうした方がバランスがいいだろ。」
ぞんざいに言った長男は、一向に掴まろうとしない次男の手を取って、さっさと自分の腕に掴まらせる。
長男の急な動きでバランスを崩し掛けた次男は仕方なく、転倒防止の為に長男の腕に自分の手を絡め、体重を預けざるを得なかった。
兄の腕に縋り付く体勢を取らされた次男が不愉快そうに眉と唇を寄せる。
「おい……私だ。」
「……ぅん?」
「だから……私だ。お前の弟の、レイモンドだ。……男だっ。」
ようやく自らの正体を明かした次男。羞恥の所為か、わなわなと唇を震わせている。
そんな次男の姿を、その全身を長男は無言で眺め回した。
「……そうか、お前はレイモンドだったのか、気付かなかった。」
次男の顔へと視線を戻した長男は、スッ…と真顔になった。
半眼の視線を浴び、居心地の悪そうな表情で次男が頷く。
「時間が勿体ねぇ。さっさと校内を周るぞ。」
「あっ……!」
相手が弟だと判明したからか。
長男は容赦なく、次男を自分の腕に掴まらせたまま踵を返した。
慌てて次男もそれに付いて行こうとしたものの、長男は歩く歩幅も大きかった。
慣れていない者がピンヒールを履いた状態で素早く動くのには無理があったのだろうし、ほぼシルクのスカートが足に纏わり付いた所為もあり。次男は体勢を崩し、そのまましゃがみ込むような姿勢で転んでしまう。
「あぁ……ホラ、だから……。……チッ。」
苛立ったように舌打ちはすれども、弟の事は心配なのだろう。
座り込んだような形の次男の横に膝を着くと、助け起こす為に次男の背中を手で支えてやる。
長男は珍しい事に、彼にしては本当に、とても珍しい事に。次男に向かって比較的、長男の割には優しげな微笑を見せた。
「派手に転んだな。……立てるか?」
「少し目眩がしただけだ。問題は無い。」
「オイ、こらっ。」
次男の返事を聞いた長男はにわかに表情を険しくする。
背中を支えてやっているのとは逆の手を、次男の前に差し出していたのだが。そちらの手を、床に座り込んでいる次男の太ももの裏側に差し込む。
そのまま一気に、次男が何事か文句を言う前に抱き上げた。
サロンの壁際にあるソファーへと、長男は次男をお姫様抱っこで運ぶ。
驚いた様子の次男だが、抵抗しようと足をバタつかせた所で無駄だと悟り、長男の首元に掴まって大人しく運ばれていた。
その様子の見た目だけは……次男の服装が破廉恥である事に目を瞑れば……、更に言えば、抱き上げた際にスカートが太ももの真ん中辺りまで捲れ上がっている事を気にしなければ……とても絵になる構図だった。
「横になって少し休め。……足の方は大丈夫か?」
「何を大袈裟な…」
「目眩を甘く見るんじゃねぇ。……ったく。いいから……大人しくしてろ。」
起き上がろうとした次男を長男が叱って、再びソファーへと少々強引に寝かせる。
子供にでもするかのように、長男が次男の頭をぽふぽふと柔らかく触れた時。
「こんな所で何をしているのですか?」
冷ややかという一言では到底言い表せない程の硬い声がサロンに響いた。
それまでのサロンは、つい先程の長男と次男との遣り取りが人々の耳目を集めてはいたものの、それでも何処かワイワイとした、イベントに浮き立つような雰囲気があった。
その雰囲気は今の一声で完全に霧散し、辺りはシン……と静まり返る。
「何をしているのかと、私は聞きましたが……?」
重ねて問い掛けるのはこの国の第二皇子だった。
常日頃から大きな感情の動きを見せない第二皇子の顔は、今この場でも、まるで氷の仮面を着けているかのような氷点下の視線をソファーへと向けている。
第二皇子の隣、およそ半歩程下がった位置には第一皇子の姿もあった。
第一皇子の口元は第二皇子と対照的に、緩やかに吊り上がっている。
しかし秀麗な眉は顰められ、その視線は汚いものを見るかのように嫌悪感に満ちていた。口元の笑みもよくよく見れば微かに戦慄いており、形だけの微笑を作り出しただけなのだろう。
「………。」
無言のまま、皇子二人へと振り向いた長男。
その顔にはありありと、面倒な時に面倒な相手が現れた事への不快感が滲んでいた。
「………。」
俯いた次男も言葉を発しない。
まさか皇子を相手に無視を決め込む気だろうか?
誰も返事をしない中を、皇子二人はゆっくりとソファーの方へ近付いて行く。
ふと、第二皇子の歩みが止まる。
僅かに見開かれた目の先には、次男の破廉恥なスカートがあった。
恐らくは無意識の内に次男が身動ぎしたのだろう。太腿まで布がずり上がっている。
見る見ると第二皇子の表情が険しくなった。
『仮面皇子』と称される第二皇子にしては珍しい事だ。
「こっ、……これは、転倒した…」
「行きましょう、クリス。不愉快です。」
長男が口を開いたのと、第二皇子が踵を返したのは同時だった。
それらを見た第一皇子は、やれやれ……と言うように、緩やかにかぶりを振る。
「ま、待て……、違うっ…、……っ! 」
言葉を続けようとした長男の前に、第一皇子が悠然と立ち塞がった。
追いすがるなど許さない、と言うような視線で見下ろされた長男が口を噤む。
そうしている間にも第二皇子は、彼らしからぬ早い足取りで遠ざかってしまった。
残った第一皇子が不意に小首を傾げて、次男を覗き込んだ。
それから長男へと視線を戻し、微笑する口元を嘲りの形に変えながら。
「お似合いですよ? ……とっても。」
言い返されないという事に確信があるのだろう。
誰からの返事も待たず、第一皇子は優雅な足取りでサロンから立ち去って行った。
ぞんざいに言った長男は、一向に掴まろうとしない次男の手を取って、さっさと自分の腕に掴まらせる。
長男の急な動きでバランスを崩し掛けた次男は仕方なく、転倒防止の為に長男の腕に自分の手を絡め、体重を預けざるを得なかった。
兄の腕に縋り付く体勢を取らされた次男が不愉快そうに眉と唇を寄せる。
「おい……私だ。」
「……ぅん?」
「だから……私だ。お前の弟の、レイモンドだ。……男だっ。」
ようやく自らの正体を明かした次男。羞恥の所為か、わなわなと唇を震わせている。
そんな次男の姿を、その全身を長男は無言で眺め回した。
「……そうか、お前はレイモンドだったのか、気付かなかった。」
次男の顔へと視線を戻した長男は、スッ…と真顔になった。
半眼の視線を浴び、居心地の悪そうな表情で次男が頷く。
「時間が勿体ねぇ。さっさと校内を周るぞ。」
「あっ……!」
相手が弟だと判明したからか。
長男は容赦なく、次男を自分の腕に掴まらせたまま踵を返した。
慌てて次男もそれに付いて行こうとしたものの、長男は歩く歩幅も大きかった。
慣れていない者がピンヒールを履いた状態で素早く動くのには無理があったのだろうし、ほぼシルクのスカートが足に纏わり付いた所為もあり。次男は体勢を崩し、そのまましゃがみ込むような姿勢で転んでしまう。
「あぁ……ホラ、だから……。……チッ。」
苛立ったように舌打ちはすれども、弟の事は心配なのだろう。
座り込んだような形の次男の横に膝を着くと、助け起こす為に次男の背中を手で支えてやる。
長男は珍しい事に、彼にしては本当に、とても珍しい事に。次男に向かって比較的、長男の割には優しげな微笑を見せた。
「派手に転んだな。……立てるか?」
「少し目眩がしただけだ。問題は無い。」
「オイ、こらっ。」
次男の返事を聞いた長男はにわかに表情を険しくする。
背中を支えてやっているのとは逆の手を、次男の前に差し出していたのだが。そちらの手を、床に座り込んでいる次男の太ももの裏側に差し込む。
そのまま一気に、次男が何事か文句を言う前に抱き上げた。
サロンの壁際にあるソファーへと、長男は次男をお姫様抱っこで運ぶ。
驚いた様子の次男だが、抵抗しようと足をバタつかせた所で無駄だと悟り、長男の首元に掴まって大人しく運ばれていた。
その様子の見た目だけは……次男の服装が破廉恥である事に目を瞑れば……、更に言えば、抱き上げた際にスカートが太ももの真ん中辺りまで捲れ上がっている事を気にしなければ……とても絵になる構図だった。
「横になって少し休め。……足の方は大丈夫か?」
「何を大袈裟な…」
「目眩を甘く見るんじゃねぇ。……ったく。いいから……大人しくしてろ。」
起き上がろうとした次男を長男が叱って、再びソファーへと少々強引に寝かせる。
子供にでもするかのように、長男が次男の頭をぽふぽふと柔らかく触れた時。
「こんな所で何をしているのですか?」
冷ややかという一言では到底言い表せない程の硬い声がサロンに響いた。
それまでのサロンは、つい先程の長男と次男との遣り取りが人々の耳目を集めてはいたものの、それでも何処かワイワイとした、イベントに浮き立つような雰囲気があった。
その雰囲気は今の一声で完全に霧散し、辺りはシン……と静まり返る。
「何をしているのかと、私は聞きましたが……?」
重ねて問い掛けるのはこの国の第二皇子だった。
常日頃から大きな感情の動きを見せない第二皇子の顔は、今この場でも、まるで氷の仮面を着けているかのような氷点下の視線をソファーへと向けている。
第二皇子の隣、およそ半歩程下がった位置には第一皇子の姿もあった。
第一皇子の口元は第二皇子と対照的に、緩やかに吊り上がっている。
しかし秀麗な眉は顰められ、その視線は汚いものを見るかのように嫌悪感に満ちていた。口元の笑みもよくよく見れば微かに戦慄いており、形だけの微笑を作り出しただけなのだろう。
「………。」
無言のまま、皇子二人へと振り向いた長男。
その顔にはありありと、面倒な時に面倒な相手が現れた事への不快感が滲んでいた。
「………。」
俯いた次男も言葉を発しない。
まさか皇子を相手に無視を決め込む気だろうか?
誰も返事をしない中を、皇子二人はゆっくりとソファーの方へ近付いて行く。
ふと、第二皇子の歩みが止まる。
僅かに見開かれた目の先には、次男の破廉恥なスカートがあった。
恐らくは無意識の内に次男が身動ぎしたのだろう。太腿まで布がずり上がっている。
見る見ると第二皇子の表情が険しくなった。
『仮面皇子』と称される第二皇子にしては珍しい事だ。
「こっ、……これは、転倒した…」
「行きましょう、クリス。不愉快です。」
長男が口を開いたのと、第二皇子が踵を返したのは同時だった。
それらを見た第一皇子は、やれやれ……と言うように、緩やかにかぶりを振る。
「ま、待て……、違うっ…、……っ! 」
言葉を続けようとした長男の前に、第一皇子が悠然と立ち塞がった。
追いすがるなど許さない、と言うような視線で見下ろされた長男が口を噤む。
そうしている間にも第二皇子は、彼らしからぬ早い足取りで遠ざかってしまった。
残った第一皇子が不意に小首を傾げて、次男を覗き込んだ。
それから長男へと視線を戻し、微笑する口元を嘲りの形に変えながら。
「お似合いですよ? ……とっても。」
言い返されないという事に確信があるのだろう。
誰からの返事も待たず、第一皇子は優雅な足取りでサロンから立ち去って行った。
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