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定例の交流会にて
定例の交流会にて・10 ◇第二皇子ジェフリー視点
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「そうだろう? ジェフ。」
「……はい、兄上。」
急にクリスが話し掛けてくるものだから、僕は内心、ムッとしました。
いつもいつも、クリスは本当にタイミングが悪い。
今だって、丁度良い具合にレオ様の注意がクリスの方へと向けられたので。この隙にレオ様の顔を眺めようと思った矢先に、クリスからのこの仕打ちです。
しかもクリスは会話の途中で僕の方を向いたもんだから、その流れでレオ様までが僕を見る事になってしまいました。
これじゃあ僕がレオ様を見られない。
今、僕がそちらを見たら…レオ様と見つめ合う事になってしまう。
そんな恥ずかしい状況、とても耐えられない……!
僕はクリスを恨みます。
クリスへの返事がシンプルなものになるのは当然ですよね。
仕方がないので僕は目の前にある料理に視線を落としました。
ピラルゥという白身魚をソテーした物で、僕の大好物の一つなんですが……身が解れやすいのが難点です。
黙ってフォークを入れましたが、今は口に運ぶのは止めておきましょう。
だって、レオ様がこちらを見ているのに、口を開けて食べるなんて無理です。
緊張で手が震えて、白身をフォークから落としてしまうかも知れませんし。
クリスのように美しい『人形』ではなくても、僕だって、黙っていればそれなりの見た目なはずです。
これでも僕は、若い頃は人形のようだった、と言われる父に似ているんですから。
だから頑張って表情を整える事に集中しましょう。
密かに『仮面』と呼ばれるぐらい、僕は、冷静そうな顔を作る事だけは得意なので。
何秒か。何分か。
僕がドキドキしながら魚を見続けていると。
「じ、ジェ…」
「ほぉ? クリスティ殿下は、我が姉と……そのような良い思い出が?」
食堂に響き渡った声はレオ様の弟、レイモンド様でした。
クリスがそちらに顔を向けました。
一方、僕はと言うと。
身体が固まってしまい、何の反応も出来ませんでした。
僕の顔も視線も、全てが止まってしまったような気がします。
だって……聞こえたんです。
――― 「ジェフリー殿下。」
レオ様が僕を、そう呼んでくれたように、聞こえてしまったんです。
余りにも嬉しくて、都合が良い事で、とうとう妄想を拗らせてしまったのかと、自分でも驚きです。
「私は長年、ロザリンドの弟をやっておりますが……。………」
「おや、レイモンド様ともあろう御方が? 何も……。………」
「生憎と私は、子供の頃から好き嫌いや苦手なものが無かった……。………」
クリスがさっそくレイモンド様と話し始めました。
耳から入って来る二人の声は、僕の頭には残らず素通りしていきます。
レオ様も自分の弟やクリスの方へと意識を向けたようです。
僕はそれどころじゃありません。
呼ばれてもいない自分の名を呼ぶレオ様の声が、僕の脳内で響いてしまい、もう……冷静な表情を保つのも難しくなっています。
今にも目が潤むか、ニヤけるか。いっそ叫び出しそうです。
とにかく、崩れ掛けている平常心を保つ為、僕はクリスを眺める事にしました。
綺麗な顔をしているのに僕よりも表情筋が緩い兄上を見て、自分を戒める事で落ち着こうと思ったからです。
ですがそれは、ちょっと失敗だったかも知れません。
あぁ、いえ……半分ぐらいは正解だった、とも言えるでしょうか。
「殿下のような大変お美しく完璧な人物に『苦手なもの』があったとは、お可愛らしい所もあるのですね。」
唐突に……すみません、二人の会話をよく聞いていなかったので流れが分かりません……レイモンド様がクリスを褒めたのです。
社交辞令的な言葉だと分かりそうなものなのに、素直なクリスはそれを真に受けたんでしょうね。喜びで口元が緩み掛けてしまったのを、寸での所で引き締めていました。
危なかったですね。思わず僕は「だらしない顔をしないでください」と注意する所でした。
「レイ……もう、止めろ。」
僕の代わりにレオ様が注意してくれました。
短い言葉にも凛々しさが溢れるような、とても素敵な声で。
何度もレオ様の声が聞けるなんて。
今日はとても幸運な日ですが、ドキドキし過ぎた僕の心臓がもつか心配です。
「……はい、兄上。」
急にクリスが話し掛けてくるものだから、僕は内心、ムッとしました。
いつもいつも、クリスは本当にタイミングが悪い。
今だって、丁度良い具合にレオ様の注意がクリスの方へと向けられたので。この隙にレオ様の顔を眺めようと思った矢先に、クリスからのこの仕打ちです。
しかもクリスは会話の途中で僕の方を向いたもんだから、その流れでレオ様までが僕を見る事になってしまいました。
これじゃあ僕がレオ様を見られない。
今、僕がそちらを見たら…レオ様と見つめ合う事になってしまう。
そんな恥ずかしい状況、とても耐えられない……!
僕はクリスを恨みます。
クリスへの返事がシンプルなものになるのは当然ですよね。
仕方がないので僕は目の前にある料理に視線を落としました。
ピラルゥという白身魚をソテーした物で、僕の大好物の一つなんですが……身が解れやすいのが難点です。
黙ってフォークを入れましたが、今は口に運ぶのは止めておきましょう。
だって、レオ様がこちらを見ているのに、口を開けて食べるなんて無理です。
緊張で手が震えて、白身をフォークから落としてしまうかも知れませんし。
クリスのように美しい『人形』ではなくても、僕だって、黙っていればそれなりの見た目なはずです。
これでも僕は、若い頃は人形のようだった、と言われる父に似ているんですから。
だから頑張って表情を整える事に集中しましょう。
密かに『仮面』と呼ばれるぐらい、僕は、冷静そうな顔を作る事だけは得意なので。
何秒か。何分か。
僕がドキドキしながら魚を見続けていると。
「じ、ジェ…」
「ほぉ? クリスティ殿下は、我が姉と……そのような良い思い出が?」
食堂に響き渡った声はレオ様の弟、レイモンド様でした。
クリスがそちらに顔を向けました。
一方、僕はと言うと。
身体が固まってしまい、何の反応も出来ませんでした。
僕の顔も視線も、全てが止まってしまったような気がします。
だって……聞こえたんです。
――― 「ジェフリー殿下。」
レオ様が僕を、そう呼んでくれたように、聞こえてしまったんです。
余りにも嬉しくて、都合が良い事で、とうとう妄想を拗らせてしまったのかと、自分でも驚きです。
「私は長年、ロザリンドの弟をやっておりますが……。………」
「おや、レイモンド様ともあろう御方が? 何も……。………」
「生憎と私は、子供の頃から好き嫌いや苦手なものが無かった……。………」
クリスがさっそくレイモンド様と話し始めました。
耳から入って来る二人の声は、僕の頭には残らず素通りしていきます。
レオ様も自分の弟やクリスの方へと意識を向けたようです。
僕はそれどころじゃありません。
呼ばれてもいない自分の名を呼ぶレオ様の声が、僕の脳内で響いてしまい、もう……冷静な表情を保つのも難しくなっています。
今にも目が潤むか、ニヤけるか。いっそ叫び出しそうです。
とにかく、崩れ掛けている平常心を保つ為、僕はクリスを眺める事にしました。
綺麗な顔をしているのに僕よりも表情筋が緩い兄上を見て、自分を戒める事で落ち着こうと思ったからです。
ですがそれは、ちょっと失敗だったかも知れません。
あぁ、いえ……半分ぐらいは正解だった、とも言えるでしょうか。
「殿下のような大変お美しく完璧な人物に『苦手なもの』があったとは、お可愛らしい所もあるのですね。」
唐突に……すみません、二人の会話をよく聞いていなかったので流れが分かりません……レイモンド様がクリスを褒めたのです。
社交辞令的な言葉だと分かりそうなものなのに、素直なクリスはそれを真に受けたんでしょうね。喜びで口元が緩み掛けてしまったのを、寸での所で引き締めていました。
危なかったですね。思わず僕は「だらしない顔をしないでください」と注意する所でした。
「レイ……もう、止めろ。」
僕の代わりにレオ様が注意してくれました。
短い言葉にも凛々しさが溢れるような、とても素敵な声で。
何度もレオ様の声が聞けるなんて。
今日はとても幸運な日ですが、ドキドキし過ぎた僕の心臓がもつか心配です。
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