人形皇子は表情が乏しい自覚が無い

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学園の感謝祭にて

人形皇子を見に来た王子  ◇俯瞰視点

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大陸の端、海に面した地域には様々な国家が乱立している。
国土が狭いという意味での小国もあれば、そこそこの国面積があっても殆どが荒涼としており国力が低い為に小国扱いされている国もある。街と呼べるものが一つしかなく周囲の村も併せて、かろうじて国だと認められているような国もあった。

いずれも単体では軽んじられてしまう存在の国々は、昔は『小さきもの』同士で争った過去もあるものの、近代になって『小国連合シーズベルド』という協力体制を築く事に成功していた。
そのお陰で近年はようやく、大国とも交流を図れるようになって来ているのだ。


連合議会の議員でもあり、連合参加国ヴァイルズの王子でもあるフリードリヒ・デュヴァイツがリーヴェルト帝国を訪れたのも、いわゆる『顔繋ぎ』的な外交の一環だった。
特に急いで何かを約束したり、状況を進展させる為では無い。
国同士の、例えば交換留学だったり、技術協力だったり、国家規模の大きな輸入・輸出といった『成果』とは話を別にして。要人達が行き来し、互いの国について知るという事も重要だった。

外遊に来た議員王子は今回、リーヴェルト帝国を含めて諸国を三つ回る予定だ。
しかし議員王子の一番も目的はこの国だった。
噂に聞く、リーヴェルトの『人形皇子』クリスティを見に来たのだ。

皇城での挨拶時に、絵姿ではない実物の姿を確認した。
その上で議員王子は、ヴェルデュール学園の感謝祭に紛れ込んだ。



「人形皇子と名高い第一皇子とは、どれ程のものかと思えば……。」

第一皇子を見るという目的を果たして馬車へと向かう、途中の生け垣の合間で。
中庭テラスで邂逅した時の様子を思い浮かべ、議員王子は呟いた。
歩みを止めた議員王子の表情も口調も、不満そうに歪んでいる。


「拍子抜けしてしまった。」
「勝手な期待を掛けておいて、その言葉は酷いのでは?」

端的に低評価を下した議員王子の言葉を、付添人がやんわりと窘める。
他に人影が無いとは言え、誰かに聞かせたい言葉ではなかった。
外交をしに来た立場を議員王子に思い出させるかのように、付添人は厳しい顔だ。


「わたしがこう言うのも仕方があるまい? 非常に残念だと感じている。それがわたしの、正直な気持ちなのだよ。全く……紛らわしい呼ばれ方をしおってからに。」
「最近まで、他国の情報はあまり収集していなかった。これがそのツケですね。次からはお気を付けください。」
「……それはそうと。……第一皇子と比べれば、第二皇子の方がよっぽど人形のようではなかったか。第二皇子ならば恐らく、立派な『人形皇子』として……ふっ…、我が国へ来れば人気者となるであろうな。お前も、そう思うだろう?」
「まさか……連れ帰りたい、とでも仰りますか?」

付添人は咎める視線を議員王子に向けた。
議員王子は緩やかに首を振る。


ふと、誰か人の気配がした……が。
特に誰も見当たらない。


完全に気の所為とも言い切れない為、議員王子達は歩き出す事とした。



「とりあえず『人形皇子』の件については捨て置く。ただの期待外れだ。第一皇子か、第二皇子か……それも含めて、国に戻ってから検討する。その方向で良いであろう。」
「フリードリヒ様がそれで良いのならば構いません。」
「そのように冷たい事を言わないでおくれ。」

芝居掛かった仕草で議員王子が嘆いてみせる。
だが次の瞬間。唇にはニヤリとした笑みが浮かび、瞳は野心的な光を帯びた。


「ヴァイルズに戻ったら、わたしの婚約話について改めて、国王や重鎮達と話そうではないか。側近達は概ね賛同する方向だ。……帝国とも、それなりに良い付き合いが出来るであろう。」
「……それは良かった。」

ホッとしたような付添人に議員王子が頷きで返す。
それ以降、人形皇子の話題が出る事は無かった。
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