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学園の感謝祭にて

学園の感謝祭にて・10  ◇第一皇子クリスティ視点

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ヴェルデュール学園で開催されるイベントの一つに『学園感謝祭』って大きな祭事があるんだけどさ。
これが毎年毎年、とにかく凄いんだ。メッチャ盛り上がる。
一年に一度しかないのがすっごい残念。

主体となって盛り上がってる学生達の熱量も凄いんだけど、学園を卒業した先輩達とか、関係無いけど有名なヴェルデュール学園の敷地内に入ってみたい人達とか……あと、外国からも見物に来たりもしてるぐらいだぞ。

どこのクラスも趣向を凝らして、思い思いの出し物で競い合うんだ。
俺が通ってた時は……なぁ~んて、昔の話みたいに言ってるけど二年前だ……クラスの出し物は魔法技術を使ったものが多かったなぁ。
第一皇子って立場があるから、あんまり何でもは手伝えなかったけど。
子供向けに『なかなか割れないシャボン玉で遊ぶ』って出し物をやった時は、一緒に子供達と遊んだりして、楽しかったのを覚えてる。




「あ~……、あの子達もきっと、『感謝祭カップル』だなぁ。」

そんな風に思い出しながら、ジェフと二人で……近衛兵や従者は人数にカウントしなくていいよな……歩いてたら。
学園の正門から入った広場のベンチで、待ち合わせの相手とたった今合流したばっかりって感じの二人組。
お互いに初々しい態度だし、あれはきっと、間違いなく、そうだ。

感謝祭のワクワクした雰囲気とか、準備期間中に一緒に頑張ったりした経験とか、そういうのが組み合わさって、感謝祭三日目の最終日には幾つものカップルが出来上がってるんだよねぇ。……大体は、学年が変わる前に別れてるみたいだけどな。



「クリス……言い方。」

俺の言い方を注意するジェフの言い方が可愛くない。
せっかく感謝祭の初日に連れて来てあげたのに、楽しまなきゃ損だぞ~?


「ジェフにもさ? あ~いう、甘酸っぱい事って、あった?」
「あるわけがないでしょう? 知っているでしょう? あったら問題ですよ?」
「いやいや、内心はどうなのかって、本人以外には分からないからねぇ。」

お互いに唇を小さく開いて、ポソポソ喋り合う。
大口を開けて喋るのが皇子らしくないって単純な理由もあるけど、それ以外にも一応、何を喋ってるのか周囲には分からないよう気を付けてるツモリだった。


広場を並んで歩く俺達の周囲はちょっと空いてる。……うぅん、空けて貰ってた。
少人数の近衛兵と従者だけど、俺のジェフと、それぞれに付けられてるんだ。それがピッタリくっ付いて来られたら流石に邪魔って言うか、せっかくの感謝祭の出し物が見えなくなるじゃないか。何しに来たんだよ、って話になるだろ。
だから悪いんだけど、近衛兵と従者にはちょっと離れて貰ってる。

その上で、俺は魔術アイテムで音阻害空間を発生させてある。
上級アイテムの遮音壁ほどじゃないけど、空間内で話した声が、空間の外側じゃ周囲の雑音に負けるレベルにまで落ちるから、かなり聞こえ難くなるって代物だ。
ちなみにぃ~、これは俺が作った自信作。
コンパクトで持ち運びしやすくて、使い勝手はなかなかだぞ?



「あっ、ジェフ、あの屋台のアレ。甘い物かなぁ、見た事無いんだけど?」

広場には沢山の屋台が並んでて、美味しそうな物を色々と売ってる。
結構庶民的な甘い物が好きな俺は、初めて見るデザートを食べてみたかったのに。


「クリス? いいんですか? ……人出が多くなって忙しくなる前に、挨拶するのではなかったですか?」
「つまんないなぁ、ジェフ。目的地に行く前にちょっと寄り道、って所が楽しいんじゃないか。どっちにしろ、学園の一番奥まで行かなきゃならないんだ。ただただ歩いてるだけじゃ、疲れちゃうぞ? 色々見て楽しみながら行けば、あっという間だろう?」
「僕ならば、楽しむのは目的を果たしてからにします。……先に行きますよ?」
「もうっ……。分かった、分かった。……一人で買い食いしても詰まらないよ。」

置き去りにする勢いでスタスタ行きだしたジェフを、俺は苦笑いで追い掛ける。
急に振り向いたジェフが厳しい声を出した。


「クリス。……か、お。」
「あっ……気を付ける。」

ジェフによる、俺に対する顔面チェックが入った。俺達兄弟の恒例のヤツ。
今のは見えてないだろうって思ったのに、ジェフは厳しい。
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